第8話 魔女の館

 訓練場を後にした僕は近くにいた衛兵に声をかける。


 その衛兵は僕よりも年下でそばかすのあどけない少女だった。

 ベテラン兵士たちが魔王軍との戦いで戦死したため王宮で働くことになったという。働き口があるだけ自分はまだましだとも言っていた。

 エウリュアレの館に行きたいというとそのそばかすの衛兵は親切に馬車を用意してくれた。

 二頭引きの馬車におじいさんの御者。

 馬もおじいさんもどことなく痩せているように見える。

 僕はその馬車に乗り、エウリュアレの館、別名魔女の館に向かった。



 馬車の窓から見える王都の風景はなんだか色褪せて見える。大通りに人や店は少なく、店が開いていても恐ろしく品揃えが悪い。それは遠目でもわかるほどだ。

 ああーこれはひどいや。

 消費型の都市が物資不足、人不足になった末路の光景が目の前に広がっている。

 この王都に活気を取り戻すには失われた領土を取り戻さないといけないというわけだ。

 僕はぼんやりと窓からの景色を眺めていると御者のおじいさんが到着しましたと教えてくれた。

 僕の目の前にはいかにも西洋式のお屋敷があった。

 不思議なことに鉄の門が勝手に開く。

 どうやら魔女の館は僕をうけいれてくれるようだ。

 御者のおじいさんは一度王宮に戻りますと言い、帰っていった。



 僕が屋敷の玄関に立つとまたもや自動で開く。

 屋敷の中に入ると奥の部屋の扉が開く。

 たぶんだけど道案内してくれているのだろう。

 開いていくドアのところに行けばいいんだよな。

 奥の部屋のさらに奥のドアを開けるとそこにはあの魔女エウリュアレがいた。

「お待ちしていました。よくおいでくださいました」

 エウリュアレの進めで僕は椅子に腰かける。

 エウリュアレはテーブルを挟み僕の向かいに座る。

 そしてパッチリと目蓋を開けた。

 その両の瞳はやはり鮮血のように真っ赤だ。



「はー疲れるわ。目が見えないふりも楽じゃないわ」

 エウリュアレは言い、パンパンと手を叩く。

 紅茶とクッキーが盛られた大皿が空を浮きやってきてテーブルの上に置かれた。

「これは秘蔵のものよ。お茶しながら話しましょうか」

 そう言い、エウリュアレはポリポリとクッキーを食べる。

 僕も遠慮せずに苺ジャムの乗るクッキーを食べる。いい甘さが心地よい。



「あらためて自己紹介するわね。私はエウリュアレ。君をこっちによこしたメドゥーサと同じあなたのリビドーが擬人化したものよ」

 エウリュアレは言った。思った通りエウリュアレとメドゥーサは関係があるようだ。

「私はあなただから、まあ安心してよ」

 よくわからないことをエウリュアレは言い、またクッキーをポリポリと食べる。


「さて、本題に入りましょうか。あなたはメドゥーサによってこの異世界アヴァロン王国に転移してきました。救国の七騎士の八番目としてね」

 エウリュアレは言う。

 そうだ、僕はメドゥーサによってこっちに送り込まれた。でも授与された星霊器は羽ペンでどう考えても僕は七騎士の一人なんかになれるわけではない。

 この国を救うのはやっぱりあの七人の星たちセブンスターズに違いない。


「それは間違いね。あの人たちにこの国は救えないわ。救えるのはあなた。これを使ってね」

 そう言い、エウリュアレは胸元から一枚のカードを取り出した。

 そこには三匹の蛇が複雑に絡んだ絵がかかれている。

「これはね蛇の呪符スネイクカードよ」

 エウリュアレはカードをひっくり返す。

 そこには見慣れたイラストが描かれている。

 そのカードにはフリルのついた衣装を着たベレー帽の可愛らしい少女が描かれている。

「これはあずきちゃん‼️」

 思わず言ってしまう。


 そのキャラは僕のオリジナルで魔法少女マジカルプリンセスあずきだ。

アイドルを夢見るあずきちゃんは歌王国の危機を救うために王女の音符ちゃんと共に悪のノイズ帝国と戦うという設定だ。

 突如目の前にオリキャラを出されてかなり恥ずかしいじゃないか。


「そうこの蛇の呪符には小豆ちゃんの能力が封印されているの。あなたの羽ペンはこのカードと対になっているの。そしてメドゥーサはこのカードを王国に他に六枚ばらまいた。すなわち全部で七枚。本当の七騎士はこの蛇の呪符のことよ。燐太郎さん、あなたはこのカードを集めてこの国を救い、最後に大好きな鷹峰麗華を手に入れるのよ」

 エウリュアレは言った。


 僕はそのカードを手にとり、じっと見つめる。その筆致は確実に僕のものだ。

僕があのスケッチブックに描いたものだ。

 それがカードになっている。


「そのカードの魔力を引き出せるのはそのレオナルドの羽ペンだけよ。そしてもう一つ、主人公特典としてこれをサービスするわね」

 エウリュアレはぐっと顔を近づける。

 近くで見るとなかなかかわいい顔をしている。目が真っ赤だけど。

 彼女はふっと僕の左目に息をかける。

 次の瞬間、左目に激痛が走る。

 うわっと僕は思わず叫び、左目を手でおさえた。



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