第14話 夜営

 ふらつきながらオリオンを降り、きれいに二分されたボスゴブリンの遺体に近寄る。

 やつの首には動物の牙と小さな宝石で出来た首飾りがかけられていた。

 遺体から物をとるのはなんだか気が引けたが、これは仕方がない。

 この首飾りはボスゴブリンだけが着けているとハンナが出発前に言っていた。

 すなわちこれを回収するということはゴブリンの一団を壊滅させた証明になる。


 称号「ゴブリンスレイヤー」を獲得しました。

 また視界に文字が増える。


「さあ、一仕事終えたし旅を続けましょうか」

 麗華は言った。

 僕はゴブリンの首飾りをリュックに入れる。

 また、麗華の手を掴み、オリオンにまたがる。

 ほんの数日前まで手を握るなんて夢みたいに思っていたのに今は普通にしているや。

 それだけではなく、こうして背中にしがみついている。

 麗華の体温が温かくて気持ちいい。

 人と触れあうことがこんなに気持ちいいなんて知らなかった。



 僕たちは街道を南下したが、ヨークの村には日があるうちにはたどりつけそうにないようだ。

 夕日が西に沈もうとしている。

 街道沿いのひときわ大きな街路樹のそばに小屋を見つけた。

 麗華の提案でその小屋で今晩は泊まることになった。



 これらの小屋は街道を行く旅行者や行商人たちのために王国が用意したものだとルイザが言っていた。

 魔王軍の侵略を受けた今は使用者も少なく、朽ちていく一方だという。

 僕たちが見つけた小屋は質素ながらもそこまで壊れていなくて、一晩泊まるぐらいは十分だと思う。


 前の戦闘で麗華もそれなりに疲労していて、夜にゴブリンたちと戦闘をするのはつらいとのことだった。

 街灯などもない異世界アヴァロン王国では夜はすなわち闇そのものだ。

実戦できるのは麗華だけの現状、無理は禁物だと思えた。


 小屋の中は机とベッドだけというシンプルなものだった。

 オリオンを街路樹につなぎ、僕たちは中にはいる。

 携帯用のランタンに火を灯し、テーブルに置く。

 僕たちは干し肉と黒パンという簡単な食事をとった。空腹なのでうまく感じるな。

「ほらまたパンがついているよ」

 麗華は言い、またもや僕の頬に着いていたパンくずをとって食べてしまった。

 学校では女帝のように学生たちに畏敬の念で見られていた麗華がこんなに優しいなんて知らなかった。悠然と校舎を闊歩する麗華もすきだけど今のなにかと優しい麗華も好きだな。



 食事を終えた僕たちは早いが睡眠をとることにした。

 床で毛布にくるまって眠ろうとしている僕にこっちに来なよとベッドの上から麗華が声をかけた。


 いや、さすがにまずいよ。


「夜は冷えるからさ」

 麗華が言う。にこりと微笑む。


「えっ、でも……」

 いいのかな。麗華と添い寝なんて夢のようだけど。そうしたくてたまらないけどやっぱりためらってしまう。

 僕がためらっているともうっと言い、麗華は僕の手をつかみ、無理矢理ベッドの上につれていく。

 うわっ強引だな。僕はされるがままだ。

 まあ、麗華がいいっていうならいいかな。

 麗華は自分の毛布で僕ごと包み、密着する。

 うわっ、温かいや。

 日が沈み、さすがに冷えてきたのでこの温かさはたまらない。

 それになんだか落ち着くや。

 麗華か長い腕をのばし、僕に抱きつく。

 ううっ、柔らかい。

 僕の胸にあの超巨乳のJカップが当たっているよ。

「ほら、こうすると温かいでしょ。二人しかいないんだから遠慮しないでよ」

 ふふっと麗華は微笑む。

 間近で見る麗華の顔はとんでもなく綺麗でかわいい。僕の頬にあたる吐息も甘くて、ずっと吸っていたい。

 つかれているのだろう、麗華は直ぐに寝息をたてる。


じゃあ、遠慮なく。僕はごくりと生唾を飲み込む。


 僕も腕をのばし麗華に抱きつく。

 密着するとよくわかる。

 麗華はいい匂いがして、その体は極上の柔らかさだ。

 ううん、これはたまらん。

 それに寝顔の麗華は国宝級にかわいい。

 正直、この顔を見ているだけでいっちゃいそうになるぐらい。


 残念ながら僕も騎馬の旅で半日とはいえ疲れたので眠ってしまった。

念のため不可侵領域を発動させておいた。

 やり方は簡単だった。

 羽ペンを握り、精神を集中させるだけで固有特技ユニークスキルを発動できた。



 すやすやと眠っていたが誰かが小屋に入ってきた。

 僕だけが気がついた。

 麗華は僕に抱きついたまま、寝息をたてている。

 その何者かは近づき、僕の顔をのぞきこむ。

 その人物は口に人差し指を立てて、あてている。

 聞こえるか聞こえないかの微妙な小声でシッーと言う。


「やあ、こんばんは。うちはステンノー。君のリビドーの化身だよ」

 彼女は言った。その顔はあのメドゥーサやエウリュアレにそっくりだ。

 机の上に置いてあったランタンに照らされた髪は亜麻色だった。

 そう、髪の色だけが彼女らと違った。

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