第34話魔法使いの帰還

息がふれあうほどの距離でステンノーは僕に語りかける。彼女が言うには交易の街ケイを解放したのが第一ステージだというのだ。まあ、ゲームだとそれぐらいの位置づけなのだろうか。

「最初に君が訓練場から離れたときは冷や冷やしたよ。よくここまで持ち返したね。ちなみに麗華と再会せずにルイザのところにいたら初期バッドエンドだから危なかったよ」

ステンノーはまたうふふっと微笑む。

初期バッドエンドか。確かに麗華と再会しなければ他の仲間とも出会わずに何もしないまま、ルイザさんと自堕落な生活を送ったまま、王国は魔王軍に滅ぼされていただろう。選択を一つ間違えば危ないところだった。


「かなり鷹峰麗華と深い仲になれたし、けっこうけっこう」

ステンノーは言う。


「で、なんなのさ。君があらわれるということはこれからのことに関わることだろう」

僕は訊く。彼女はたしか僕の冒険の道案内ナビゲートをその役としていたはずだ。


「そうだね。その前に君はこの世界ものがたりの主人公だからこの世界の人間は基本的に君に好意をもつといったね。それはすなわちこの異世界では君はやろうとすればハーレムを築けるということさ。異世界ハーレムいいじゃないか。君のすきな世界ジャンルではあるだろう」

ステンノーが言う。

確かにハーレムもののラノベやアニメは僕の好きなジャンルだ。男だったら誰でもいろんなタイプの女の子に好かれてみたいだろう。僕もごたぶんにもれずにハーレムものには憧れがある。しかし、それでもトップに麗華がくるのは微動だにしない。


「そんなのができるのかい」

僕は言う。憧れはあるが異世界にきてこの国を救う戦いをしながれ、美少女たちとハーレムを築くなんてできるのだろうか……。


「できるさ。前に言った三つの条件さえ達成させれば、後は君の自由にしていい。この世界ゲームはかなり自由度が高いんだよ。でも気をつけてね、君の最愛の人は思っていた以上に嫉妬深いからね。そこはうまいことやりなよ。うちらは君のリビドーの化身だからね、ハーレム結成おおいにけっこう。応援してるよ。おっとそれではこれでひとまずおいとましようかな。次なる冒険に誘う者が来たようだからね。じゃあ世界攻略ゲームクリアにむけて頑張ってちょうだいよ」

言うだけ言うとステンノーはぱっと目の前から消えてしまった。

その直ぐ後、ノックの音がする。


「燐太郎さま、よろしいでしょうか。お客様がいらっしゃいましま」

その声はアルファルドさんのものだった。

「はい、着替えたら応接室に行きます」

僕は部屋着から外出用の服に着替えて、階下にある応接室に向かう。

その応接室のソファーには赤いローブを着た一人の小柄な少女が腰かけていた。

その少女は真田雪であった。

すっかり傷が消えて、その小顔は愛らしさを取り戻していた。


「助けてもらって本当にありがとう。和久くんにはとても感謝してるのよ」

真田雪は言った。

アルファルドさんが僕たちのために紅茶をいれてくれた。焼き菓子もそえてくれる。近隣の村々からも物資が入ってくるようになったので、こういうのも作れるようになったとアルファルドさんが言った。

「それはよかった。もう傷はよくなったのかい」

僕は訊く。

「ええ、すっかり。ケイの街で魔法治療を受けたらすぐにね。やっぱり異世界ってすごいわね」

微笑し、真田雪は言う。

さすがに篠山が気に入るだけあってなかなかにかわいい笑顔だ。

「それでね、私、あなたにお願いがあるの。私も和久くんのアルタイルに入れてくれないかしら。私ね、行方不明になった咲夜ちゃんを探しだしたいの」

真田雪は言った。


ためしに彼女の素質ステータスを読みとる。

魔法使いユキ、レベル28。

魔法使いだけあってかなり魔力が高い。たしかに僕たちアルタイルには魔法使いはいない。かなりの戦力アップが期待できるだろう。

B76W58H80。

小柄で細身の彼女らしいスタイルだ。おっぱい星人の僕からしたら物足りないスタイルだけどそのかわいい容貌は素直にいいなと思う。


「わかったよ、真田さんも一緒に戦いましょう」

僕は彼女を受け入れることにした。アルタイルにまた新たな仲間が増えた。パーティーとしてはかなり充実してきたな。

「ありがとう、これからは雪って呼んでね」

ふふっと微笑む顔はやっぱりかわいい。そうか篠山がやたら彼女を推す理由がわかる。この笑顔はたしかに癖になるかわいさだ。今まであまり彼女と関わらなかったから、彼女の魅力を知ることはなかった。


真田雪もこれからこの屋敷で寝泊まりすることになった。このボードワン屋敷は空き部屋が多いので彼女一人ぐらい増えてもどうということはない。

僕が真田雪、いや、雪と話しているとドタドタと誰かがあわただしく応接室に入ってくる。

「いやあ、燐さん。ちょうどいてくれてよかったよ。冒険者ギルドからの新しい依頼クエストがあってさ。今は所属しているパーティーはアルタイルだけなんで、燐さんがいないと話がすすまないんだよね。昼間はいなかったからさ」

イザールがまくしたてるように言う。

アルファルドさんがイザールに冷たい水を渡す。イザールはそれを一気に飲み干す。

昼間はルイザさんとでかけてたからな。イザールは僕を探していたようだ。なんかごめんなさい。その時は、僕はルイザさんと夜の虹を編んでいたからね。


「そ、それでその依頼クエストとは?」

僕はイザールに訊く。

「それはね、この屋敷と同じように主がいなくなった屋敷で幽霊がでるようになったの。頭に角を生やした幽霊がね」

イザールは言った。


「あら、なんか騒がしいと思ったら雪もうよくなっていたのね」

そう言い、応接室にもう一人入ってきたのは王宮で訓練から帰ってきた麗華であった。

「あっちょうどよかったわ。麗華も幽霊退治に協力してほしいの」

イザールが麗華に言う。

幽霊という単語を聞いた瞬間、麗華はあからさまに嫌な顔をした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る