第3話 後悔先に立たずを地でいく その参

星3つ評価を頂きまして感無量です! 際どすぎない描写にも気を付けつつ、頑張ります!



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 コテツが受けたグレートフロッグ退治を依頼した農家はギルビット・タウンから徒歩で二時間は歩いた場所にあるが、その脚力によって一時間足らずで到着した。

 冒険者の来訪に依頼主の農民の男は意外にも早く請けてくれたのもあって、感謝しきりであった。


「いや、ほんにありがてぇです。わしらにとって農業は生活に直結する大事な仕事なんで、これが台無しにされてしまったらもう悲惨というしかねぇんですわ」

「あぁ、よくわかるよ。俺の両親も畑仕事してたけど、蛙の被害は馬鹿にならないって愚痴を溢してたしな。それで、グレートフロッグはどこら辺にたむろしてるんだ」

「今んとこは近くの林ん中に潜んでますわ。日が沈んできたら動き出すかと」

「了解、それまでにはカタをつけとくぜ」


 グレートフロッグの住処を聞き終えるとコテツは早速その林にへと向かった。



……それほど背丈のない林の中をそっと覗くと同じ個体同士で寄り添っているのが見え、数としては十数匹といったところだ。耐性のない女性が見たら悲鳴が上がっているやもしれない光景である。


 とはいえ、グレートフロッグは魔物の中でもゴブリンに次いで弱小な部類になる。駆け出しの冒険者でもニ、三人いれば何てことないがろくな訓練を積んでいない農民では荷が重いのもまた確かだ。

 冒険者の中にも弱い魔物と舐めプしてしまったばっかりに、何匹ものグレートフロッグから体当たりを喰らわされて怪我を負ってしまったという笑えない事例も皆無ではない。


 〝どんなに格下相手でも油断、慢心は絶対にするな〟とはコテツに様々な指導をしてくれた里の冒険者から度々されたアドバイスである。特にベテランほど意識しない内にこういった悪癖がつきやすいとも聴いたので、コテツは実力がついてからも日頃から慢心しないように注意している。


(この時刻だと向こうは寝起きしたばっかりのタイミングだな、奇襲をかけるには都合いいし速攻で終わらせるか)


 相手の魔物の習性からチャンスと見たコテツの行動は早かった。グレートフロッグの大半がのんびりとしてるところへ機敏な身のこなしで躍り出ると、脱力して姿勢を低くさせると地についた体勢から鞘から抜いた刀剣で綺麗な弧を描きながら回転による斬撃をお見舞いした。


 体の柔らかさと体幹の良さがわかるフォームは見物人がいたなら拍手でも贈られていただろう。

 最もここにいるのは蛙魔物のみ、しかも今の攻撃で既に群れの八割は反応すら出来ずに輪切りにされたが。

 生き残った個体も警戒が薄れてたところに外敵から襲撃を受けたことで恐慌に陥り、各々が自己の本能に従ってバラバラに動き出す。


 いずれも逃げに徹する動きだが、グレートフロッグは単位生殖も可能な生態なので一匹でも逃がすとねずみ算式に増える厄介さがあるので殲滅する必要がある。

 初めて相対した者では蛙特有のジャンプに翻弄されて取りこぼしてしまう個体も出ただろうが、もちろんコテツはそんな愚など踏まない。


 一匹一匹の動きの先を読んで慌てず確実に刀剣で仕留めていく。中には悪あがきに反転して跳んでくる奴もいたが真っ二つに両断されるだけだった。

 最後の一匹を倒すまでにかかった時間は最初の奇襲をかけてから三分ちょっとと熟練の手早さである。


「よし、討伐完了っ! あとは死骸の処理か、数は多いけどグレートフロッグなら早く終わるな」


 早く終わる、というのはこの魔物は取れる素材が微々たるものなので全部をやっても雀の涙程度にしか金にならない。なので、素材取りはせずにまとめて燃やすなり埋めるなりして処理するのである。

 これもまたてきぱきと片付け、念のために他にも隠れてないか巣穴がないかどうかも調べてから依頼主にまで報告に行った。


「おおっ、もう終わりましたか。いや流石は冒険者だぁ、わしらじゃ出来ても怪我は免れませんし、ほんに助かりましたわ」

「どういたしまして。一応、他にも隠れ潜んでないかは確認しといたけど、また出るようだったら早めにギルドまで連絡してくれ」

「えぇ、もちろん。どうもありがとうございます」


 深々とお辞儀する農民に見送られて、コテツは行きと同じ速度で帰り道を駆け抜けた。




ーー夕暮れ時とあって人や馬車の往来も少ない街道をひた走るコテツ。行きも走ってきて休む間もなく戦闘もあったのにその直後とは思えない速さで疾走するコテツ、それだけスタミナが有り余ってるということである。


 こうやって人通りの少ない道を走るのがコテツは好きでもあった。いい運動になるしストレス解消にも繋がるからだ。

 依頼料の金でどんなのを買おうかなと年甲斐もなくウキウキとした気分で走り続け、街まで二十分辺りの地点に差し掛かった時に視界の端になにかを捉えて急停止した。


「ん?……あの人影、行くときにも見たような気が」


 街道から逸れたなだらかな坂の原っぱに寝っ転がっている人影を見つけてコテツは首を捻った。確か、向かう時にもあの辺りにいたような記憶がある。

 その人影はもうすぐ日が暮れるというのに街へ急ぐ様子も見せず、かといって野営の準備をしてるようにも見えない。


 基本どの街であっても日が沈んで夜間になった時刻では街への出入りに関しては厳しい。夜影に乗じて怪しげな人物が入ってきやしないかと門番のチェックも厳しくなりがちなのだ。なので旅人であれ、街に住んでる人であれ日が沈む前に入ろうと急ぐものなのだが見てる限りではそんな様子はない。


 コテツはそれがどうにも気になってしまった。


「ちょっと様子見てくるか……おーい、そこの人ーっ?」


 声を張り上げて手を振りながら駆け寄るが、件の人影は身動ぎしないで寝っ転がっている。顔の輪郭がわかるとこまで来て、もしや熟睡してるのかと思った矢先にむくりと起き上がった。


「あぁ、起きてたのか。なぁ、こんなとこでなに、して……」


 相手の目的を聞こうとした言葉が途中で詰まった。

 寝ていた人物の顔を正面から見たことによって、そのきらびやかな人相がはっきりわかったからだ。



(す、すっげぇ綺麗……男、いや女の人…いやよく見たらエルフじゃんかこの人ってっ!?)



 端正に整った顔立ちに長い睫毛に切れ長の瞳は美丈夫のもので童顔の自分より格好いい面構えをしていたので一瞬は男性と勘違いしたが、服の胸元を盛り上げる豊満な双丘が異性というのを如実に表していたので訂正したーーが、そんなことよりも驚きなのが金髪のロングヘアーの間から覗いてる横長の耳だ。


 金髪に横長の耳、とくれば該当する種族などエルフ以外にない。数こそ人間や獣人より大きく劣るが、短くても千年、個人によっては数千年を生きるという長命と如何なる種族も及ばない魔力量によって多彩な魔法、スキルを扱える知らぬ者などいない種族なのだ。


(なんでそんな人がこんなとこで寝そべってんだよ……?)


 思ってもみなかった有名種族の登場やその美貌に面食らい、呆けた顔をしてしまうコテツ。

 一拍してからやっと我に帰ったが、ふと見ると相手のエルフの女性もまた目を丸くしていて自分の存在に驚いてるような感じがした。


 獣人ぐらいでなぜ驚くのだろうかとコテツは不思議に思う。街中でも見かけるぐらいにはポピュラーな種族の筈なのだがと疑念を感じながら、最初に聞こうとしてた目的を聞こうと意を決して話しかける。


「え、えっと、あの……お、起こしてしまったのなら申し訳、ないんですけど。なんでこんなところで寝転がってるのかが気になったんで、声をかけちゃったんですけどっ」


 心臓をバクバクいわせてどもりながら慣れない敬語を使った話し方に自分でも情けないと思うが、絶世の美人と言ってもいいエルフと喋ろうとしたら嫌でも緊張しようものだ。

 ギルドの受付嬢や気さくな性格の知り合いの女戦士には普通に接するが、こういう美女相手だと気が萎縮してしまいがちなのだ。


 エルフは気難しい性格の者もいるので拙い敬語が気に触っていやしないかと伏せ目がちだった視線を上げれば、なんと美人エルフがすぐ正面にまで来ていて度肝を抜かれた。


「わ、わっ!? あ、あの、なんで、しょうかっ…?」


 いきなり近くにまで来てたのでますます狼狽するコテツ。立ち上がると案外背高く、コテツよりも頭ひとつ分は高かった。そのせいで目線を正面に合わせるとたわわに実った果実が揺れ動くのがよく見えてしまい、緊張と羞恥も合わさって顔が真っ赤になる。


 あわあわしてるとそれまで口を開かなかった美人エルフは開口一番にーー



「よし、きみ……今すぐ、私とセッ◯クスしようっ!!」


「……はい?」



 唐突なまでの性行為発言に、間の抜けた返ししか出来なかったコテツであった。





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