第39話 夜の女神
心地よい疲労感に包まれた僕は雪の細い体を抱きしめた。
雪も両手をのばし、僕の体に抱きつく。うっすらと汗をかいている雪の体は肉付きこそないものの、暖かく心地よい。
しかし、それにしても気持ちよかった。
まだ、頭がぼんやりする。体中が快感によって支配されている。
これが淫紋の効果なのだろうか。
ルイザさんの体と甲乙つけがたい気持ちよさであった。
この気持ち良さを知ってしまったらもうオナニーなんかはできない。
虜になってしまう。そんな快感である。
それにしても出しすぎたかな。
雪の股間から僕の体から吐き出されたものが細い白い滝となって流れている。
「燐君の体液でおなかいっぱいだわ」
文字通り
「なんかごめんね」
僕はいい、雪の頬に軽く口づけする。
「いいのよ。それにこの淫魔法の紋章には避妊と性病予防の効果があるのよ。まさに快楽だけをもとめるサキュバスにふさわしい魔法なのよ」
雪はいい、僕の乳首をペロリとなめる。それはゾクゾクする快感である。
「えっ、そんな効果があるの?」
僕は訊いた。
それはある意味便利な魔法だ。僕たちのいた世界での科学技術でもそこまではカバーできない。
「そう、これは夜の虹を編む者に夜の女神であるメドゥーサが教えた魔法なのよ。私はエウリュアレさんのお屋敷でたまたま見かけた
雪は説明してくれた。
まさか、雪の口からあのメドゥーサの名前が出てくるとは思わなかった。
僕を異世界におくりこんだあのメドゥーサと同一人物であろうか。
「でもね、この魔法は他の七柱の女神を信仰する人々から異端として禁止されたのよ。なんでも快楽だけをもとめるのは堕落した悪魔の所業であるからとかね。本来の意味をなさない性交は自然の摂理に反するとかいってね。で、数百年前のある時期、この淫紋をつけた女性がひどい迫害にあったのよ。魔女裁判事件っていうらしいんだけどね。淫紋をつけた夜の虹を編む者の多くは火炙りの刑で殺されたらしいの」
雪は言った。
持ってきた水筒の水を一口のむ。僕もその水筒の水をもらった。
この異世界アヴァロンにもそんな歴史があったのか。
でも、それならこんなものをつけた雪は大丈夫なのだろうか。
「今はそれほどの迫害はないらしいわ。この淫紋はメドゥーサの秘術として歓楽の街モードレットに伝わっているそうよ」
雪は言った。
「ねえ、この淫魔法の紋章、こっそりと鷹峰さんにも教えてあげようかなって思ってるんだけど……」
雪は言う。
僕は思わず、ごくりと唾を飲み込んだ。
麗華と体を重ねたのはあのケイの街を解放した夜だけだ。もし、麗華がこの淫紋をつければ遠慮なく彼女のボリュームたっぷりの体を楽しむことができる。僕の頭は快楽をもとめることでいっぱいになった。
「あ、あの。ばれないようによろしくお願いします」
僕は言った。
ルイザさんだけでなく雪とも関係をもったなんて麗華には口がさけてもいえない。
「いいわよ。燐君の一番は鷹峰さんだというのは知っているもの。私はたまに今日みたいに抱いてくれたらいいから。私のことは性欲処理の道具ぐらいにおもっていいんだから」
またもや小悪魔めいた笑みを浮かべ、雪は言った。
どこまで本気なのかわからないや。
淫魔法を教えたメドゥーサを信仰する人は今では数えるほどになったと雪は説明してくれた。
もともと夜を司る女神で、他の七柱の女神と同格であったが今では神学者の間では堕天の女神という位置付けであるということだった。また彼女、メドゥーサが赤い瞳をしていたことからその瞳をもつものを魔神の子として忌み嫌う風習がうまれたとも雪はいった。
「それじゃあね、私もういかなくちゃ。ずっとここにいたいけど、そうはいかないからね」
そう言い、雪はローブを着ると僕の幕舎をでた。
僕は雪の香りと温もりの残るベッドで眠りについた。
翌日、僕たちはケイの街に向かって出発した。
僕はオリオンにまたがり、麗華の部隊とともにケイの街に向かう。
軍の先頭に立つ、麗華はまさに戦乙女のような神々しさがあった。
麗華はケイの街攻略の褒美としてリオネル王女からヘラクレスという名前の馬をあたえられた。
通常の馬よりも約二倍の体躯をほこり、オリオンと違いかなり気性の荒い馬であったが麗華が手綱をにぎると不思議と彼女のいうことをきいた。
豪傑のような名馬を操る麗華はまさに軍神バシュラの化身といえた。
ケイの街の郊外でまた夜営し、その後、さらに僕たちは海岸線を北上する。
東に海が見え、潮の香りが鼻孔をくすぐる。
「もうすぐ、次の攻略目標のガヴェインが見えてくるわ」
馬首を並べ、麗華が言う。
行軍速度から考えてももうすぐでしょうとミラが言う。
「燐さん、何かみえるよ」
目のいい、イザールが天空を指差す。
僕たちはイザールが指差す方向を見る。
鉛色の空に天空に浮かぶ砦があった。
「あ、あれは天空要塞ラピュタ!!」
オグマその天空に浮かぶ砦を見て、叫んだ。
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