第9話 蛇の目

 左目に激痛が走ったのもそれは一瞬であった。

 すぐに痛みはおさまる。いったいなんだったのだろうか。


「こちらをご覧下さい」

 エウリュアレは手鏡を差し出す。


 それを持ち、自分の顔をみる。

 何度見てもパッとしない顔だな。

 あれっ様子がおかしいぞ。

 左目が真っ赤だ。

 鮮血のように赤い。

 それはメドゥーサや目の前のエウリュアレと同じように。


「それは蛇眼スネイクアイといい魔力をおびた瞳です。私やメドゥーサのようにね。そしてこれをかけてください」

 またもや胸元から何かとりだす。


 それは丸型のサングラスだった。

 

 彼女の胸元は四次元ポケットかなにかか。

 ためしにそのサングラスをかけてみる。


「外ではそれをかけていてくださいね。蛇眼はこの国では忌み嫌われてるの。なんだかしらないけど蛇は悪魔の化身らしいのよね。ほんと腹立たしいわ」

 エウリュアレはそう言い、ぷんすか怒り出す。

 

 僕はその様子をサングラス越しに見る。

 視界がおかしいぞ。

 視界の左端にグラフと数字、文字が浮かんでいる。

  まるでゲームのステータス画面みたいだな。

 それを読んでみる。


 魔女エウリュアレ

 レベル72

 グラフは魔力、戦闘力、素早さ、幸運の四つがある。

 戦闘力と素早さは低いが魔力が突き抜けて高い。

 それにまだ何かあるぞ。

 B80、W52、H76。

 これってまさか……。スリーサイズか……。


「そのサングラスは別名オーディンの義眼。魔力を持つ瞳でみると任意の相手の素質ステータスを見ることができるのよ」

 エウリュアレは説明する。


 なるほどステータスが見えるのか。

 ロールプレイングゲームみたいだな。

 しかもスリーサイズまで見えるなんて。むふっ……。


「そうよ。まあ、うまく使ってちょうだいね」

 エウリュアレはスリーサイズがばれているであろうに平然としている。まあ、スタイルがいいから気にしないのかな。

「あなたはこの世界ものがたりの主人公なんだから頑張ってね」

 冷たい手で僕の手を握るとエウリュアレは言った。


「わかったよ。残りの蛇の呪符スネイクカードを集めるよ」

 僕はそう言い、魔女の館を後にした。



 おじいさんの御者が迎えに来てくれたが僕はていねいに断った。

 あの七人がいる王宮には戻る気にはなれなかった。

 自信満々でしかもそれが実力に裏付けされている彼らと顔を会わせたくなかった。真田雪以外は完全に僕を見下した目で見ている。長年、人の顔色をうかがって生きてきた僕にはわかるんだ。


 ただ鷹峰麗華だけは、例外だった。

 彼女だけには会いたい。

 しかし、もれなく他の星たちがついてくる。

 特にあの渡辺蓮の顔は見たくなかった。

 どう比べても彼には勝てる気がしないからだ。生物学的な雄としてまったく勝てる気がしない。でも、会わなければ比べることもないだろう。



 エウリュアレに王宮には戻りたくないというと近くの酒場兼宿屋を紹介してくれた。

 御者のおじいさんが王宮に帰る代わりにその酒場に送ってくれた。



「あんたが魔女様が言っていた騎士さまだね」

 酒場の女将が僕の顔を見て言った。

 胸元のざっくり開いた服を着ていて腰にはエプロンを巻いている。

 おおっけっこうボリュームのあるおっぱいだな。

 まさに熟れに熟れたスイカといったところか。

 試しに見てみるか。


 酒場の女将ルイザ

 レベル16

 おっ意外と戦闘力がある。鉄火肌の姉御と言った感じかな。

 B96、W78、H98。

 おっぱい星人の僕にとってはけっこう好みのスタイル。

 一人ニヤニヤしてしまう。これはいい、ついつい視線を送ってしまう。



「どうしたんだい、一人で笑って。まあ、いいわ。お腹空いてるでしょ、何か用意するから座ってな」

 ルイザはそう言い、厨房に消えていく。



 ほどなくして大皿を持ってきて僕の目の前に置く。

 それはシチューだったが具は思っているより少ない。やはり物資不足がこんなところにも来ているのだろう。

 今は食べられるだけでもありがたい。

 僕はいただきますと言い、シチューを口に入れる。具は少ないが味はかなりいける。

 ルイザが工夫しているのだろう。これで具材がちゃんとあれば絶品間違いない。女将さんはかなりの料理上手なのだろう。


「もっと材料があればいいんだけどね。他の都市からは何もはいってこないし、最近では周囲の村からも仕入れられなくなっててさ」

 ルイザは僕の隣に座る。

 おおっこの人もおっぱいがテーブルに乗っている。巨乳の人はテーブルにおっぱいを乗せる癖があるのかな。たしかに重そうだからそうすると楽なのかも知れない。

 ルイザはこれみよがしにテーブルにのせた胸の谷間を強調する。うふっこれは絶景かな。



 ルイザさんの話では正規軍が壊滅したことにより王都周辺の治安が悪化し、盗賊やゴブリン、コボルトなどの魔物が出現して近郊の村々からも物資が入ってこないのだという。


 僕はこのルイザさんの酒場兼宿屋で無為な日々を三日ほど過ごした。

 異世界アヴァロンに着て四日目、ルイザさんがラインスロット将軍が交易の街ケイを奪還するため出陣すると伝えた。

 閉じ籠っていても仕方無いからと無理矢理僕の腕をつかみ、ルイザは出兵式に僕を連れていった。


 もう、強引だな。でもなんだか悪くないや。

 三日ほどだかこの宿屋に泊まりルイザさんの優しさが身にしみてわかった。

根っからのお節介で優しい人間はいるもんだ。



王都の大通りを鎧に身を包んだ兵団が進軍する。

先頭を騎馬で行くのはあのラインスロットだ。こう見るとすごく頼もしく見える。

その後に、結城涼、本田正勝、羽柴マリア、渡辺蓮、石川咲夜、真田雪が続く。

皆がそれぞれの星霊器を持ち、その姿は伝説の七騎士にふさわしく、優美この上ない。


あれっ、一人足りないぞ。

あの麗しの鷹峰霊華がいない。

彼女が騎乗するすがたはそれはそれは絵になるはずなのに。


「彼らとは袂をわかったのさ」

背後で声がする。

振り向くとそこにはあの超特大ロケットおっぱいがある。そんなのを持つのは僕の知る限り鷹峰麗華しかいない。

そしてその通りだった。

声の主は鷹峰麗華であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る