第18話 僕のこのヒゲのように真っ直ぐなこと
「お前たち、人間に対して酷い言いようだにゃん。ふたりの主張は決して的外れではないが、自分たちが作り出した人間に対して、それはあまりにも無責任だにゃん」
「「うぐ…………」」
ゴン太とゴン蔵は言葉を詰まらせた。
自分たちが作り出した――神様たちにとって、そこが最大のネックだった。どれほど人間が救えない存在だろうと、自分たちのまいた種を見捨てるわけにはいかないのだ。
ゴン太とゴン蔵の顔色がみるみる青ざめていく。その様子を見て、にゃん太は楽しそうに笑った。
「心配はいらないにゃん。僕は自分の言葉は守るにゃん。ふたりともちゃんと顔を上げたから、人間にはしないにゃん」
ゴン太とゴン蔵の顔の血色が少しずつ元通りになる。ガラスにはっと息を吹きかけてできたくもりが次第に引いていくみたいに。
「ただ……」にゃん太は自身の頬ヒゲをいじりながら続ける。「二人のその考え方は正さないといけないにゃあ」
言ってにゃん太は、ゴン蔵、ゴン太親子にニヤリと笑いかける。
それに反応してか、親子の肩がピクッと小さく跳ねた。
「にゃ、にゃん太様、まさか……」
ゴン蔵の濃い顔が引きつる。
「にゃ、にゃん太様といえば、曲がったこと、正しくないことには異常に厳しいと聞いておる」ゴン太は父親の隣で独り言のように呟く。「そして、曲がったこと、正しくないことを見つけると、必ず、どんな手を使ってでも正すと……」
「その通りにゃん。僕は、僕のこのヒゲのように真っ直ぐなことしか認めないにゃん。曲がったことは、必ず正さなければいけないにゃん」
緊張が辺りを満たし、空気がこわばった。ゴン蔵とゴン太は恐怖に身体を震わせ、立ち尽くしていた。一方でにゃん太は楽しそうに笑っている。
ゴン太の飲みさしのキャラメルフラペチーノが、寂しそうに地面にぽつんと置かれていた。容器には結露した水滴がたくさん付着し、容器表面を流れ落ちた水滴によって、容器周辺の地面にも水が広がり、その部分だけ地面の色を濃くしていた。
「今、白の世界が騒がしいのは知っているにゃ? 実は僕がここに来た理由もそれにゃん」
にゃん太はじっとゴン蔵の濃い顔を見つめた。ゴン蔵は何の反応も示さない。続いてにゃん太はゴン太に視線を移し、じっと見つめた。ゴン太は
にゃん太は軽く息を吸い、続けた。
「僕は元々、あの白の世界プロジェクトには反対だったのにゃん。絶対に失敗すると思ってたにゃん。そして実際、今、白の世界は変わりつつあるにゃん。悪い方向に……」
ゴン蔵は恐る恐るといった風に口を開く。
「あ、あの白くて広いだけで、しかも変人ばかりを集めた不思議な世界は、一体何のためにあるのです?」
突如、にゃん太の表情が険しくなった。それを見てゴン蔵は震え上がり、体表からは冷や汗が吹き出る。
「あ、い、いえ、すみません。ご、ご気分を害されたなら、申し訳ございません!」
「いや、いいにゃん。これは最高機密にあたるにゃが、少しだけ教えてあげてもいいにゃん」
にゃん太は言った。
「白の世界プロジェクトは白髪会議で提議され、5分ほどの白熱した議論の後、全会一致で可決された、天界きっての最大プロジェクトにゃん」
ゴン蔵が眉をピクリと動かす。
「は、白髪会議と言えば、気まぐれに50年に1度くらいの頻度でしか開催されない、上位神の中でも更に上位の一部の神様しか参加が許されない、最高会議のことですね……。そうですか。白髪会議で決まったこととあっては、天界をあげて成功させなければなりませんね」
ゴン蔵が神妙な面もちで、半ば解説じみた発言をした。
「その通りにゃん。さて、本題の白の世界の目的について説明するにゃん」
ゴン蔵とゴン太は、ごくりと唾を飲み込み、にゃん太の説明に聞き入った。
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