第22話交易都市攻略作戦

まず、僕はここにいる皆に昨晩ステンノーに聞いた話を説明した。

「魔王一人を倒せばその配下の軍団は自壊するということですな」

瑞白は言った。

「そうです、あの都市を支配している魔王一人を倒せばあの街は解放されると思うのです」

僕は皆に言う。


「それは十分ありえるわ。魔物というのは人間のように思想や規則では従わないのよね。もっと本能的な生物としての強さに従うものなのよね。あのゴブリンたちがより強いゴブリンの個体にしたがっていたようにね」

両手を頭の後ろにまわし、イザールが言う。どうやらそれが彼女の癖のようだ。


「さすがは私の燐太郎。これで活路は見えたわね」

麗華は嬉しそうだ。


「そうですな。だが、どうやって魔王一人だけを倒すかですな。まずはあの交易都市に潜入しなくては……」

と言い、瑞白は紅茶をすする。ほう、なかなか美味ですなとつけ足す。


「それなら私がいいのを持っているよ」

ハンナはそう言うとテーブルに一冊の分厚いノートを置いた。

それをペラペラとめくる。

そこには精緻にして緻密なイラストが描かれていた。多少イラストをたしなむ僕から見てもかなりの精巧な絵だった。

その絵はどうやら鉛筆でかかれているようだ。いくつもの洞窟の絵と植物が描かれている。


「こいつはね、うちの死んだ亭主が道楽で書いていたものなんだけどほら、最後のこの文を見てみなよ」

ハンナは言い、あるページに書かれた文を読む。


「この道は最終的にケイの街の女神教会の地下につながっていた。おそらくはかつてこの地を支配した貴族がもしものための脱出経路に作られたものだろう。現在、この街は市民の自治に移行してから忘れ去られたものと考えられる」

ハンナは言った。


「それってあの街への抜け道みたいなものですか」

イザールはそのノートをのぞきこむ。


「私の亭主はね。いろんなところを見てまわるのを生き甲斐にしてたんだよ。商売を私らにまかせっきりにしてね。これはケイの街の西にある使われなくなった鉱山の坑道に生える植物を採取しに行ったときに書いたものだよ」

ハンナはあきれながらかつ懐かしい様子で言った。


「つまり、その坑道を抜ければケイの街に潜入できるというわけか」

麗華がその超巨乳の前で腕を組み、頷く。


この情報はかなり有用だ。

大まかな作戦が決まったと言えるだろう。

ケイの街の西にあるという坑道から侵入し、魔王を探しだし、そいつを秘密裏に倒す。

しかし、これは言うが易し、行うは難しだ。

だがやるしかない。

どんなに無茶だと分かっていてもやるしかない。

この世界ゲームをクリアする条件の一つが七つの都市を解放することだからだ。

それにあの妹そっくりのリオネル王女をもう泣かせたくない。

これぐらいの難易度のゲームをクリアできなくてどうするんだ。

僕は僕なりに自分を叱咤激励する。


「よし、行きましょう。出発は明日の夜明けすぐに。皆さん、それまで十分な準備と休息を」

僕はテーブルに座る四人に言う。


「かっこいい、燐太郎はやっぱりリーダーの器だよ……」

麗華がべた褒めしてくれる。ううっ、これはかなり嬉しい。

僕は僕がやれることをやるだけだ。


だいたいの作戦が決まったので僕はハンナさんからそのノートを借り、メイドのアルファルドさんに報告するために王宮に向かった。

イザールはルイザさんの宿で弓矢の手入れをするとのことだ。

瑞白さんは旅に使うための馬車を整備するとのことで王宮の中で別れた。彼はその足で厩舎に向かう。


王宮で掃除をしているメイドのアルファルドさんに運良く会うことができた。

僕は彼女に作戦案を説明する。

「かしこまりました。いよいよですね。わたくしの長針剣ニードルは必ずや皆さまのお役にたちましょう」

そう言いアルファルドさんは深々と僕たちに頭を下げた。

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