第26話 嫉妬の対象
♥
斗真君が私の手を引いて、さりげなく道路側を歩いて私を庇うように隣にいてくれる。
こうしていると、少し心が安らぐ。
今、ちゃんと斗真君と気持ちが繋がってるって思えると、少しだけ濡れにくくなった気がする。
安心感、なのかな。
もちろん彼を求める気持ちは変わらないけど。
ずっとそばにいてくれると思うと、心が安らぐ。
斗真君……夕陽を浴びて眩しそうに目を細める姿もかっこいい。
時々私の方を見て笑ってくれる笑顔も、素敵。
キスした時、緊張して体がぴくってなるの、すっごくかわいい。
全部、好き。
やっぱり、ずっとこうしていたい。
学校なんて行きたくない。
家になんて帰らなくていい。
……やっぱり、ちょっと濡れてきちゃった。
♠
「ええと、あったあった」
駅の裏に、ちょっと古びたゲームセンターがあることを俺は知っていた。
でも、一人で入る勇気がなくて寄ったことはないんだけど、友人から聞く話だと結構レアなフィギュアとか、昔のゲームソフトとかが景品になっていてお宝探しにもってこいだとか。
「先輩、ぬいぐるみとかは好きですか?」
「うん、かわいいものは好き」
「じゃあ、なんかほしいものがあったら言ってくださいね」
「ほしいもの……斗真君」
「はい、なんですか?」
「斗真君……」
「は、はい?」
「いじわる……」
何度も俺を呼ぶ先輩は、結局何も言わずに黙ってしまう。
呼びたかっただけ、ってやつかな。
なんか、ラブラブだなって我ながら思ってしまう。
「ええと、ちょっと暗いな」
中はひんやりと冷房が効いていて、薄暗い。
いらっしゃいませの声もなく、しかし手前のレーシングゲームを学生がプレイしていたので閉まっているわけではなさそうだ。
「ふーん、こんな感じなのか。先輩、クレーンゲームはあっちですよ」
「……プリクラ」
「え?」
先輩は、奥のプリクラの機械を見つけると俺を引っ張るようにそっちへ行く。
「これ、写真撮るやつだね」
「そ、そうですね。俺も撮ったことはありませんけど」
「やってみたい……」
「じゃあ、入りましょうか」
「うん」
プリクラなんて、リア充な連中しかやってるのを見たことがないからこれが初体験。
どうやら先輩もそのようで、中に入るとキョロキョロしてから、液晶画面を不思議そうに眺めていた。
「斗真君、これって色々加工できるんだ」
「みたいですね。やりすぎて誰かわからなくなってるのもありますが」
「うん、やってみたい。斗真君と、やってみたいな」
「はい、俺も。先輩とプリクラなんて夢みたいです」
既にやることをやった関係だけど、こうして恋人らしいことはまだ何もしていない。
こうやって一個ずつ思い出を作っていくのも、楽しくて幸せなこと。
先輩となら、何をしても楽しい。
「じゃあお金入れて……あ、動きましたね」
互いに初めて同士、探りながら液晶画面を次に進めていき、フレームやらなんやらをよくわからずに選んで。
撮影しますと、画面に表示された。
「あ、撮るみたいですよ」
「斗真君……んっ」
「え、い、今ですか?」
「んっ」
「あ」
顔を寄せたところで、先輩が俺にキスをする。
そして先輩の唇の感触が伝わったとほぼ同時に『カシャっ』と音が鳴る。
画面には、俺と先輩がキスしているところがしっかりとられていた。
「……斗真君、美味しい」
「あ、ええと、うん……」
「もう一回、してもいい?」
「え……あ」
今度はもっと深く。
絡めとるようなキスをされて、俺は頭が真っ白になった。
そこからずっと、先輩とキスをして。
アナウンスの機械音声と、シャッターの音が何度か繰り返さされる間ずっと、先輩は俺を離してくれなくて。
結局、撮れた写真はどれもキスをしているところばかり。
でも、出来上がった写真を見ると先輩はとても嬉しそうだった。
「斗真君とキス、してる」
「そ、そうですね。なんか恥ずかしい」
「嬉しい……これ、教室の机に貼ってもいいかな?」
「そ、それはさすがに、まずいんじゃないですかね」
「どうして? やっぱり私とキスしてるとこ、見られたら困るの?」
「そ、そうじゃなくて学校の備品、ですから」
「あ、そうだね。うん、やめとく」
「……」
心の中で、ふうっとため息をつく。
あまり露骨に安心したところを見せたら、また先輩に「どうしたの?」とか聞かれそうなので我慢したけど。
でも、俺とのキス写真を人に見られるのって恥ずかしくないのかな?
時々、先輩がよくわからなくなる。
人見知りっぽいけど大胆だし、男嫌いだけど距離は近いし。
俺だから、なのか?
だとすれば嬉しい限りだけど、やっぱり俺はまだまだ先輩の事を知らない。
「先輩、今度こそクレーンゲームやりましょうか」
「うん。可愛い人形、あるといいね」
プリクラを終えて奥に行くと、クレーンゲームがずらりと並んでいて。
客は誰もいないけど、結構大きなぬいぐるみとか流行りのアニメキャラのフィギュアとかが並んでいる。
「へえ、いっぱいある」
あとは先輩の好みのものがあればいいなと。
思ったその時、俺の目にあるものが飛び込む。
俺が好きなアニメのメインヒロインのフィギュア。
普通に買えば二万円くらいするものが、一回百円のクレーンゲームの景品としてガラスケースの中にある。
ほしい、と思ったけど。
でも、結構服装もきわどくてセクシーなキャラだし、先輩とデートしてる時にほしがるのはどうかと。
チラチラと見てしまうのを耐えながら先輩に、「何かありました?」と聞いてみると。
「あれがいい」と。
指さしたのは俺が欲しがっていたフィギュア。
思わず「えっ!」と声が出てしまう。
「あれ、ほしいかな」
「そ、それって……先輩もアニメとか、見るんですか?」
「ううん、あんまり」
「そ、それならどうして」
「斗真君の視線を独り占めする悪い子だから、連れて帰って幽閉するの」
「え……」
「斗真君、ああいう女の子が好きなの?」
「あ、いや、そういうわけじゃなくて」
「じゃあ、他の子なんて見ちゃダメ……」
「んっ」
ガラスケースの前で、先輩に両頬を持たれてキスをされて。
そのまま、何度かちゅるっと音をさせながら口の中を探られるように舌を絡められた後で。
「もう、あのお人形さんいらない?」
と。
少し口を湿らせながら俺を見る先輩は、可愛いけどちょっと怖かった。
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