第22話 その想いはすくすくと
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「……ん、あれ?」
二度寝をしたあと、次に目が覚めたら部屋は明るかった。
なんと、半日も寝ていたのか俺は。
それだけ消耗したってこと、なのだろうか。
ふと、隣を見る。
すると、そこに先輩はいなくて。
でも、そこにたしかに彼女がいたぬくもりだけ残っていた。
「先輩……」
トイレか風呂か、はたまた帰ったか。
足元に脱ぎ捨ててあったはずの俺の服がベッドの下にたたまれていて。
すぐにそれを着てから先輩を探しに部屋を出る。
すると、
「あ、おはよう相楽君」
キッチンで先輩が料理をしていた。
そこに先輩がいて、俺の中の不安は消えていく。
「先輩……おはようございます」
「うん。ご飯作るから、まっててね」
「す、すみません」
「んーん、いいの。それより慌ててどうしたの?」
「……先輩が帰っちゃったかと、思って」
ほんとメンヘラみたいな言い分だけど。
先輩がいない時間なんて、もう考えられなくて。
そんな気持ちをつい口にしてしまうと、先輩の顔がみるみる赤くなる。
「……相楽君も、私がいないと寂しい?」
「も、もちろんです。こんなこと言っていいのかわかりませんけど……ずっと一緒がいいというか」
「きゅん……」
先輩は手を前で組んでもじもじすると、一度コンロの火を止めてから俺に寄ってきて。
「ちゅっ……どこにも行かないでね? 相楽君」
キスをしてくれた。
先輩は笑いながら「おはようのちゅう、だね」と。
照れた顔でそんなことを言われると、朝から俺は元気になる。
ただ、今日は学校だ。
今から俺が暴走して、先輩を遅刻させるわけにはいかないから。
一度部屋に戻って気を静める。
ベッドを見るたびに昨日の昼の光景が頭に浮かぶが、振りはらうようにテレビで気を紛らわせていると、やがて先輩が朝食を持って部屋に戻ってきた。
「相楽君、朝ご飯できたよ」
持ってきたのはトースト。
こんがり焼けたパンには、バター以外にも何か塗ってある。
「……朝から、ガーリックトーストにしちゃった」
「いい匂い……で、でもにんにく食べたら臭くならないかな?」
「やっぱりダメ? いっぱい、精をつけてほしかったんだけど」
俺が困った様子を見せると、先輩はもっと戸惑った様子になる。
目に、じんわり涙を浮かべながら下を向く。
「だ、だめなわけありませんよ。先輩の作ってくれたものなら、なんだって」
「……ほんとに?」
「はい。いただいてもいいですか?」
「うん……相楽君、優しい」
パンの乗った皿を俺の前に置くと、先輩は俺の横に来る。
そして一口食べるごとに、「おいしい?」「嫌じゃない?」「元気になった?」と訊いてくる。
そのいちいちが可愛くて。
やっぱりこのまま先輩を抱きしめて押し倒したくなる気持ちを必死に我慢して。
でも、にんにくはやっぱり臭う。
食べた後にしっかり歯磨きをしたがなかなかその匂いは取れる気配がなく。
大丈夫かなと心配になったが、先輩が歯磨きを終えた俺にキスをしてくれて「相楽君の匂い、全部好き」といってくれたので。
もう、何も気にならなくなってしまった。
◇
「じゃあ、ここで」
朝食を終えて、一度先輩を家に送って着替えを待ってから一緒に学校へ。
その間もずっと一緒なのだけど、学校ではそうもいかない。
先輩とは学年が違うから、一緒に過ごすのは休み時間や昼休みに限るわけで。
まあ、授業中にいちゃつくわけにもいかないし、それは仕方ないことなんだけど。
「相楽君と離れるの、ヤダ……」
先輩が靴を脱ぎながらしょんぼりする姿をみると、俺も辛くなる。
俺だって先輩とずっと一緒がいいと。
そう伝えると先輩は目を潤ませながら、「幸せ……」と呟いて。
でも、結局離れることはしたくない様子で、俺は先輩に言われるがまま上級生の学舎に一緒に向かって、先輩を教室まで送ることにした。
「なんか緊張しますね、上級生のクラスなんて行ったことないから」
「うん。ごめんねわがままで」
「い、いえ。俺だって先輩と一緒がいいし」
「……きゅん」
先輩が通ると、廊下で喋っている誰もが彼女を見る。
やはりそれだけ先輩の注目度は高いのだろう。
さらに、そんな先輩が下級生の男を従えて登校しているのだから余計に注目を集めるのだろうが。
「茅森、やっぱきれいだなあ」
「後ろの男、誰? まさか彼氏?」
「ないない、茅森の男嫌いは知ってるだろ」
やはり俺がいることで変な噂されてる。
いいのかなと、先輩の隣から一歩後ろを下がって歩くと。
先輩は俺の方を振り向きながら「ヤダ」と。
そして手こそ繋がないが、時々肩が触れ合う距離で並んで廊下を歩いて。
先輩の教室の前に来た。
「ここが先輩のクラス、ですか」
「うん。入る?」
「さ、さすがにそれは」
「だよね……うん、じゃあここで」
最後まで名残惜しそうにする先輩は、何度も何度も俺の方を振り返りながら、やがて教室の奥へ消えていく。
俺も俺で、遠くなる先輩の姿に寂しさを覚えながらも、ゆっくりと来た道を帰って。
時々すれ違う上級生たちに変な目で見られながら、自分のクラスへと帰っていった。
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