第4話 後悔先に立たずを地でいく その肆



 最初に話した言葉が唐突としか言えない性行為発言にコテツの思考はたっぷり数十秒はフリーズした。その間、相手は返事を期待するようにキラキラとした眼差しを向けているが、その美しさに見とれてる余裕はもう無かった。

 ややあって、再起動したコテツは顔をひきつらせながら再確認する。


「え、と……今のは、俺の聞き間違いですかね? 卑猥な発言に聞こえたんですけど」

「あぁ、いやすまない。今のはちょっと違っていた、訂正しよう」


 それを聞いてホッとする。やはり今のは聞き違いだったのだ。そりゃそうだ、いきなり初対面の人とヤりたいだなんてキチガイ発言が出るわけない。

 しかもあのエルフが言うなんてもっとあり得ないのだから。


「おほん……少年、今から女体を貪りつくす種付け交尾をヤってみないか♡」

「卑猥度と生々しさがグレードアップっっ!? いや待ってっ、ほんとなにっ!? なんかもう色々と理解が追い付かないんですけどっ!!」


 咳払いしてから話されたのはより生々しい単語が並ぶ台詞であった。訂正というのはよりエロい言い方に変えるということだったらしい。

 もうわけがわからないコテツだが、とりあえず目の前にいるのはエルフでなくエロフで、頭がヤバい変態だというレッテルを貼った。


 心中で変態という位置付けをされたエルフもといエロフは熱にうなされてるような顔色で語りだした。



「思えば長い道のりだったな……故郷を着の身着のままで飛び出してから三百年、私の好みに合致する異性の出会いを求めて西から東まで数々の国を巡り歩いた……だがしかし、私の琴線を刺激してくれる男性についぞ出会えぬ日々っ、悶々とした体を、理想の男に抱かれるというシチュエーションの妄想で慰め続ける時間は実に虚しかった」



 身振り手振りも加えて話す様は劇場のミュージカルのようにも見えて花吹雪などが舞えば幻想的な美しさも演出したことだろうーー言ってることは自分の性事情を赤裸々に告白するという爛れた内容であるが。

 もちろんコテツはドン引きである。


「そんな折りに出逢ったのがきみだっ! 一目見て直感したんだ、きみこそ私の伴侶になってくれる逸材だと」

「は、伴侶って……なにを根拠に言ってんだよ、そんなことっ。アンタぐらい綺麗だったら、もっとカッコいい奴だって選べるだろ!」

「うん? 私からしたらきみは十分に格好いいと思うが?」

「えっ……ほ、ほんとに言ってんのかよ」

「嘘なんて言わないとも。きみは格好いい」


 ニコッと微笑みを向けられて賞賛されたコテツは思わずたじろいだ。ついさっきまでは危ない発言を繰り返す変態という認識だったが、この瞬間だけは彼女の笑顔の魅力に心が揺らされる。


 それにこの歳になってもコテツはそう言われたことがあまり無かった。せいぜい、小さい子供にかっこいーとか言われるぐらいで同世代や年上からも可愛らしいねとかいうあんまり嬉しくない評価しか貰えてなかったのだ。

 このエルフが素直な気持ちで格好いいと言ってくれたことに、柄にもなく嬉しい気持ちが出てしまって尻尾をパタパタと振ってしまうぐらいには嬉しかった。


「そ、その…ありがとn「もちろんポイントはそれだけじゃないぞっ、ケモ耳にケモ尻尾という萌え要素に加えて、すらっとした細身だが筋肉がバランスよく付いた肉体だけでも最高のオカズだというのに私の好みにどストライクするその容姿が、容姿がもう素敵すぎてだなっ……うひ、うひひ、も、もうヨダレが、溢れてしまうぐらいに興奮するぞぉ、ハァハァ♡」……そっか……じゃあな、変態エルフっ! もう二度と会わないことを願ってるぜっ!」


 寸前まで抱いてた嬉しさは即座に雲散霧消した。やっぱり彼女は色々とヤバかった。

 ギラギラした欲望まみれの目で欲望をダダ漏れにさせてる彼女から貞操を守るべくコテツは逃走を決意、回れ右して全速力でその場から離脱を計った。


 ところが走り出して数歩行ったところでゴンッ!となにかに額を強かに打ち付けて仰向けに倒れた。


「いってぇっ!? な、なんだこれっ、見えない壁かっ?」

「ふっふっふっ、悪いが結界を張らせてもらったぞ。最初にきみを見た時からすぐに展開したんだ。せっかくの極上の獲物ーーごほん、運命の男性に逃げられるのは悲しいからな」

「今さら言い繕わなくてもいいってのっ! てか、ほんと待てよっ、ここ屋外なんだぞっ。いくらもうすぐ夜になるからって誰も通らないとは限らねーしっ……」

「心配無用だ。私が開発したこの結界は完璧な防音機能があるから外からの声も聴こえないし、中にいる私たちの声も漏れない。更に視覚も完全に誤魔化せる優れものだ、これがあればいつでもどこでもヤり放題というわけだ、凄いだろう♪」

「努力の方向性を全力で間違ってんだろっ!?……っ、おい、それ以上近づいたら俺も本気で抵抗すんぞっ!」


 自慢にならないことを言いながら歩いてくる彼女を牽制しようとコテツは鞘に収めてる刀剣に手をかけた。

 流石に刃傷沙汰になどしたら大事だし、それも相手がエルフとなれば余計にだ。なので刀剣はあくまで脅しとして使い、本当に危なくなったら徒手空拳で彼女を鎮圧する腹積もりである。


「……そんなに嫌なのか? 自分で言うのもなんだが男受けする体だと思ってるんだが」


 ポヨン、と胸を持ち上げて巨乳ぶりをアピールしてきてコテツは思わず胸に視線をやってしまったがすぐに逸らす。

 確かに大半の男が好みそうな豊満な肉付きをしてるが、自分は獣人であって野獣ではない。

 加えてこっちの気持ちをガン無視した、自分本意なアプローチになどなびくわけもない。


「た、確かに、魅力的だとは思うけども、俺だって相手を選ぶ権利はあんだ。それにこんないきなり迫られて、よしオーケーだぜ、だなんて言えるかよ。少なくとも今の俺はアンタには好感もなにも抱いてねぇ」

「……そうか、流石に性急すぎたな。確かにこんな風にぐいぐい来られては迷惑だな。よく考えたらシチュエーションなども大事だし、女性の方から襲われるというのは男の沽券にも触れることだしな、うん。きみの言いたいことはよくわかったぞ」

「お、おう、なんか焦点がズレてる気がしないでもないけど、わかってくれたんなら別に……じゃあ、ひとまずこの結界を解いてーーむごっ!?」


 考えを改めたように見えたので気を緩めてしまったコテツは、瞬間移動のように距離を詰めた彼女に対応できず口に突っ込まれた瓶から注がれる薄青色の液体をゴクゴクと飲んでしまった。


「ぷはっ!? けほ、けほっ、な、なに飲ませたんだよっ! ? まさか、痺れ毒っ……?」

「そんな物、使いはしない。動けない相手を犯すような真似は私の趣味じゃないんでな。きみに配慮したやり方を取らせてもらった」

「は、配慮って意味わかんねーしっ。それよりなにを飲ませたのか答えっーーうぐっ!?」


 謎の液体の正体を問い詰めようとした最中、ドクンッ!と心臓、いや股間が脈動するような衝撃を感じて次いで頭と体が煮え立つような熱に襲われる。

 次第に目の前の肉感的なプロポーションのエルフにどうしようもない劣情を募らせ始めて息も荒くなりだして朧気ながらに飲まされた物の正体に行き着く。


「ま、さか……び、やくっ……?」

「媚薬、とは少し違うぞ。飲んでもらったのは滋養強壮剤だ。男性ホルモン等を過剰分泌させるものでな、平たく言うとヤりたくて仕方なくなってくる効果がある。私が主導で襲うのでなく、きみが主導で襲うなら大丈夫だろう? ふふ、我ながら逆転的な名案だな」

「はっ、ふっ……ふっ、ふーっ、ふーっ……!!」


 違う、そういう問題じゃないしそれもそれでアカンだろと言いたかったが沸き上がる性欲が強すぎてコテツは喋るのはおろかまともに考えることすら困難になりつつあった。

 股間の様子も見て薬の効果が出ているのをしっかり確認した彼女が服を脱ぎ出して、コテツの興奮はますます高まってしまう。



「さっ、己の情動のままに好きなだけ、私の体を煮るなり焼くなり自由にするといい♡ 猛った性欲を全て私にぶつけるんだ、遠慮せずに……来て♡」


「……うっ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」



 一糸纏わぬ裸体の美女からの誘いをはね除ける精神力はなく、コテツは彼女に突貫するとその勢いのままに猛烈な性行為に何時間も耽ってしまったのだった。

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