第18話 敗軍の騎士
エウリュアレの手紙を受け取った僕たちは一度、王都キャメロンに戻ることにした。
ヨークの村に戻り村長さんに挨拶したあと、僕たちは馬を一路、王都にむけて走らせた。僕と麗華はオリオンに股がり、イザールは村長さんの用意してくれた馬を走らせた。
しかし、いったいなんなのだろうか。
手紙の内容からしてかなりの不安を感じる。
ヨーク村を出て、その日の夜に王都キャメロンの城門にたどり着いた。
時間はもうすぐ次の日になろうといしているであろう。
城門にはあのそばかすの衛兵が立っていた。
僕たちを見つけると顔をあげ、声をかけてくる。
「あっ騎士さま。王宮のエウリュアレさまから伝言を預かっています。王宮にて王女殿下とお待ちしていますとのことです」
そばかすの衛兵は僕たちにつたえた。
ハンナさんやルイザさんたちのところに一度もどりたかったが、かなりの急をようするようなので僕たちはそのまま王宮キャメロンに向かった。
王宮にもどるとあの魔女エウリュアレが僕たちを出迎えてくれた。
「どうぞ、気をしっかりお持ちになってこの部屋にお入りください」
とエウリュアレは言う。
王宮のとある一室に僕たちは案内された。
いったいどういう意味だろうか。
疑問を頭に浮かびながら、僕たちはその部屋に入った。
「うわっ!!」
僕は思わず声をあげた。
そこにはあの
僕が声をあげた理由は彼のその姿だ。
顔中傷だらけで、左腕と右足が切断されていていまだなおその傷口から血を流していた。腹部にも裂傷があり、そこからも血が流れていてまかれた包帯がまっかであった。まさに文字通り瀕死の重傷を負っていた。
麗華もなにもいわないが、ぐっと歯をくいしばっている様子であった。
「これはひどいや」
イザールも口を押さえて言う。
ベッドの脇には王女リオネルとあのメイドさんが立っていた。
「王女殿下、和久さまがいらっしゃいました」
冷静にそのメイドは王女に声をかける。
王女リオネルは悲壮きわまりない顔で僕たちを見た。
その大きな瞳は涙でまっかであった。
「こ、これは……」
いったいどういうことなんだ。
この有り様はいったいなんなんだ。
あのいつも嫌みなほど自信たっぷりな笑顔を浮かべていた本田正勝が今まさに死に瀕しようとしている。
「交易の都市ケイの奪還作戦は失敗しました。ラインスロットさまは戦死、近衛団のほとんども戦死しました。本田正勝さまと少しの兵だけがこの王都キャメロンに帰還できました」
たんたんとエウリュアレは僕たちに言う。
「よう……おまえらか……」
本田正勝は言った。
言葉を発するたびに血を吐く。
「ざまあないな。このありさまだ……。和久、鷹峰、ローレライの歌に気を付けろ……」
そう言うと本田正勝は大量の血を吐き、死んでしまった。
そう、彼はまったく動かなくなった。
そのすぐ後、彼の体は光につつまれ何処へともなく消えていった。
残されたのは血だらけの衣服と包帯だけだった。
これはどういうことだ。
「本田さまはこちらでの肉体を失い、魂だけはもとの世界に戻りました。もとにもどられたあの方はこちらでのことを一切わすれてもとの世界で元通りにくらすでしょう」
エウリュアレは言った。
それはこちらで死んでも完全な死ではないということか。
一応、もとの世界に戻れるということか。
「そうです。この方はこちらに来る前にもどり、そのまま生活をおくるのです」
エウリュアレはそう補足した。
死ねばもとの世界に戻れるが記憶はすべて失われる。短いが麗華との記憶もうしなわれるのか。それは嫌だな。戻れるからといって死ぬことはできるだけさけたい。
「ああ……。これで我が国は終わりです。この方以外の星の騎士たちは帰ってきませんでした。ケイの街はいまだなお魔王軍に支配されたまま。もう我がアヴァロンには兵はいなくなりました。これでこの国はおしまいなのです」
泣き崩れ、リオネル王女は床に手をつく。
ぼたぼたと大粒の涙が床をぬらす。
僕は麗華とイザールの顔を見る。
二人はこくりとうなずいた。
「王女リオネル殿下。まだ諦めてはいけません。ここにまだ二人、星の騎士がのこっています。交易の街の奪還をこのアルタイルにご命じください」
僕は言った。
妹そっくりの顔をしたリオネル王女は涙目の顔をあげ、僕の顔を見た。
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