第31話交易の街解放

短剣を握りしめ、僕はローレライに最後の一撃を与えるために振り下ろす。今のローレライなら僕の力でもきっと殺せるだろう。

そうだ、この交易の街ケイを解放するには魔女王たるローレライを殺さなければいけない。これは解放の絶対条件だ。

僕はローレライの豊満な左胸めがけて短剣を突き立てる。

切っ先が肌にふれ、血がだらりとながれローレライの乳房をぬらしたところで僕は手を止めてしまった。

ここまできて、僕は魔王とはいえ人を殺すことをためらっている。

仲間たちには剣を振るわせておいて、自分はざまあない。

人を殺すことに罪悪感を覚え、ためらい、怖じけづいている。

震える手が前に進まない。


「た、助けてくれ。もうお前たちを襲ったりしない。後生だ、命だけは助けてくれ」

ローレライはその人間離れした美しい顔に涙を流し、訴えている。

これは詭弁だ。

ほんの少し前までローレライは真田雪を生け贄にしようとしていた。やつは同じように命乞いをする人間たちを自らの楽しみのために殺していったのだ。ここで一時の感情にまかせて、ローレライを許してはいけない。

でも、手がまったくいうことをきかない。


その時、僕の手に温かい手が重なる。

それは変身を解かれた麗華であった。

変身による過労だろうか彼女の絶世の美貌に疲れの色が見える。

彼女の疲労からも見てとれるように僕たちには戦う力はほとんど残されていない。

あの無敵にも思える瑞白さんも肩で息をしている。それはアルファルドさんやイザール、ミラ、アヴィオールも同じだ。皆、ローレライの魔歌によって体力をかなり削られている。そう、ここでローレライを殺して決着をつけないといけないのだ。


「あなたがそれを罪と思うなら少なくともその半分は私が背負うわ……」

麗華は僕に言う。

麗華は優しい。こんな臆病者の僕が勝手に背負おうとしている罪を半分背負うというのだ。この行為はある意味、僕たちの絆を深めるのかも知れない。


覚悟した僕はローレライの豊かな乳房に突き立てた短剣をさらに奥へとすすめた。鈍い感触があり、おそらく短剣は心臓に突き刺さった。耳をおおいたくなる断末魔を叫び、血を噴水のように撒き散らし、ローレライは絶命した。

返り血が僕の顔を汚す。

いつまでも短剣を握りしめている僕の手から麗華が短剣を外す。僕はずっと震えたままであった。


麗華はそのボリュームいっぱいの胸に僕の顔を押しあて、抱き締める。ああ、麗華のおっぱいは柔らかくて温かくて落ち着くな。

「よくやったわね。これでこの街は魔王軍から解放されたわ」

麗華は言う。

僕はまだ震える手で背の高い麗華の体を抱きしめる。僕の目は勝手に涙を流していた。



交易の街ケイは魔王軍から解放されました。

呪いの因果の鎖が切り離され、絆の光に照らされました。

「解放者」「聖歌隊」「異端審問官」「ケイの街の解放者」「魔女の討伐者」の称号を得ました。

視界に文字が並んでいく。

レベルも上がって20になった。幸運のグラフだけはどんどん上がっていく。後、魔力が少し。戦闘力と素早さは据え置きだ。


僕たちはついに一つ目の街、交易の街ケイを解放した。

魔物がいなくなった街に隠れていた人々が様子をうかがいながら総督府前の広場にやってくる。

僕が魔女王ローレライを討ち倒したことを教えると街は歓喜に満ち溢れた。

人々は皆喜び、あるものは抱き合い、あるものは歓声をあげ、自由を喜んだ。もういつ死ぬかと怯える日を送る必要はない。


ケイの街総督府の役人の生き残りでダイダロスという人が代表して感謝の言葉をのべた。

僕たちはそのダイダロスさんに頼み、真田雪を休ませるための部屋を借りた。

真田雪はミラの治癒魔法のおかげでぐっすりと眠っている。


僕があてがわれた自室で休んでいると麗華がノックをして入ってきた。

「ほら、これ見てよ」

麗華が僕に手のひらを見せる。

麗華の手は白くて綺麗だな。

その手に金色のメダルが乗っている。

そのメダルには双子がデザインされていた。

どうやらそれは双子座ジェミニのメダルのようだ。

麗華がいうにはローレライの心臓からこれが出てきて、イザールが回収したのだという。

冒険の目的の一つである黄道十三星座のメダルの三つ目を手に入れた。

「一歩前進といったところかしらね」

麗華は綺麗な顔でウインクする。惚れ惚れするぐらいに絵になるな。

麗華は僕の顔を両手でつかむと唇を重ねた。

うわっ、急にびっくりするな。

それに麗華の唇は柔らかくて気持ちいいや。

僕も麗華の顔を手で挟む。その肌はすべすべとしてこの世のものとは思えない。

僕はドクンドクンと心臓が高鳴るのを覚えた。

「さあ、約束のご褒美の時間よ」

麗華は言う。

その顔は小悪魔的でかわいい。

麗華は僕をその長い手で力強く抱きしめるとベッドに押し倒した。

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