第13話 テキトーに気分
「父さん。白の世界じゃが、いつまで存在させるつもりじゃ?」
ゴン太が
「うむ。ワシの意向だけでは決められんが、上の話によると、『気分』だそうだ」
父は立派に蓄えられた口髭と顎髭を乱暴に撫でつけながら言った。大きな目と厚い唇、色黒の肌。父の顔の造りは、濃さの限りを尽くしていた。
父の発言に、ゴン太は解せない顔をする。
「気分……。いつも思うのじゃが、上の神様たちは、ちとテキトー過ぎぬか?」
父は顔を歪め、厚い唇を結んで思案する。
「うむ。ワシもその点についてはかねてから問題視しているが、いかんせん神様も手が足りない状況だ。下界は人間が出現してから、どんどん複雑化している。様々な問題が浮上し何ひとつ解決せず、山積みになる問題で下界はもはやカオス状態だ。テキトーにやらないと処理しきれんというのが実情だろうな」
ゴン太は皺だらけの顔を歪める。
「ふむ……。それはわかるのじゃが、何か策を打たねばいずれ破綻するぞ」
「ゴン太、何を言っている。その策が白の世界だろう」
「そうなのか?」
ゴン太は細い目を少し見開いて父を見る。父は眉をひそめ、不思議な生物を見るような目でそれに応じた。
「そうだ。これは神様界の常識だ、ゴン太。新聞を読まないから、そうやって世間から遅れてしまうのだ。いつも言っているだろう」
「ご、ごめんよ、父さん……」ゴン太はきまり悪そうにうつむく。「白の世界もまた、上の神様たちがテキトーに気分で作ったのかと思っておった。あれは具体的にどういう意味があるのじゃ?」
ゴン太は再び父を見上げ、教えを請うた。
父は眼力の限りを尽くしてゴン太を見つめ返しながら、きっぱりと言い放った。
「知らん」
そこには何のためらいもなかった。先ほど新聞を読まない息子を
「父さん、さすがにそれは僕でも怒っていいところであろうな?」
ゴン太が不信感を
「具体的なことは我々下っ端には知らされていないのだ」
「ほう」
ゴン太はこわばっていた表情を少し緩めた。
「ただ、新聞にはひとこと、こうあった。ついに神々は下界の整理に取りかかった、と」
「下界の整理? それは間違いなく白の世界のことを言うておるのか?」
「明示はしていなかったが、最近上の神様たちが始めた施策はあれくらいしかないからな」
「まあ……、それもそうじゃな……。悲しい現実じゃ」
言ってゴン太は禿げた頭を横に振り、小さなため息をついた。
「しかし、いったいあの世界で、どうやって下界を整理しようというのじゃろう?」
「それは、ワシにもわからん」
そこで会話が途切れる。父子の間に微妙な空気が流れる。
ゴン太はうつむいた。気落ちしているのではない。足下のはるか下に広がる下界を見ているのだ。
「あやつ、健人とか言ったな。あんなやつが白の世界におろうとはの」
ゴン太のほとんど呟きに近い言葉に、父は大きく
「まったくだ。あんな普通に見える人間が、どうしてあの世界にいるのだ。あそこは、見るからに変人っぷりが
「うむ…………」ゴン太は顎に手を添え、顔をしわくちゃに歪め、思案する。「これも上の神様の意図じゃろか」
「違うだろう」
父が即答する。そして、ひとこと付け加えた。
「わからんが」
父子の間に、再び微妙な空気が流れた。
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