どんな願いも一つだけ叶えてやろう
ハンナちゃんの寝顔を見ていて眠くなった俺も一緒に寝ていたらしい。
「ニ~サ~!起きて~!」
そんなハンナちゃんの声を聞きながら目を覚ますともう日が落ち始めていた。これだけ昼寝をしていては夜寝れるか心配だ。最も、眠れない夜が続いて訳だが。
「どうして起こしてくれなかったの?」
ハンナちゃんが不満そうに、頬を少し膨らませながら言ってくる。
「ごめんごめん、僕も眠くなっちゃって…」
「もぉ~しっかりしてよね!」
プンスカとハンナちゃんが怒ってくる。怒っている姿も可愛い。
そんな事を思いながら適当に流しておく。ハンナちゃんも本気で怒っている訳ではないだろう。
「…ニーサ。少しだけ話があるんだけど」
ひとしきり文句を言うと落ち着いたのかハンナちゃんが唐突に話始めた。
「ハンナちゃん、どうかしたの?」
「その…私が死んだ時なんだけど…傍に居てくれてありがとう」
「えっ?」
唐突にそんな事を言われた。しかし、あの時俺は何も出来てない。
精々抱き抱えた位だ。止血をしようと必死にしていた分寧ろ痛みが酷くなっていたかもしれない。
「僕、何もしてないよ?」
「傍に居てくれるだけで嬉しかったの。私、多分死に慣れてないんだと思う。死ぬ時いっつも怖くて、力が抜けていく時泣いちゃってた。でも、あの時ニーサが居たから寂しくなかった。ずっと一緒に居てくれたんでしょ?何となくだけど分かってたの。だからお礼。ニーサのおかげで怖くなかった」
そう言って満面の笑みで答えるハンナに対して、俺はどうすればいいのか分からなかった。結局俺は何もしていなし、何より、死に慣れてない何て言う彼女が、何処か怖く見えてしまったからだ。
*
「じゃあ、明日はちゃんと遊ぼうね~!」
あの後空返事で答えた俺に対して特にハンナちゃんは何も言わずに帰っていった。
きっと明日も遊びに来てくれるだろう。元気よく手を振るハンナちゃんに対してそう思いながら俺も部屋に戻る。
案の定ではあるが、その日も俺は眠る事が出来なかった。
*
ハンナちゃんから
俺はあれから外に出る時に絶対に破ってはいけないルールが出来た。冒険者に近づかない事だ。遠巻きに見ていると大抵殺人や盗み、喧嘩には冒険者が関わっている。というか余りにも冒険者周りの治安が悪すぎる。これが日常など気が狂ってるとしか思えないが、隣のハンナちゃんは何も言わない。きっとそういう事なんだろう。
そうして冒険者に気を付けながらも情報収集の為、街を探検していた俺はふとこんな噂を耳にする。
「井戸で水を汲むと願いを叶えてくれる女神が出てくるらしい」
最初に聞いた時は驚いたが所詮噂、そんな美味しい話なんてないだろう。大体、井戸で水を汲むだけで願いが叶うなんて馬鹿らしい。七つの玉を集めないと願いは叶わない。日本人なら誰でも知ってる常識だ。しかし、どうやら噂は本当かもしれない。
「あ、でもこの前冒険者さんが井戸の水を何回も汲んでたよ?突然きゅう?って叫んだと思ったら悔しがってたけど」
あの
そしてその時はすぐに訪れた。あるハゲた冒険者が井戸を見つけると一目散に向かっていき、何度も井戸から水を汲んでは飲んでいたのだ。その鬼気迫る勢いに俺が若干引いていると突如として叫んだ。
「ギャルのパンティー!」
いや、願いの内容は日本の義務教育と変わらないかよ。なんて心の中で思っていると男の足元に一枚の布きれが落ちてきた。どうやら本当に願いが叶ったらしい。男は狂喜乱舞しながら足元の布を拾うとそそくさと去っていった。
「あの人怖い…」
「う、うん…」
ハンナちゃんが横でそんな事を言っている。俺も大賛成だ。
*
その日の夜、俺はコソコソと街の井戸までやってきた。家を出る時母上に見つかった時はどうしようかと思ったが、忘れ物をしたと説明したらすぐに戻ってくる事を条件に外出の許可が出た。
本当は昼間に試してみたかったのだが昼間はハンナちゃんと一緒にいる。そうでなくとも日中は人の目が多く俺の願い事を耳にされては困るだろう。
俺の願い事は元の世界に帰る事だ。母上やハンナちゃんには悪いが、帰れるならすぐにでも帰りたい。こんな世界命が幾つあっても足りない。いや、他の人達は文字通り幾つも命があるらしいから大丈夫みたいだが。
これだけ治安が悪い場所だ。もしも願いが叶って俺が居なくなったとしても冒険者や盗賊に誘拐されたり殺された程度にしか考えないだろう。いずれにしよ帰れるなら早く帰りたい。正直、この世界の後の事など俺には関係ないと思っている。母上やハンナちゃんは悲しむかもしれないが…。そう思いながら俺は井戸の水を飲んでみる事にした。
俺は井戸の水をすくって飲んだ。水は冷たく美味しい。だがこんな事をしていて本当に願いが叶うのか?
もう一度井戸の水をすくうと、井戸の中に金貨を見つけた。誰かの落とし物だろうか?どうせ持って行っても気付かれないだろう。ポケットの中にでも入れておこう。
更に井戸の水をすくってみる。どうみてもただの水。とりあえず水を飲んでみると先ほどまでとは違う。何故か体の奥から力が湧いてくる様な不思議な感覚に陥った…が、暫くしても何の変化も無い。これも外れなのだろう。
最後にもう一度水をすくってみる。お腹がもうパンパンだ。これでダメだったら今日は諦めよう。そう思いながらすくった水を飲む。
どうやら俺は運が良かったらしい。
「さぁ、願いを答えなさい」
女性の声が聞こえたかと思うと突如として俺の目の前に光が差した。光が強すぎてはっきりと見えないがそのシルエットは正しく女神だ。女性的な、美しい体のラインに背中には羽が二つ。長い髪は美しく、顔は見えないがきっと美人に違いない。
俺は気圧されれながらも願いを叫んだ。何故ならここで逃したら、もう帰れないと思ったからだ。出来るなら、あの平穏で穏やかな地球で過ごしたい。こんな血に濡れた地で死に怯えながら生きるなどごめんだ。
「元の世界に返してくれ!」
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