第37話 次なる目標
鬼姫結がいなくなり、残された孤児たちはパニック状態になった。
頼りにしていた唯一の存在がいなくなったのだ。無理はないとおもわれる。
雪が泣きじゃくる一人をその細い体でだきしめる。
そうすることによって落ち着いたのか、腕のなかで眠りだした。
残された孤児たちは雪やアヴィオール、イザールがその夜は面倒をみることになり、僕はいったん自分の屋敷にもどることにした。
翌日、ルイザさんたちに来てもらい、その孤児たちは僕の屋敷でいったん面倒をみることにした。
イザールの話では鬼姫結によってかくまわれていたこの孤児たちはまだましなほうで、なかにはいきるために窃盗などをはたらくようになるものたちも少なくないという。そうしたものたちは犯罪組織なんかにいいようにつかわれ、そのあと使いすてにされ、ひどい末路をたどるのだという。
僕は翌日、そのことを話あうために王宮のリオネル王女に謁見をもとめることにした。
一度、ボードワン邸またの名をアルタイル屋敷と呼ばれる自分の家にかえった僕は、アルファルドさんが用意してくれた風呂にはいり、その日の汚れを落とした。ハンナさんがつくった果実いりの石鹸で体を洗うとさっぱりした気分になる。それにこの石鹸はいい匂いがする。
交易の街ケイを奪還したことにより、石鹸などの生活必需品がまえよりつくりやすくなったとハンナさんがいっていた。
部屋着に着替えた僕は麗華の部屋に入る。
彼女はすでに寝息をたてていた。
そっとベッドにもぐりこむと彼女はうっすらとまぶたをあけ、その青い瞳で僕を見た。
僕は簡単にロベルト邸での出来事を説明した。
「そう、やっぱり幽霊はいなかったのね」
麗華は安心したような口調でいった。
彼女にとって気になったのはそこなのだろう。
僕はすべすべとした麗華の絹のような頬をなで、そのやわらかな赤い唇に自分の唇をかさねた。
ああ、麗華の唇は段違いにやわらかい。
僕たちはお互い貪るように舌をからめあい、お互いの唾液をのみあった。
麗華は腕をのばし、僕の顔をそのJカップロケットおっぱいにおしつける。ああ、なんて気持ちいいんだ。僕は今日は麗華の腕の中で眠ることにした。彼女の体温が僕を落ち着かせ、熟睡することができた。
翌日、僕は麗華をともなって王宮キャメロンを訪れた。
エウリュアレを通して、王女リオネルに謁見を申し込む。
「三枚目の
とエウリュアレは言った。
そうこうしていると僕たちは伝令の兵士に呼ばれ、あの最初に召喚された部屋に案内された。
そこには円卓がおかれ、すでにリオネル王女が椅子に座っていた。
王女の左にいる老人はアルクトースと言った。すでに現役を引退していたが王女のたっての願いで彼女を補佐する役についた。内務大臣の職にある。
右側に腰かけるのはエルナトという人物で年齢は三十代後半、財務大臣の職にある。貧乏貴族の八男で少年時代から大陸をわたり歩き、その見聞をひろめたという。瑞白元帥の推薦で王女を補佐することになった。
実質、この二人が現在のアヴァロン王国を運営しているといっても過言ではない。
僕はリオネル王女に昨夜の出来事を話し、孤児たちや病気や戦争で障害をおった人たちが安心してくらせるように救護院の設立を提案した。
昨日のあの子たちがいきるためとはいえ、犯罪などに手をそめるのは見ていられない。
「さすがは私の燐太郎」
麗華は無条件に僕を誉めてくれる。
「アルタイル卿の話しはよくわかりました。ですがその孤児や戦病者たちの状況を解決するのは彼ら自身の責任ではないですかな」
白い髭をなでながら、アルクトースはいう。
彼の言葉は昔からのこの国の考え方らしい。
特権のある王族や貴族がたまにその社会的弱者を救済することはあるが公的な機関としてはそのようなものは存在しないのだ。
彼は僕たちを試しているのだ。
国の政治に口だすのだ、きっちりとした理論で説得してみせろと。
「えっとそれは彼らのような孤児が救われなければ、犯罪をすることもあり、えっと……治安にも影響してですね……」
頭ではわかっているが、言葉にするのは難しい。
もともと僕は陰キャのオタクなのだから。
「社会的弱者を切り捨てるのは得策ではありません。それは国家の信用を失墜させることにつながります。人はいつその社会的弱者になるかわかりません。その時に国家が見捨てるというのなら誰も国家を存続させるために働こうと思わなくなるでしょう。逆にアルタイル卿の提言のような組織が社会にあると民衆は国家を信用し、国家のためにはたらくでしょう。またその救護院でそだった子供たちは将来、よき働き手、よき兵士となり国家に貢献するでしょう。救護院の設立はまさにこのアヴァロン王国のためでもあるのです」
僕の思っていることを文字通り、麗華が言語化してくれた。
そう、社会的弱者を国が切り捨てたら、誰がそんな国のためにはたらくだろうか。しかも、今、この国は領土の大半を魔王軍に支配されているというのに。国としての信頼を失うのは失策しかない。
「それがベガ卿の意見か。アルタイル卿、貴君の意見と同じと思ってよいかな」
アルクトースは言った。どこか教師のような口調だ。ほんの一瞬だがにこりと微笑んだ気がした。
僕たちの話を真剣に聞いていた王女はエルナトの顔を見た。
「私はアルタイル卿の意見を受け入れようと思いますが、財源のほうはどうですか?」
リオネル王女はエルナトに訊いた。
「まあ、なんとかなるでしょう。場所は空き家になった貴族たちの邸宅を使えばいいし。予算もなんとかしましょう。しかし、潤沢につけることはできませんな。なんせ、この国は戦争状態でしかも領土のほとんどを魔王軍に支配されている。ここはやはり失地の回復が急務といえますな」
無精髭をなでながら、エルナトは言った。
「承知しました。ロベルト邸を国が買い上げ、そこを救護院としましょう。その他のことはアルタイル卿、汝の思うようにされるがいい」
リオネルはそういった。
その日から僕たちは救護院の運営のためにはたらくことになった。麗華は瑞白元帥の新生王国軍の設立の手伝いをしながらではあったが。
おもに働いてくてれたのはルイザさんだった。彼女は孤児たちに実の母親のようにしたわれた。また、ミラや雪が先生がわりになって彼らに勉強を教えた。
イザールは彼らのために歌を教え、アヴィオールはいい遊び相手となった。
忙しい日々を送っているとアルタイル屋敷を訪れる人物がいた。
彼はオグマと名乗った。あのラインスロット将軍の弟で兄に似た精悍な顔立ちをしている。
「アルタイル卿、次の攻略目標が決定しました。それは職人の都市ガヴェインです。至急、瑞白元帥のもとにお越しください」
僕と同い年だというオグマは言った。
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