第10話

「あんれまあ、あんたら戻ってきたのかいな」

 図書館に入ってくるなり、汚れきった姿の二人は卒倒するように倒れ込んだ。床にゴロンと横になったまま動こうとしない。椅子に座っていた老婆は、その様子を見てだいたいの事情を察するのだ。

「そんで、収穫はあったかいな」

 二人は無言だった。もちろん、なにもなかったということである。

「まあ、そんなもんだべ」

 老婆は立ち上がると、部屋の奥まで行き、大きな鍋を持ってきた。そして倉之助隊長と紀美子隊員に、食卓へ座るように言った。二人の反応は極めて薄かった。

「ほんれ、おまえたち、いつまでもふて腐れてねえで、飯食えや」

 飯、という言葉を聞いて、エロ本探索隊はやっと顔をあげた。のろのろとした緩慢な動きで、ようやっと食卓についた。

「ほうれ、うめえぞ」

 大なべの中身は、塩ゆでした大量の大タニシだ。倉之助隊長と紀美子隊員が出かけている間に、老婆がナンシーとともに獲ってきたのだ。

 貝類特有のいい香りを浴びて、二人の顔は血色がよくなってきた。本当は相当に泥臭いのだが、普段から泥臭いものばかり食べているので気にならなくなっていた。

「いたたきマンモス~」

「いただきます」

 二人は猛然と食べ始めた。

「これはうまいや」

「すごくおいしい」

 タニシは、外来種のいわゆるジャンボタニシであり、在来の種類と比べると相当に大きかった。遺伝子の異常なのか、中には握りこぶしほどの大物もあり、それはもはやタニシの範疇かどうか疑わしほどだった。

 隊長がその大物の中身に箸をつっ込み、グリグリとほじくり出して、しばし見つめていた。

「紀美子くん、このタニシの形、ちょっとエロくないか」

 タニシを食べることに夢中な紀美子隊員は、彼の言うことを聞いていない。

「うん、こんなところにもエロがいたのか」

 ジューシーなそれに舌鼓を打ちながら、倉之助隊長は新たなエロの発見に上機嫌であった。                              

                                   おわり

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橋の下エロ本探索隊 北見崇史 @dvdloto

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