魔法のすゝめ
「ニーサちゃん。おかえりなさい。忘れ物って貴方が持ってる本の事?」
「うん…」
満面の笑みで出迎えてくれる母上に俺は元気なく答えた。残念ながら俺の願いは叶えて貰えなかったのだ。
あの後、俺の願いに答えた女神は軽く杖を振ると一冊の本を足元に落として消えてしまった。本の題名は、「元素の傷跡」どう考えても元の世界に戻る為に役立つとは思えない。というか、元の世界に返してくれという願いをどう間違えたらこんな本が足元に落ちてくるのか…理解に苦しむ。
本の内容は興味があるがあの場で読む訳にもいかない。結局俺はこうして自宅に戻ってきたのであった。
「あら…?その本…魔法書じゃない?何処で手に入れたの?」
母上が怪訝そうな顔で聞いてきた。誤魔化そうかと思ったが母上は冒険者だ。願いの女神についてもある程度知っているかもしれないし、ある程度正直に答える事にした。
「えっと、外で遊んでたら喉が渇いたから井戸で水を飲んでたんだ。そしたら願いを何でも叶えるっていう人が出てきたから、お願いしてこの本を貰ったの」
「そうだったの!願いの女神様に会えるなんて運がいいわねぇ~。でも、何てお願いしたの?」
痛い所を突かれた。適当にはぐらかすしかないだろう。
「びっくりしちゃって良く覚えてない…でも、この本はお願いしてないよ?」
「うーん、願いの女神様って適当な所あるから、聞き間違えでもしたんじゃないかしら?最近は一部業務を機械化までして、ちゃんと願い事を言わないと見当違いの物が叶うって噂もあるみたいだし」
母上が笑いながら言っている。というか神様まで仕事を機械に任せているのかよ。どうなってんだこの世界。そしてギャルのパンティーはれっきとしたちゃんとした願いに含まれているらしい。やっぱりお約束だからか?
俺がそんなどうでもいい事を思っていると母上が続けて言い始めた言葉に俺は戦慄した。
「でも良かったわ~。井戸の水を飲むと毒に侵されたり、魔物に襲われたり、この前なんて近所の子が、水を飲んだ時に魔物に寄生されてお腹から魔物が飛び出て来てたわよ~」
笑いながら母上が言っている。どう考えても笑い事ではない。俺の新たな決まりの一つに井戸の水を飲まない事が追加された瞬間だった。
「アハハハ…」
「あ、そういえばその魔法書どうするの?ニーサちゃんが魔法を覚えてみたいなら読んで見てもいいわよ?」
俺が苦笑いをしていると魔法書について聞かれた。どうやら対して貴重な物でもないらしい。ややがっかりとしたがそれはそれ。もしも、魔法を使えるのなら是非使ってみたい。地獄みたいな世界に来たのだ。魔法の一つ位覚えないと生きてい行けないだろう。
「覚えてみたい!どうやって覚えるの?」
「うーん、準備があるから明日にしましょうね?今日はもう寝ておきなさい」
母上がやや困った様に言う。魔法を覚えるにはどんな準備があるのだろうか?なんにしても俺でも魔法を覚える事が出来るらしい。実に楽しみである。
*
翌日、意気揚々とリビングに向かうとそこには完全武装した母上がいた。いや、おかしい。どう考えてもおかしい。
何故普段のエプロン姿ではなく、動きやすそうな鎧を全身に身に纏い、美しい刀を二本持っているのか。
俺が必死に理解しようとしていると母上が言った。
「じゃあ、魔法を覚えに行きましょうか」
どうやら準備とはこれだったらしい。俺はこれからどんな事が起こるのか不安になってきた。そして軽々しく魔法を覚えたいと言った事を若干…いや、かなり後悔したのであった。
*
街はずれの草原までやってきた。何でも魔法を覚える際はこういった場所がベストらしい。
「いい?魔法初心者に家や街で魔法書を読ませようとする人は皆悪い人よ?見つけ次第殺すか半殺しにしておきなさい」
母上が言うにはそういう事らしい。というか母上若干キャラ変わってないか?昔の血が騒ぎだしたのか?
そう思っていると前を行く母上が立ち止まった。どうやらここで魔法を覚えるらしい。
「ここら辺かしらね。じゃあ、早速魔法書を読んでみましょう。」
「え?読むだけでいいの?」
「えぇ、そうよ?」
いやいや、じゃあその重装備何なんだ。とツッコミをしたい所だが何とか我慢した。草原では魔物に襲われるかもしれないからだろう。流石に本を読むだけで死ぬなどありえない…筈だ。
早速本を開いてみる。1P目から相変わらず見た事が無い字が見え…?
その瞬間俺は酷い頭痛に襲われた。おかしい、全く分からないはずの絵本や、童話を理解出来た筈なのに、何故か魔法書の内容を全く理解することが出来ない。
そう思いながらも不思議と自分の体の意思とは無関係に2P目を見ようとする。
やめろ!見るな!止めてくれ!
そんな事を思いながら体を動かそうとするが、まるで何かが取り付いたかのように、自分の体を動かす事が出来ない。不意に、何故かハッキリと分かる一文があった。
残念だがこの文を読んでいるということは貴方はこの魔法を使うにまだ相応しくない。出直してくるがいい。
その文字を見ると同時に俺が持っている魔法書が急に軽くなった。
だが、今はそんな事はどうでもいい。何故なら今俺の目の前には
「ぁ」
擦れるようなか細い声が出た。体を動かそうとするが恐怖からか指一本動かせない。ドラゴンがゆっくりと此方に歩いてくる。
そして、口を大きく広げ俺の視界一杯に牙が並び立った時。
鮮血が舞った。
「ニーサちゃん?だいじょうぶ?」
そこには返り血に塗れた母上が居た。
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