第21話その者の名は瑞白
翌日、僕たちは王宮で朝食をとった後、ハンナさんの白兎亭に向かった。
アルファルドさんはいざ交易の街ケイを奪還するとなったときに合流するてはずとなった。それまで彼女は王女の世話と王宮での雑事をこなすということだ。
ハンナさんの白兎亭には僕たちの帰還を聞きつけたルイザさんも来ていた。
「騎士さま、無事で良かったよ」
開口一番、ルイザさんは言うと僕を抱きしめその巨乳を顔に押しつけた。
これはすごい。
両頬に柔らかい肉の圧力がかかり、気持ちいい。息苦しいが顔をそむけることができない。胸いっぱいに流れ込むルイザさんの匂いは柑橘類の匂いがして、いい匂いだ。
ずっと嗅いでいたい。
でも力強く、誰かが引き離す。
それは麗華だった。引き離された僕は麗華に抱きしめられ、今度はあのJカップ超巨乳が僕の顔にあたる。いやあ、これもたまらない。
「ううんっ」
そんな様子を見て、イザールは咳払いする。
どうにか麗華から一度離れ、僕はハンナさんに挨拶した。あのボスゴブリンからとった首飾りを見せる。
「王都周辺の妖魔や盗賊はあらかた始末しました」
と僕はハンナに報告した。
これで一応、ハンナさんからの
「騎士さまたち、どうもありがとう。おかげで周辺の村々から少しだけど物資が入ってきて助かったよ。でも肝心のケイの街を取り戻さないと結局は詰んでしまうんだよね」
ハンナは言う。僕たちに紅茶を用意してくれた。
「そうなんですよ。あの奪還作戦が失敗して、次に王女殿下からケイの街を取り戻すのを僕たちが依頼されたんですよ」
僕はハンナさんに言った。
「そうそう、その話なら聞いているよ。あんたらの勇気には感服するよ。それでねぜひあんたらに会いたいって人がもうすぐ来るはずなんだよね」
ハンナさんはそう言い、観音開きの店の入り口を見た。
ちょうどいいタイミングで誰かが入ってきた。
細身の和装の人物であった。
腰に黒鞘の日本刀をぶら下げている。
このアヴァロン王国でまさか羽織袴の和装の剣士を見るとは思わなかった。
その人物はどうやら男性のようで髪は真っ白で顔には深いシワが刻まれているが足取りは軽く、背筋がのび、眼光も鋭い。
あれ、目つきが違うけどこの顔、どこかで見たことあるぞ。
少し考えて、思いだした。
あ、あの御者のおじいさんだ。
和装なのでぱっと見てわからなかった。
「和久燐太郎どの。拙者、瑞白と申す。国家存亡の危機にこの老骨、微力ながら力添えしたく参上いたしました」
あの御者のおじいさんとはきちっと話すのは初めてだったがハキハキとした口調で耳に心地いい、いい声をしている。
あの御者のおじいさんは瑞白さんというのか。名前もそういえば初めて知った。
でも、おじいさんの気持ちはありがたいけど、けっこう年なんだから無茶はいけないよ。ていねいに断ったほうがいいのかな。
とりあえず
あれっ、おじいさんちょっと微笑んだ?
剣士瑞白。レベル228。
えっ、何この戦闘力。グラフが突き抜けている。それは素早さも同じだ。魔力はほぼないが幸運もかなり高い。
それにレベルが半端ない。こんな高レベルな人見たことない。
クイクイと誰かが僕の腕のすそを引っ張る。
イザールが耳元でささやく。
「も、もしかしてこの人、剣聖瑞白じゃないかしら」
その口調は若干震えていた。
剣聖という異名を聞いてそのレベルの高さも頷けた。
「おじいさんもしかしてあの剣豪明けの明星なのかい」
ルイザもその派手な顔を驚きの色に染められている。
どうやらまた違う名前もあるようだ。
剣聖瑞白にして剣豪明けの明星。あの御者のおじいさんはそう呼ばれていたようだ。
「燐太郎、この人強いよ……桁違いにね」
麗華が真剣なまなざしで言う。さすが麗華だ。僕は素質を読まなければ気づかなかったけど麗華は鋭く感じとっていた。
「昔、そう呼ばれていたこともあるだけでござるよ。今はただのおいぼれ。多少腕に覚えのある……」
ふふっと微笑し、瑞白は言う。
この人が仲間になってくれたらまさに百人力だ。
「お願いします。どうか力を貸していただけますか」
この人を見抜けなかった自分が情けない。
でも、この人が仲間になってくれたら心強い。
「もちろんでごさるよ。そのためにここに参ったのですから」
そう言い、瑞白は僕の肩を叩き、手を握った。その手は固く、力強いものだった。
アルファドルに続き、僕たちアルタイルは五人目の仲間剣聖瑞白が加入した。
僕、麗華、イザール、瑞白はこの白兎亭で交易の都市ケイを取り戻すための作戦を練ることになった。
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