第24話 変人は世界に必要だった
本当ににゃん太は話を聞く者たち(例えば健人)のリアクションなどことごとく無視し、息継ぎ無しで滔々と話した。
「実は白の世界は一つではないにゃん。北区、南区、西区、東区、中央区の白の世界がそれぞれあり、ここは東区の白の世界にあたるにゃん。ゴッド様は現実世界を大雑把に5つに分け、それぞれの地区から変人ばかりをそれぞれの地区の白の世界に隔離したのにゃん。理由は単純明快で、ゴッド様は人間界が荒れている要因が変人たちにあると考えたのにゃん。その変人の定義も極めて曖昧、ちょっと他人と雰囲気が違う程度の人も含むみたいにゃん。ほんと、ちゃんちゃら可笑しい話にゃん。でも、それがこの世のトップであらせられるゴッド様の思考回路なのだから、仕方がないのにゃん。やるせないのにゃん。さて、現実世界から変人たちを白の世界に送り届けるのは、各地区を担当する神様たちで、ここ東区を担当しているのは、そこのどうしようもないふたり、ゴン蔵とゴン太をはじめ、何十億もの神様にゃん。まぁ、実働しているのは、ほとんどそこのふたりにゃんがね。変人を白の世界へ送り届ける方法にはマニュアルがあって、変人のなかでも、現実世界に何かしら絶望を感じている変人を選んで送り届けることになってるにゃん。まあ……、その絶望が現実世界に種々の問題をもたらす種になると考えるのは、ある意味妥当な気もするにゃんが、それでも、かなり一面的なものの見方で、やっぱりちゃんちゃら可笑しいにゃん。複数ある白の世界にゃんが、どういうわけかここ東区の白の世界だけ、歪みが見え始めたにゃん。他の白の世界は依然として安定しているのに、にゃん。いずれここは崩壊するにゃん。しかし、今崩壊したら、どうしようもなく世界が混乱するにゃん。何故なら、白の世界の崩壊は神様界ではほとんど想定されておらず、対処方法が今のところ皆無にゃん。だから、神様たちは、役職の高い神様含めて、ここの崩壊阻止に躍起になって」
「じゃあ、現実世界は今どうなってんだよ!!??」
あまりにも間を置かず話し続けるにゃん太に、健人は無理やり大声で割って入った。
黒い空気の塊が所々に浮かび、小さく渦を巻いていた。地面にはひびが入り、場所によっては地面が数メートル陥没している所もある。生暖かい不穏な風が群衆の間を吹き抜け、持続的な地震とでも言うように、地面が常に揺れていた。なにかの生物の鳴き声のようなものも遠くから聞こえてくる。そこにいる誰も聞き覚えのない鳴き声だった。
白の世界はまさに崩壊寸前だった。
にゃん太の双眸がじっと健人を見つめる。健人の心の隅々を検分しているみたいに、力強い視線を健人に固定する。ヒゲが風にかすかに揺れているが、それ以外は微動だにしない。
「息継ぎ無しで説明するって言ったのに、無理やり割って入ってくるなんて、ひどいにゃん!」
にゃん太は顔を歪め、ひと息置いてから続ける。
「変人がいなくなった現実世界は平和と安定を手に入れると、われわれ神様は信じて疑わなかった……、いや、そんなの本当は誰も信じてにゃかったが、信じるよりほかなかったというのが本当のところにゃんね。しかし、蓋を開けてみれば、現実世界は以前にもまして荒廃の一途をたどっているにゃん。各地の紛争は激化し、周辺地域、関係各国を巻き込んで、その規模を拡大してるにゃん。このままでは、再び世界規模の戦争が起こるにゃん。今度こそ、人間世界を壊滅的にさせるほどの大戦争にゃん。そうでなくても、自然はみるみる破壊され、山の緑、海の青はどんどん減っているにゃん。このままいけば、生物がその生命を維持できなくなるのは時間の問題にゃん」
にゃん太の口から飛び出した驚きの事実に、健人をはじめ皆が目をむき、口をあんぐりと開ける。彼らからしてみれば、強制的に訳の分からない世界に連れてこられたのみならず、本来なら帰るべき元の世界まで破壊されたようなものなのだ。理不尽極まりない状況である。
「け、けどよ、変人がいなくなっただけで、どうしてそうなんだよ? その、ゴッド様的にはまともな人間ばかりの世界になったんじゃねえのかよ!」
健人が言う。
にゃん太は落ち着いた調子で説明した。
「その通りにゃん。お前の言うとおり、現実世界はまともな人間ばかりになったにゃん。それなのに、現実世界は荒廃している。ということは、答えはひとつにゃん」
にゃん太はひと息置いてから、口を開け、しかし声に出すのをためらうように一度口を閉じた。もう一度挑戦するように息をひとつ吸い、今度はしっかり声にした。
「変人は世界に必要だったということにゃん!」
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