第27話 このままここで、
「じゃあ、帰りましょうか」
「うん」
結局、先輩がほしがるものはなかった。
俺も、ちょっとほしかったフィギュアに今生の別れを告げた。
アニメとかでも先輩は嫉妬するんだってことがわかったのが収穫か。
……気をつけよう。
「斗真君、今日は何食べたい?」
「んー、先輩の作るものならなんでも」
「じゃあ、今日は家に野菜と海老がもらってあったからアヒージョにするね」
一度、先輩の家に食材を取りに帰ることになった。
「今日、お母さんいるんだけど、挨拶してくれる?」
「え、そうなんですか? ま、まあその辺はちゃんとしたいので、はい」
「うん。お母さんも喜ぶと思うから」
ちょっと急な展開だ。
まさか今日、先輩の家族と会うなんて想像もしていなかったから、いきなり緊張感が俺を襲う。
そんなこともあってちょっと口数を減らしていると、「さっきのお人形さんに未練あるの?」と訊かれて慌てて首を横に振る。
妬いてる時の先輩の目は、やっぱりちょっと怖い。
何か目の奥が濁っている。
何も気にしてませんよ、と言いながら話を逸らしていると、先輩の家に着く。
一度あがらせてもらったことがあるけど、あの時は誰もいないとわかっていたので緊張もそこそこだったが。
今日はそうもいかない。
先輩のお母さんがいる。
そして俺を紹介してくれるという。
「ただいま」
玄関をあけると電気がついていて。
先輩の声に反応して、奥からトトトっと足音がする。
「あら、おかえり千冬。その子は?」
「お母さん、この人が私を助けてくれた人」
「あー、その節は本当に娘がお世話になりました!」
「い、いえ、そんな」
「ごめんなさいお礼も何もしなくて。ささっ、あがってあがって」
先輩から想像する母親像って、もっときれいでセクシーな人だと思っていたけど全然普通の、確かに綺麗だけどおっとりした母親って感じの人だった。
俺は言われるまま、このまえ通されたリビングにまた連れていかれ、今日は先輩と二人で一緒にソファに座る。
「お母さん、人見知りしない人だから。ごめんね」
「い、いえ。明るい人、ですね」
「明るい女の人の方がいい?」
「そ、そういう話じゃないですよ」
「うん」
でも、一体何を話せばいいのか。
なんてことを考えていると先輩のお母さんがお茶をお盆に乗せて戻ってくる。
「お待たせ。ほんと、この子ったらお礼したいから紹介しなさいって言っても全然教えてくれなくて」
「お母さん、綺麗だもん」
「またまた、実の母親に嫉妬する子がありますかって。私は茅森千春です、確か相楽君、だったっけ?」
「は、はい。相楽斗真です」
「この子、家に帰っても相楽君相楽君ってね。でも、あの事件のあとも色々お世話になってるんでしょ? いつも娘をありがとうございます」
「そ、そんな。俺こそいつもせんぱ……千冬さんにはお世話になってまして」
「うんうん、ゆっくりしていってね。千冬、私は出かけてくるけど今日はうちでご飯食べる?」
「ううん、斗真君のおうちで食べる。あと、今日も泊まるから」
「あら、そう。じゃあ、ごゆっくりね」
むふっと嬉しそうに笑うと、先輩のお母さんはお茶とケーキを置いてそのまま出て行った。
「……お母さん、いい人ですね」
「うん、とても。結構モテるって、言ってた」
「そ、そうですか。綺麗ですもんね」
「私より綺麗?」
「そ、そんなこと……ないですって」
「うん。ケーキ、食べよっか」
「は、はい。いただきます」
ちょっとだけ、ほっとした。
母子家庭ってどんな感じなのかなとか、たった二人の家族なのに先輩が家に帰らなくてお母さんは寂しくないのかなとか、そんな心配ばかりしていたけど。
話した時間はわずかだが、俺のことを多分好意的に見てくれていたし、先輩が俺のところにいくのもオッケーな様子だった。
とりあえずこれで今日は先輩と一緒にいられる。
そう思うと、また胸がドキドキと。
さっきまでとは違う緊張が俺を襲う。
「……斗真君、さっき名前、呼んでくれたね」
「え、ええ。まあ、先輩って言い方もお母さんの前では変ですし」
「……名前で、呼んでくれる?」
「え、ええと。い、いいんですか?」
「うん、じゃないと反応しないから」
「……千冬、さん」
「ダメ。よそよそしいから、泣いちゃう」
「え、ええと……ちふ、ゆ」
「うん、大好き」
そのまま、俺にキスをしながらもたれてくるとバランスを崩してしまい。
押し倒されたように俺はソファに横たわる。
先輩はそんな俺に馬乗りになったまま、笑顔になる。
「斗真君……このまま、ここでしたい」
「え、でもさすがにリビングでは」
「私、魅力ない? 我慢できちゃうの? 私、我慢できない……」
「……うん」
千冬に求められるまま、俺も千冬を求める。
寝転んだまま、俺の穿いているものはスルスルと脱がされて。
千冬の着ているものをとっぱらって。
そのまま、絡み合うように互いに抱き合って。
また、千冬の中に入っていく。
彼女の体温が、俺の脳をゆっくり溶かしていく。
「斗真君……斗真君……あっ!」
彼女の細く、それでいて柔らかみのある白い身体が何度も跳ねる。
誰もいない広い部屋の中で、甲高い声が響く。
そして、晩御飯の事などすっかり忘れてこみ上げてくる快感を何度も何度も愉しんで。
気が付けば外はすっかり暗くなっていた。
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