第33話ルイザの涙

アヴァロン王国の王侯貴族はその特権に対する責任として常に戦場の最前線に立たなければいけないという不文律があった。

それ故、魔王軍との壮絶な戦いでその王侯貴族たちのほとんどが戦死してしまった。

僕たちに与えられた館は魔王軍との戦いで一族が失くなり、家名が断絶した貴族の館であった。たしか前のこの館の持ち主はボードワン伯爵という名前だということだ。


屋敷はかなり広くて掃除だけで何日も費やした。それでもアルファルドさんがいたから効率的であった。ある程度、掃除や片付けをすませると麗華とミラは瑞白さんが再建する王国軍に参加することになった。

イザールはハンナさんの手伝いで商人ギルドの仕事や冒険者ギルドの再建に忙しい。


僕は館に残り、前の主人が残した蔵書を読む日々が続いた。オーディンの義眼を使えば称号を一時的に特技スキルとして使用できることがわかった。称号「言語学者」を使えば、アヴァロン王国の文字を難なく読むことができる。

竜族の娘であるアヴィオールはその見た目に反して、竜としての年齢はまだまだ幼いらしく僕にくっついては本を読んでとせがんだ。

体はおっぱいの大きな大人なのにそのギャップに僕の性癖はものすごく刺激された。

アヴィオールは僕にくっつき、おっぱいもひっつき、僕の朗読を聞き入るのである。こんなスローライフもいいなとおもっていたら、アルファルドさんが来客がいらっしゃいましたと僕に告げる。


応接間に行くとコーヒーを飲みながら僕を待つルイザさんがいた。

「どうしたのですか、ルイザさん?」

と僕は要件を訊く。


「今日はあのべっぴんさんの騎士さまはいないのかい?」

ルイザさんが訊く。

「ええ、麗華は王宮で瑞白元帥の手伝いをしています」

と答える。

「ならちょうどよかった。騎士さまだけについて来て欲しいところがあってさ。女一人で行くには寂しいところでね」

ブラックのコーヒーをすすり、ルイザさんは言う。やっぱりコーヒーは大陸ものに限るねとつけ足す。


まあいいだろう、今僕は時間をけっこうあり余している。久しぶりにルイザさんと出かけるとしよう。最初に王宮の訓練場を離れ、ルイザさんの宿屋で厄介になっいる時はよく彼女に連れられ王都のあちこちを歩いたものだ。


僕はオリオンにまたがり、ルイザさんの言う目的地に向かった。王都に戻ってから僕は乗馬の練習を始めた。オリオンは性格のいい名馬で運動神経皆無の僕でさえ、どうにか乗りこなすことができた。たぶん、他の馬だったらこうはいかないだろう。むろん、手綱さばきは麗華には遠く及ばないけどね。彼女の運動神経はオリンピック選手並みだからね。


僕はどうにかこうにかオリオンを操り、ルイザさんが着いてきて欲しいと言っていた場所にたどり着けた。

そこは王都の郊外にある共同墓地で無数の墓が地面を埋め尽くしていた。ルイザさんの話では、そこには名前だけで下に遺体のない墓がほとんどだということだった。葬られるべき遺体は戦場に放置され、回収されるこができなかったかららしい。


ルイザさんは僕の手をつかむと中央にある慰霊碑に向かう。道すがら買ってきた一輪の白百合を捧げる。両膝をつき、両手を組み合わせ、祈りを捧げる。

「死の女神レナスよ、この地に眠る者に安寧を……」

いつも笑顔のルイザさんが静かに祈りを捧げる。僕も胸に手をあて、黙祷を捧げる。

数分ほどルイザさんは祈りを捧げると立ち上がる。

「あのラインスロット将軍の遠征軍に彼が参加していたんだ。あいつは私のことを勝手に好きになって、勝手に帰ったら結婚しようなんていってさ。でも帰って来なくて。あんたのことなんて全然好きじゃあなかったのに。こんな商売女を勝手に好きになって、変な約束押しつけて、それで結局帰って来なくてさ」

そう言うとルイザさんは言葉をつまらせ、涙を流す。両手を伸ばし、僕を抱きしめる。ルイザさんの巨乳が顔に押しあてられる。それは柔らかく心地よい。

ルイザさんは僕の顔を両手で挟み、顔をよせ、唇を重ねる。舌をねじ込み、僕の舌に絡めてくる。甘い唾液が流れ込み、それをごくりと飲み込む。僕は手をのばし、ルイザさんの豊満な胸を欲望のままにもみしだく。僕が揉むたびにルイザさんは甘いあえぎ声をあげる。


「ちょうど向こうに小屋があるんだ。騎士さま、たまにはまた相手をしてかれるかい」

ルイザが訊く。

「ええ、そうしましょう」

僕は答え、ルイザさんと共にその粗末な小屋に向かう。


僕たちはその小屋のなかで古びたテーブルをベッド代わりにして、体を重ねあわせることにした。服を脱ぐのももどかしい。ルイザさんも乱暴に服を脱ぎ、すぐに真っ裸になる。彼女の裸体は素晴らしい。豊満な胸に括れた腰、はりのあるお尻。男を欲情させるに十分な肉体をしている。

ルイザさんの話では、昔、彼女はその体で客をとる仕事をしていた。アヴァロン王国ではそんな人たちを夜の虹を編む者と呼んでいた。夜の虹を編む者としてお金を貯めて、あの宿屋を始めたという。

その時につちかった技術で彼女は僕を執拗に攻め立てる。そんなものに僕は抗うことできなくて、すぐに絶頂に達し、ルイザさんの体の中に自分の欲望の象徴をたっぷりと流し込んだ。


僕たちがこの関係になるのは初めてではない。最初に宿屋で厄介になったときからだ。エウリュアレが気を使い、僕が怪しいお店で性欲を発散させないようにルイザさんをあてがったのだ。

僕はその宿屋で生活した三日間、毎夜、ルイザさんにお世話になった。

ルイザさんが麗華と会ったときに言ったいろいろの意味はこれである。


快楽につつまれた僕は、その心地よい疲労の後、ルイザさんの豊満な胸に顔を埋める。ルイザさんの胸に流れる汗をなめると少し、しょっぱい。

「ありがとう、騎士さま。とても気持ちよかったよ。いろんな男を相手にしたけど騎士さまほど気持ちいいのはいなかったよ」

ルイザさんは僕を抱きしめると優しく頭を撫でる。まるで母親にだきしめられているような安心感がある。

「僕もですよ、ルイザさん。でも、このことは……」

僕は言う。

さすがにこの関係は誰にも言えない。この肉体の快楽だけを求めあう関係を。

「わかってるよ。とくにあのべっぴんさんにはだろう。私も殺されたくはないからね。私は騎士さまにとって何番目でもいいんだよ。時々、こうして私で気持ちよくなってくれればね」

ルイザさんは言った。


僕たちはその古びた小屋でまた、お互いを求めあった後、その公共墓地をさった。

ルイザさんを彼女の店まで送り届けたあと、屋敷に戻り、自室で一休みすることにした。

どうやらまだ、麗華は王宮から帰ってきていないようだ。

僕が惰眠を貪っていると人の気配がしたので、まぶたを開けると間近にステンノーのかわいらしい顔があった。

「やあ、まずは第一ステージクリアおめでとう」

にこりと微笑み、ステンノーは言った。

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