僕は天真爛漫娘と仲良くなれた高校生。



「さっきの海島さん、どこかで見たことあるんだよな」


「デジャブじゃないのか?」



 宗が以前の世界線の記憶でも残っているかのように頭をひねっている。


 結局のところ、海島さんに会うことはできなかった。



「おはようございます!新入生の入学式は体育館で実施しておりまーす」



 ともあれ、僕らはその後すぐにハゲダニ高校に到着した。大きな校舎に沢山の生徒が、鮮やかに生える校門前の木々を通り抜けて進んでいる。



「おっほぉおうううううう! 可愛い子がいっぱいいるぅ! ほら、見てみろよ。現役女子高生の生足大量発生中だぜ?」



 ゲームのゲリライベントのように言わないでほしい。卑猥な発言ばかりすると、いきなりゲームオーバーにさせられるぞ。僕たちの冒険はまだまだこれからだというのに。



「体育館に集合だ。混雑する前に早く行こう」



 宗が興奮するのも無理はない。通っていた中学にはここまで女子は在籍していなかったのだ。その点、ハゲダニは男女比率五分五分なので、とてもよい。



「いやぁ、ほんまメスばっかりや。香りのクセがすごいんじゃ〜」



 いいから。ほら、体育館行くぞ。



 ※ ※ ※ ※ ※



 中は蒸し蒸しとした湿気に包まれていた。生徒だけでなく保護者たちも参列している。どうやら自由席らしい。


 真ん中の通路を抜けて、一番前に座る事にした。


 三つ並んで空いた空席。一番右だけを空けて僕らは左詰めに座る。


 自由席となると大体一番前が空いてる時が多い。後ろの方がぎゅうぎゅう詰めになっているのだから、前に座ればいいのに。



「どした。お前んとこの両親きてんの?」


「いや、来てない。宗のとこは?」


「かあちゃんは弟たちの方に参加してる。LINEきてたし」



 こう見えても宗は長男なのである。弟が二人、妹が一人の四人兄弟。あとペットに猫と犬もいるらしい。玉櫛家は大家族だよ。



「でもイッチーには身内がいるじゃん。ほら、例の完璧超人クールビューティ生徒会長さん」


「姉貴のことはいいだろ。それにあの人は完璧超人でもなければクールでもない」


「ビューティは認めるのな」



 姉貴は確かに綺麗ではある。容姿は整っている。褒めたら調子に乗るから言わないけど。



「しっかし、入学式って退屈だよな。つまんねぇし、話長いし、立ったり座ったりするし。スタミナの無駄使いだろ。俺は寝る」



 そう言って宗は、欠伸をしながら腕組んで目を瞑った。早速ふわふわ時間に突入するらしい。おい、まだ始まってもいないぞ。



『それではこれより、柱劇第二高校第2221回。入学式を始めます』



 アナウンスとともにブザーが鳴り響く。



 ーーと、そのとき、誰かが真ん中の通路から走ってきた。




「ぬわぁあああーー! ギリギリせぇえええふぅううううう!!」




 なんか、ものすごくテンションが高い女子が右隣に飛び込んで来た。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 



「……ふぅ、やれやれだぜ。間一髪ってとこかね。寝坊したけど、これならNo problemだ。時間ピッタリと。あ、これミラノの時刻やった」



 勢いよく僕の隣の席に着席したショートヘアーの小柄な女の子が、額の汗を拭いながら独り言を呟いている。時計もしてないのに、わざとらしく袖をまくっている。



「……」



 人の印象は五秒で決まるという。


 常識を逸脱した行動に普通ならば距離を置くのだが、僕はまるっきり彼女に対して嫌な感情は抱かなかった。


 いきなりの発言や行動だけでなく、その喋り方や声のトーンが、なんというかとても聴きやすいのだ。


 耳に残るというか、好きなアーティストの歌を聴いた後のように余韻が残るというか、そんな愛らしい声である。


 更には漂う雰囲気も人を惹きつけている。童顔で身体も小さいけれど、彼女もまた美人の部類に入る。俗に言う美少女だろう。


 先ほどの海島さんと違うのは、あちらがモデルのような《綺麗系》であるなら、こちらの女の子はアイドルに近い《可愛い系》と言った所か。


 前者が高嶺の花と揶揄されるのであれば、後者はとっつきやすいクラスの人気者タイプである。


 あ、それとこの子、首元に小さなリボン付けてる。可愛い。ショッキングピンク色だ。



「良かったな、間に合って」



 そんな女の子が僕の隣に着席している。なんか少しだけ話がしてみたくて、咄嗟に声をかけることにした。




「えっ……?」




 すると驚かれた。大きく目を見開いて静かに肩をすくめる。明らかに警戒している。




「あ、アンタ。オイラが見えるのかい……?」




 いや、違った。少し変な子だった。




「あぁ、バッチリ見えてる。そんな僕の名前は新垣 善一。夢にときめく高校一年生だ」




 一応ノってみると、




「あたしはただの人間には興味はありません。宇宙人、未来人、異世界人、ネアンデルタール人がいたら、あたしのところに来なさい。以上」




 やっぱり、かなり変な子だった。



 なんだかよくわからないけれど、電波系の女の子なのかもしれない。さっきから返答が斜め上にブッ飛んできている。



「おい。入学式始まってるから私語を慎めよ。てか、誰その子?」



 さっきまで寝ていたクセに急に宗が、僕らに注意をしてくる。


 みると、既に壇上には校長先生らしき人が立っており、話を始めている最中であった。



「えっと、この子は」



「ども! あたしは柳葉やなぎば 明希あき。ぴーすぴーす。好きな漫画はうしおのとら。好きな俳優は向井ことわりさんです!」



 ニコニコと笑いながら、彼女が自己紹介を始め出す。柳葉さんというらしい。



「おい、なんだよ。この変な子」


「仲良くなれそうだよな」


「……どこが? お前、気ぃ狂ってんのかよ」



 宗の耳打ちを無視していると、柳葉さんが僕をみた。

 打ち解けたように僕の名を呼んでくる。



「えっと、アララギ コヨミくんだっけ?」


「違う。確かに名前はよく似ているけれど、僕の名前は新垣 善一だ」


「失礼。かみまみた」



「……いや、俺ついてけねぇわ」



 俯く宗を横目に、柳葉さんが「ほうほう」と頷く。

 少し考えたような素振りを見せて「あ!」と笑った。



「じゃあ、今度からガッキーって呼ぶね! よろしくガッキー!」



 おお、どうやらあだ名をつけてくれるらしい。これは嬉しい!



「おぉ、はじめてのあだ名だ! 嬉しいな。ありがとう」


「いえいえー!」



 今まで同じあだ名ばかりで飽きていた所であった。イッチーとかイッチーとかあとはイッチーとかな。



「おっと、紹介が遅れたな。こっちは幼なじみの宗だ。少し変だけど良いやつだから、仲良くしてやってくれ」


「変じゃない。 全くもって変じゃねぇ。お前らよりはマシだバカ。うっす、玉櫛たまくしです。よろしゅう


「変なのかー! 串カツくん!」


「食いモンじゃねぇかそれ! 俺のあだ名は随分と雑だな、オイ!?」



 さっきからずっとツッコミに回ってる串カツくん。せっかくの渾身のボケも大滑りだ。流石は宗ッッ! 僕らに出来ないことを平然とやってのけるッッ!!



『校長先生ありがとうございました!涙が出そうなくらい良いお話でしたね。では、一同起立! 礼! 着席!』



 いつの間にやら涙が出そうなくらいの貴重な校長タイムが終わってしまったらしい。お喋りをし過ぎたな。



『では次は、在校生代表による新入生歓迎の挨拶です。在校生代表、三年A組生徒会長、新垣 奈々美さん。前へ』


「はい」



 次に登場するは生徒会長。



 聞き覚えのある名前と共に、僕の姉貴が壇上へと降臨した。

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