第29話魔の歌
右を見ても左を見ても敵だらけだ。オーディンの義眼に映る赤い点滅はもう数えるのが面倒なほどだ。
目指す宿敵までの距離は約二十メートルと言ったところか。
麗華ならばなんの障害もなければわずか数秒でたどり着ける距離ではある。
現実はそうはいかない。
僕たちはすでに無数の魔物によって包囲されてしまっている。
僕はオーディンの義眼で魔女王ローレライを見る。
魔女王ローレライ。レベル138。
魔力がやはりずば抜けて高い。戦闘力はレベルのわりにやや低いと見ていい。油断していい相手ではないのは間違いない。
B92W61H90。スタイルは抜群だが、その身にまとう禍々しさからまったく女性としての魅力は僕は感じない。
僕たちはこの無数の敵たちを撃破し、さらに魔女王ローレライを撃たなければいけない。
開けているとはいえ、この広場にローレライの軍全員が集結していないことがわずかながらの救いだ。
アヴィオールの話ではこの儀式に参加できるのは魔王軍の中でも有力な者だけだと言う。
それは逆説的にここにいるのはローレライ軍の精鋭たちだともいえる。
だが、僕たちはやらなければいけない。
これは魔女王ローレライを討つチャンスでもあるのだから。
「燐太郎どの、露払いはおまかせあれ」
瑞白さんはそう言うと愛刀の柄に手をかけると腰を落とし、地面を蹴る。
まずは一番近くにいるオークめがけて駆ける。
その豚の顔をした化け物は瑞白さんのことを完全にただの老人だと思い、油断しきっていた。手に持つ凶悪な棍棒で粉砕するために上段にかまえる。
「遅いわ」
まさに目にもとまらなぬ速さで瑞白さんは動く。すでに彼はオークの右肩に乗っていた。
オークは驚愕する暇もな首をはねられた。
すぐに肩からおりると緑色の肌をしたゴブリンの体を唐竹割りで真っ二つにする。
剣豪明けの明星の名は伊達ではない。
瑞白さんは止まることなく一撃を繰り出すごとに怪物を一体葬っていく。
「負けてはいられませんね」
アルファルドさんも地面を駆ける。
空中に飛ぶ羽を生やした妖精ピクシーの額を正確に
骸骨剣士の首間接を一撃で突き、破壊する。落ちたドクロを踏み砕くと奴は動きを止めた。どうやら頭が骸骨剣士の弱点のようだ。
その間にもイザールが小柄な老人のような化け物コボルトが呪文を唱える前にその短弓で喉を撃ち抜く。
アヴィオールが口を大きく開ける。彼女は
彼女が敵ではなく味方で本当によかった。
ミラは短槍を両手で持ち、槍を持つゴブリンの心臓を貫く。震える手でその短槍を引き抜くとゴブリンは絶命した。
「竜よ、力よ‼️」
麗華は両手で竜剣ジークフリードを持ち上げる。瞬時に大剣に水がまとわりつく。水は竜の姿になり、剣とともに魔物どもを葬っていく。やはり、麗華も強い。この場にいる怪物たちも目ではない。
それでもまだまだ怪物は無数にいて、ローレライまでの距離は近くて遠い。
「ふん、小癪な」
ローレライはそう言うと両手を天に向け、広げる。
彼女は唄い出した。
歌詞の意味はまったくわからないがそのあまりにも凶悪な能力はすぐに理解できた。
周囲の怪物たちの体格が目に見えて良くなる。目が充血し、よだれを垂れ流している者もいる。
どうやら怪物たちにその歌は力を付与しているようだ。
それだけではない。
こちら側にも影響を与え出した。
もちろん悪いほうにだ。
「くっ、頭が痛い」
イザールが両手で頭を抑え、地面に膝をつく。
「ううっ、気持ち悪い」
アヴィオールはその丸く、愛らしい顔を青色に染めている。
「こ、これは呪いの歌です。敵の戦意をくじき、味方に力を与えるものです」
苦痛に顔を歪めながら、ミラが言う。
「みんな、こっちに」
僕は不可侵領域を発動させた。光の幕が僕をつつむ。アヴィオール、イザール、ミラがその光の壁に入る。どうやらこの壁の中はローレライの力が及ばないようだ。
すぐに三人の顔色が良くなる。
「ふん、小うるさい」
そう言い、さらに瑞白さんは剣をふるい続ける。一太刀ごとに魔物の死体を生産していく。しかし、一人で倒せる数は限られている。
麗華もその国宝級の美貌に苦悶の表情を浮かべながらも怪物たちを葬っていく。さすがは麗華だ。そのタフな精神でローレライの魔力をはねのけているのだろう。
あれっ、アルファルドさんの姿が見えない。
憎らしいローレライの能力で僕たちはただでさえ少ない戦力を削られている。僕の不可侵領域の中にいれば安全だが、こちらからは攻撃はできない。
瑞白さんと麗華もがんばっているが体力には限りがある。
このままではジリ貧だ。
どうすればいい。
せっかく宿敵を目の前にしているのに。奴に傷一つつけることができずにこちらは防御にまわらざるおえなくなっている。
オーディンの義眼の視界に文字が浮かぶ。
そうだ、このスキルはなんだろうか。僕にはどうやら呪符魔術という能力があるようだが、それがどういうものか知らない。
現状、うだうだかんがえている暇はない。何か現状打破できるのなら、それを使うしかない。
「使う、使うよ」
僕は言った。
そうすると胸の辺りがじんわりと熱くなる。
胸元から何かが飛び出した。
それはエウリュアレにもらった
まぶしい光に包まれた
麗華に蛇の呪符がぶつかると今度は麗華が眩しい光に包まれた。
光は一秒もただずに消える。
光の中からあらわれたのは僕が考えた
「へっ何、これどういこと⁉️」
明らかに動揺して、麗華は言った。
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