第27話魔女王ローレライ
ローレライが毎日行っている儀式までわずかではあるが時間があるので、僕たちはこの教会で休息をとることになった。
それにしてもこの都市を支配しているローレライという魔王はひどいことをする。
毎日ランダムに都市の住人から一人選び、生け贄にしているのだという。
都市の人たちはいつ自分がえらばれるのか、それとも大事な人が選ばれてしまうのか、戦々恐々としているのだという。
僕はすぐにでも教会を後にして、ローレライを倒しに行きたかったが、その場所もわからない以上、待つしかなかった。
その儀式は夕暮れに総督府前の広場で行われるのだという。
平和なときには外国の使節を出迎えるためにつくられたスペースだという。
今では悲惨で残虐な祭りが毎日行われているのだ。
「休息も大事な戦いでござるよ」
瑞白さんが言った。
歴戦の剣士は言葉の重みが違う。
そうだ、焦ってもことを仕損じるだけだ。
イザールがヨーク村で手に入れた林檎を皆に切り分けた。それと黒パンと干し肉を食べる。
アヴィオールが久々のまともな食事だと喜んでいる。
生きて帰って、ルイザさんの料理を皆で食べたい。
そうだ、今のうちに自分の
僕はオーディンの義眼越しに自分の手を見る。
蛇使い和久燐太郎。レベル14。
予想はしてたけど戦闘力がめちゃくちゃ低い。棒グラフがあるのかないのかぱっと見ではわからない。素早さもほぼないに等しい。
魔力はそれに比べれば高い方だ。
特筆すべきは幸運の値だ。ここにいる誰よりも高い。運だけ高くてどうすればいいのだろうか。
固有特技は不可侵領域、魅了、呪言、呪符魔術、魔女の友、とあった。
しかし、蛇使いってなんだ。
あの笛を吹いて壺から出る蛇を操るあの姿しか思いつかないな。
まあ深く考えても仕方ない。
もうしばらくするとこの教会を後にしなくてはいけない。
「こんなのをみつけたよ」
嬉しそうにイザールは言う。手にはウクレレによく似た楽器を持っていた。それはランピーと呼ばれるものでイザールはその演奏が得意だと言った。
女神さま、ありがたくもらうよとイザールは言い、教会の女神像に一礼した。
僕が総督府前の広場に行くためのルートをハンナさんから借りたノートを見ながら考えていると、横からアルファルドさんがのぞきこんだ。
うわっ、近くでみるとアルファルドさんの顔は本当に綺麗だ。特に切れ長の瞳が魅了的だ。
「この建物に潜入しましょう。この建物の屋上から広場が一望できます」
そう言い、アルファルドさんは総督府の向かいの建物を指さした。
となるとルートはこうかな。
僕は女神教会からその建物へのルートをアルファルドさんに提案した。できるだけ建物の裏側を通るルートだ。
その儀式とやらが始まるまで、敵に見つかりたくはない。
「そうですね、それがよろしいでしょう。わたくしが先導いたしましょう。潜入はなれていますから」
アルファルドさんは僕にウインクする。
そうだ彼女は暗殺者だ。潜入などはお手のものだろう。
「どうやら、燐太郎どのには将の将たる器があるようですな」
僕たちの様子を見て、瑞白さんが言った。
瑞白さん、それは買いかぶりというものですよ。僕は目の前の課題をどうにかして解決しようとしているだけですよ。
「そうよ、私の燐太郎はすごいんだから」
麗華はニコニコと嬉しそうだ。
窓から見える太陽が西に向かおうとしている。空が赤みを帯びてきた。
そろそろだ。
僕たちは安全地帯であるこの女神ヒルメの教会を後にした。
アルファルドさんが完全に気配を消し、先を行く。安全を確認すると僕たちはその後に続く。まったく気を抜くことはできない。
道の反対側に豚の顔をした巨人が歩いている。
あれはオークだとイザールが説明してくれた。
どうやらオークは僕たちに気づいていないようだ。
僕たちは建物の影に隠れながら、慎重に前進する。
アルファルドさんの努力のかいもあり、僕たちは敵に見つからずに目的の建物に到着した。裏口を見つける。
「わたくしが中の様子を見てきます。しばしお待ちを……」
そう言い、アルファルドさんは足音をたてずに建物の中に消えた。
「ほう、暗歩を使うか」
アルファルドさんの様子を見て、瑞白さんが感心する。
ほどなくしてアルファルドさんが戻ってくる。
「建物の中には誰もいません。さあ、行きましょう」
アルファルドさんの報告を受けて僕たちはその建物に入る。
建物にはアルファルドさんの言った通り、魔物はおろか人の気配はまるでなかった。
容易に屋上にたどり着く。
屋上からは総督府前の広場の様子がよく見えた。広場の面積はおよそ野球のグラウンドぐらい。
その広場には怪物たちがひしめき合っていた。ぱっと見ただけでも先ほどのオークにゴブリン、コボルト、骸骨の戦士、ピクシーなど様々だ。
奥の高台に玉座が置かれている。
そこには一人の黒いドレスの女性が座っている。胸元のざっくり開いたドレスで胸の谷間がはっきりわかる。
白い肌に黒い髪。赤い唇で秀麗な顔立ち。
醸し出す不気味な空気が彼女が人間ではなく魔物だという証だろう。
きっと奴が魔女王ローレライだ。僕は奴の不気味な姿にそう確信した。
「ローレライ陛下、今宵の生け贄を用意いたしました。このものの血を魔女王陛下に捧げましょう。どうぞそのお力の糧に……」
声高らかにローブの男が言う。人の形をしているがこいつもきっと魔物の一人なのだろう。
そのローブの男の言葉の後に十字架を担いだ一つ目の巨人があらわれた。
一つ目の巨人、サイクロプスと呼ばれる魔物だ。
僕はオーディンの義眼を使い、十字架を拡大する。そこには裸の人物がはりつけにされていた。小柄で細身の人物だ。
どこかで見たこたとのあるお下げ髪の少女だ。
「あれは……」
麗華は言い、ぐっと歯を食いしばる。
その十字架にはりつけられているのは真田雪であった。
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