第40話飛空兵団

ラピュタと呼ばれた空飛ぶ要塞は実際のところは大きめの砦といったほうがいいだろう。

それでも明らかに脅威なのは間違いない。

大きさはざっくりとドーム型の野球場ぐらいかな。レンガでできていて、壁中にびっしりとツタのような植物が生えている。


「高度はおよそ百メートルといったところかしら。私たちとの距離は五百メートルぐらい……」

飛空要塞ラピュタを見つめながら、麗華は言う。僕もその目測に賛成だ。

その飛空要塞ラピュタが少しずつ大きく見えてくる。

すなわち、距離をつめてきているということだ。


ボードワン邸でアヴィオールと一緒に本を読んでいるときに、そのラピュタについて書かれていた本を読んだこたがある。

かつて南の大陸を支配していた天空人たちはラピュタのような飛空要塞をいくつもつくり、地上の人々を支配していた。

その支配は永遠に続くかと思われたがある日を境に彼ら天空人たちははるか彼方の空の上に消えていってしまったという。

天空に浮かんでいたほとんどの要塞を引き連れて。

僕たちが目にしているのは宇宙の彼方に行かずにこの地に残ったものだと思われる。



「何か来るよ」

真剣な眼差しで麗華は言う。

真剣な顔も国宝級に美しいな。

おっと麗華の美貌に見とれている場合ではない。

麗華の言う通り、飛空要塞ラピュタから無数の飛行物体がこちらに向けて飛来する。

それは顔が女性で体が鳥のハーピーであったり、鷹の頭に翼の生えた馬の体をしたグリフォン。

巨大な鷲の化け物ロック。

コウモリの翼を生やした典型的な悪魔の姿をしたワーバット。そいつは手に巨大なフォークのような武器を持っていた。


オーディンの義眼越しにそいつらを見る。

すべてが赤い点滅であった。

やはりというか当然というか、視界に映る飛空系の魔物はすべて敵であった。


「瑞白元帥からの伝令です。双頭の蛇の陣形で迎えうつとのことです」

オグマの部隊からやって来た伝令の兵士がそう告げる。


「承知した」

短く伝令の兵士に言うと麗華はヘラクレスを走らせる。

僕もオリオンで彼女の後に続く。

僕の背後には雪が一緒にオリオンにまたがっている。

「これは合法的にくっつけますね」

雪は耳元で言い、必要以上に僕にしがみつく。雪の温かな体温が背中越しに伝わる。

あの夜のことを思いだすじゃないか。

いやいや、今はそんなことを考えているときではない。油断したら、麗華とはぐれてしまう。

僕の右隣に馬首を並べるのはアルファルドさん。彼女は馬に乗っていてもメイド服のままだ。あの姿でよく馬に乗れるなと感心する。

左隣に馬首を並べるのはイザール。彼女の後ろにはアヴィオールがいる。

敵が飛空系の魔物なら今回はアヴィオールが活躍してくれるだろう。彼女はもともと飛空系でも最強の飛竜ワイバーンなのだから。


麗華の部隊が右翼にオグマの部隊が左翼に陣をとる。二部隊の中央後ろをミラの部隊が守ることになる。

ちょうどアルファベットのYの字に近い陣形がつくられる。

それにしても瑞白元帥の指揮する百鬼軍の連携は素晴らしい。

少しの混乱もみられずにスムーズに陣形を整えた。

「ちょっと、雪くっつきずきよ」

僕たちを見た麗華がぷんすか怒っている。

怒りながらも部隊を指揮して、陣形を整えている。彼女の将としての指揮能力も素晴らしい。

「ごめんなさい、鷹峰さん。わざとじゃないのよ。こうしないと落馬しそうなのよ」

そう言い、さらに雪は僕にしがみつく。

あっ、背中にぴったりと雪のちっぱいが当たっている。

「燐太郎、後でわかってるわね」

キッと麗華は僕をにらむ。うーんその顔も綺麗すぎるんだけどその後というのが怖すぎる。それに雪が背後でてへっと舌をだしているし。


しかし、いよいよもってふざけている場合ではなくなった。

敵の飛空兵団およそ二百が目の前に迫りつつある。

「全将兵に通達、弓にて飛空兵団を迎え撃て‼️」

よく通る声で麗華が部隊の全将兵に向けて命令する。

まるで舞台女優のようないい声だ。


「あたしらもやるか‼️」

イザールが得意の短弓を構える。

弦を目一杯に引き、一息で矢を放つ。

矢は理想的な弧を描き、ハーピーの額を撃ち抜く。血を噴水のように吹きあげ、ハーピーは地上に落下し絶命する。


イザールの一矢を皮切りに戦いが始まった。

敵はすべて飛空系の魔物なので、主に弓での戦いになる。

攻撃が頭上からなので、兵士たちは盾を上に向けて防がなくてはいけない。

制空権をとられるというのはなかなかに不利な状況だ。

しかも、さらに追い討ちをかけるような事態となった。

飛空兵団の中央後方から猛スピードで飛来する物体があった。

それは純白のグリフォンであった。

その背中に何者かが乗っている。

白銀の鎧を装備した人物だ。

肩に巨大な戦斧をかついでいる。


僕はその人物をオーディンの義眼の能力で注視する。

どうやら、女性のようだ。

目鼻だちのくっきりしたかなりの美人だ。まあ、麗華には若干おとるけどね。

でも、この美形、どっかで見たことがあるぞ。

「あっ、あれはマリアちゃん」

驚愕の声で雪は言う。

「間違いない、あれは羽柴マリアだ」

麗華もその飛天の騎士をみつめ、そう断言した。


目の前のグリフォンを駆る騎士はあの七人の星たちセブンスターズの一人である羽柴マリアであった。

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