第28話 距離が縮まるほどに
「……ヤダ、はしたない。お顔見ないで」
先輩との行為を終えた後、すっきりして我に返って千冬を見ると、彼女も冷静になったようで、自宅のリビングで俺と激しく絡み合ったことに恥ずかしさを覚えながら顔を隠す。
「お、俺こそすみません……つい」
「ううん、私が我慢できなかったから。はしたない……」
恥じらう先輩がこれまた可愛い。
そんな様子を見ていると、すっかり枯れ果てたと思っていた俺の身体がまた少し元気になる。
「……続き、うちでしてもいいですか?」
「うん。お風呂、入りたいね」
「はい」
服を着て、さっさと千冬の家をあとにする。
幸いソファは汚れてなかったけど、ああいうことはちゃんとベッドの上でするようにしよう。
所かまわず、なんて思っていたらそれこそどこでだって千冬を求めかねない。
それくらい、彼女は魅力的なんだから。
「あ、そういえば晩御飯まだでしたね」
「……敬語ヤダ」
「え、あ、すみませんつい」
「ヤダ」
「う、うん」
「使ったら、怒るよ?」
「……わかった」
こうやって、俺との距離をどんどん縮めてくれる千冬は、ぴったり俺の隣から離れない。
このままくっついてしまいそうなほど密着したまま、二人で俺の部屋に戻る。
「……斗真君の部屋、落ち着く」
「うん。でも、二人でずっとってなるとちょっと狭いよね」
「ううん、狭い方がいいの。近くにいられるから」
玄関で靴を脱ぐとまずキスをされて。
そのあと、千冬は「あるものでご飯作るね」と言って料理を始める。
俺は風呂の準備をして、再びキッチンにいくと「部屋にいて」と言われたので一度部屋に戻る。
その間も、ずっと千冬のことで頭がいっぱいだった。
さっきしたばかりだというのにまたムラムラしたり。
明日からもずっと一緒にいられるのかと不安になったり。
でも、
「斗真君、炒飯にしたよ」
嬉しそうにちょっと遅めの晩御飯を持って笑いかける彼女を見ると、そんな気持ちは全部どこかへ飛んでいく。
このまま彼女とずっと、一緒にいたい。
そんな気持ちに溺れながら、今日の夜も彼女に溶けていった。
◇
「……おはよう、斗真君」
朝、目が覚めると可愛い千冬の寝顔がそこにある。
いつもなら気怠い寝起きも、爽快な気分にさせられる。
「うん、おはよう千冬。今日も学校だね」
「学校、行きたくないな。斗真君と離れ離れになっちゃうもん」
「仕方ないよ。でも、お昼は一緒に食べよ」
「うん、大好き斗真君……」
朝から早速一戦交えて、と言いたいところだったがさすがに時間がなく、千冬が作ってくれたオムレツとスープで元気をつけてから一緒に家を出る。
千冬はしばらく俺のところにいるつもりのようだ。
その証拠に、昨日自宅から部屋着と制服を何着かずつ持ってきていた。
今日も一緒にいられる。
そう思うだけで一日頑張れる。
「そういえば、千冬の親友の円佳さんってどんな人なの?」
「え、円佳に興味あるの? ヤダ、会わせない」
「ち、違うよ。ほら、千冬がいつもお世話になってるなら挨拶くらいしないとって」
「挨拶……うん、それじゃ今日は円佳も誘って三人でご飯食べる?」
「それいいですね。じゃあ、お願いします」
そんな話をしていると学校に着く。
千冬は、やっぱり離れたくない様子で俺を見てくるので「教室まで送ろうか?」と訊く。
すると、
「……やっぱり離れたくないよ。寂しい、ヤダよ」
「ちょ、ちょっと千冬?」
「やだ、やだ……」
靴箱のところで泣き始めてしまった。
少し時間が早くて周りに人がいなかったのが幸いだったけど、慌てて俺は彼女を連れて人の少ない校舎裏まで行く。
そして階段に並んで座って慰めていると、ようやく千冬が落ち着きを取り戻してくる。
「……ごめんなさい、私、斗真君を困らせちゃう」
「いいよ、全然。そんなに一緒にいたいと思ってくれるの、嬉しいから」
「斗真君……うん、大好き。大好きなの、大好きだから、離れたくないの」
「俺だってそうだよ。でも、ちょっとの我慢だよ」
「うん……」
なんとか気持ちに踏ん切りをつけようと頑張る千冬だが、しかし体がいうことを聞かない様子。
俺にもたれかかったまま、時間だけが過ぎていく。
もうすぐ始業時間だ。
そろそろ教室に行かないといけなくなる。
「……千冬、そろそろ」
「わかってるの……でも、嫌なの」
「うん……」
まあ、たまに遅刻くらいいいかって気持ちにもなってくるが、しかし毎日こうだとさすがに俺も千冬も学業に支障をきたすから困ったものだと。
どうするべきか悩んでいたところで、千冬がスマホを取り出す。
「……円佳、呼んでもいい?」
「あ、迎えにきてもらうの? いいよ」
「うん……」
さっと、ラインを送ると少しして後ろから足音がする。
「千冬、どうしたのよ一体」
やってきたのはショートカットのきりっとした顔立ちの美人。
ちょっと背が低いが、スポーツ少女って感じのしっかりした印象の人だ。
「あ、円佳。うん……あのね、斗真君と離れたくなくて」
「それで私にお迎えってか。ま、いいけど。あ、私円佳です、よろしく後輩君」
「あ、どうも」
なんとも雑なはじめましてだったが、その程度でよかったのかもしれない。
円佳さんに頭を下げると、千冬は昨日俺がフィギュアをチラ見して怒っていた時と同じような目で俺を見ていたから。
まだ、俺って信用ないのかな……。
「じゃあ、千冬は私が引き取るから。後輩君、またね」
「は、はいよろしくお願いします」
抵抗を続ける千冬に対して、「ほら、嫌われるわよ」とか言いながらなだめる円佳さんは随分と千冬の扱いに長けている様子だった。
最後には、あれほど動く気配を見せなかった千冬が「ヤダ、ヤダ嫌われたくない」とか言って泣きそうになりながらも円佳さんについていってようやく教室へ戻っていった。
その様子を見届けてから、なるほどそういう方法もあるんだなあとか感心しながらも、俺には出来ないなと思ったところでチャイムが鳴る。
見事に、遅刻となった。
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