ウソつきニートと、やり手の大家さん
いつも通りの朝。
チャイムが鳴って、ドアを開けると大家の新井田さんが立っていた。
彼女は私を見るなり、顔を上から下へ頷くように動かし、苦笑。
「おはようございます。ピンポンした私が言うのもアレですけど、一人暮らしの女性がその格好で出てくるのは色々危険な気がします……」
「え……?」
と、自分の恰好を見る。
ピンクのキャミソールに。ラフと通気性重視のショットパンツ。あと、土間だろうがお構いなしの素足。
確かにこれは人様に見せる格好じゃない。
理解出来つつも今の状況に動揺しないのは、
「う~ん、私もそんなに若くないので?」
「疑問形になるぐらいなら、胸張って恥じらってもいいと思いますよ?」
「TPOですよ。さすがに、この姿でコンビニには行けませんし。ここはまだ私の家なので」
「ピザ配達のお兄さんが来たらどうするんですか……」
「そりゃあもう、目のやり場に困らせたままお引き取り願うだけですよ」
あと、よく家に来るお兄さんのセオリーは宅配じゃない? 私、週一ペースでピザ食ってる女だと思われてる?
「はぁ……。ウチで強姦事件とかマジで勘弁してくださいね」
新井田さんは呆れたため息をついて、さらっと恐ろしいことを言う。
私じゃなくてこのアパートの資産価値を心配しているのがひしひしと伝わってくる。
この人、かなり若そうだけど、やはりやり手の実業家とかそんな感じの人なのだろうか。
街に出るとよくいる、平日の昼間からハイブランドの店から出てくる若者のその一人なのかもしれない。曲がりも何も大家だし。
新井田さんが聞いて欲し気というか、早く準備してくれと目が訴えてきているので、応じることにした。
「それで、今日はどんな御用で?」
家賃はちゃんと払っていますよね?
新井田さんの恰好は、半袖のTシャツに日焼け防止のアームカバー。それに長袖のジーパン。頭には夏らしい麦わら帽子。とても、何やっているかわからない若者らしい服装ではない。実家のおばあちゃんみたいな姿だ。そう言えば元気かな。また電話しないと。
「え、忘れちゃったんですか?」
驚き、ごそごそと手に下げた紙袋から一本の”それ”を取り出し、胸元に構えた。
「なにか、お約束していましたっけ?」
私は”それ”に気づかないフリ。いや、まさか。そんなはず……。
「一緒にしようって約束してたじゃないですかぁ……」
実年齢不詳の大きな瞳が私を困惑させる。やめてくれよ。悲しませたりがっかりさせるために生きていないんだ。
実際、そんな面倒な約束してたっけな……。でも、用事があるからと断るわけにもいかない。私が絶賛ニートなのは新井田さんも知っているし。
「今から準備します。ちょっと待っていてください」
さすがにこの格好じゃ外には出られない。おしゃれをする必要もないけど。むしろ、汚れてもいい服装にしないと。着なくなった私の中でトレンド落ちしたTシャツとか。
そんなことを考えながら閉じようとしたドアの隙間から「言ってみるものですね」と声が聞こえたのは気のせいということにした。ほんとやり手だよ、あの人。バイト代もきっちり払ってくれるとのこと。ニートの釣り方をよくわかっていらっしゃる。
■■■
アパートの裏に広がっていたのは夏らしい緑の広がる空き地だった。広さとしては乗用車8台分ぐらいの駐車スペースが出来そうなぐらい。狭くはないが、特別広くもない。
「ここも新井田さんの所有地ですか?」
「そういうことになってるね。見た通り、ほったらかしだけど」
それは謙遜でもなく、本当のことだろう。雑草は生い茂り、窪んだ土の上には水が溜まっている。投げ捨てられた空き缶とその口から零れた吸い殻が近所の小学生のたまり場にはなれなかったことを教えてくれる。
今日の目的は、実のところキャッチボールだといいな。玄関で見せられた”それ”は脅しに使うためで、紙袋の中には二人分のグローブとボールが入っているのではないか。そんな期待は見事打ち砕かれた。
こんなところに連れてこられたら、やることは一つだ。
新井田さんが”それ”を私に手渡す。
「はい、これ。怪我しないように気を付けてね」
渡されたのは鎌だ。刃は鈍色に輝いているからほとんど新品だろう。見れば、新井田さんも同じものを手にしている。今日のために買ってきたのか。私を突然誘っても断らないことを見越して。
「ま、やりますか」
たまにはいいか。こういうのも。
草で身体を切ったり、虫に嚙まれないよう長袖長ズボンで着て正解だった。
「日焼け止めは忘れたな……」
普段外に出ないからすっかりその習慣が抜け落ちていた。
「ま、一日ぐらい……」
帽子も被っているし、と横を見ると新井田さんがニコニコと白色のチューブを振って見せてきた。
あ、これはこっちからのお願いを待っているんだ。自ら手を差し伸ばさず、私が求めるのを待っている。新井田さんはその時、私へ有利な交換条件を突きつけてくる、と絶対そんな算段だ。
たかだか日焼け止め。絶賛引きこもりで血色の悪い私だ。少しは日に当たって肌に赤みを取り戻した方がいいかもしれない。
うん、やると言った以上しっかり取り組ませてもらうが、できるだけ楽をしたい。
「さ、さぁ、やるぞー」
と、鎌を手に草の生い茂る空き地に足を踏み入れようとする前に、私の残りカスみたいな社会人の勘がスマホを取り出させた。
作業中はなかなか見られない、かつての仕事中の性が目を覚まして、そうさせたのかもしれない。
開いたのは天気予報機能。その日や一週間の天気だけじゃなく、突然の雨なんかも教えてくれるから、在職時には重宝していた。
その機能が今回伝えようとしていたのは雨でも雷でもなく、
「紫外線注意報……?」
太陽から伸びた太い波線は紫外線のアイコン。このアイコンは紫に染まっている。なるほど”紫”外線だから、紫か。
ちなみに危険度は緑⇒青⇒赤⇒紫の順で増していくとのこと。
最悪じゃないですかーやだー。屋外でのアウトドアや作業時に日焼け止めを使わないと真っ黒になること必至。
…………シミって一度出来るともう終わりだよね……。
新井田さん。その日焼け止め、ありがたく使わせていただきます。
私がお願いをすると、彼女は待ってましたとばかりにチューブを渡してくれた。同時に”お願い”も聞かされたわけだけど。
■■■
新井田さんの日焼け止めは初めて使うモノなのに、肌によく馴染んだ。引き伸ばす意識をしなくとも、撫でるだけで浸透してくれる使用感。直接肌で感じるから、たぶんこの感覚は間違っていない。相当いいやつだ。
日焼け止めに帽子で頭と顔はガード。腕は長袖Tシャツ。ズボンも長ズボンだし、靴もちゃんとしたスニーカーだ。出来る限りの日焼け対策により、紫外線を恐れぬ私は、ただいま絶賛ゴミ拾いを行っていた。
新井田さんからの”お願い”を遂行中である。
これに伴い、日焼け予防装備に追加のゴミ拾いセットを装備している。
ゴム手袋。片手にはトラばさみ。もう片方の手にはゴミ袋。
「面倒くさいから分別は気にしなくていいですよ!」と大家から分別無視の許可が下りたので、空き地に落ちているゴミを片っ端からつまみ、ゴミ袋に放り込んでいく。
空き缶。……うわ、懐かしい。私が学生の時に売ってたやつじゃないか、これ。コーヒーに抹茶を混ぜた謎商品。この時期って、マジで謎商品が多いんだよな。温めのジンジャーエールとか。生姜だから、身体を暖めてくれるのはわかるんだけど、それなら生姜湯とか飴湯で良くないかっていう印象だったな。まあ、それはそれで実際に飲んで、その感想でクラスの連中と駄弁る流れが楽しかったんだよな。
吸い殻。箱は完全に退色しかかっていて、ほとんど白紙だけど、うっすらと残った文字が私の知らない銘柄だと教えてくれた。吸い始めのころは自分がどの煙草が好みなのかわからず、色々試しに吸って銘柄を覚えたが、その中にこれは無かった。もう廃盤になっているのかも。
この煙草が吸われていた時代、一箱いったい何円だったのだろう。今や私が吸っている銘柄で580円。風の噂で300~400円の時もあったそうだから、昔が羨ましい。それぐらいだったらまあ、おやつ代だ。タバコ吸ってたら、おやつも要らないし。今や煙草一箱で昼食代に匹敵する。お金と余裕の無い人間が心に安らぎを求めて、ニコチンを摂取するのに。これ以上を奪わないで欲しい。それか、超高級煙草作って、それにだけ税金マシマシにしてくれ。
……コンビニで「煙草ください」「税金入れますか」「税金、ニコチン、タールマシマシで」とか注文する未来も来るのかな。我ながら馬鹿みたいな想像だ。来るわけないだろ。マシマシの税金払えるような奴がこんな頭の悪いことするか。いい加減にしろ。
さあ、次。次のゴミは、お、大物だぞ。雑誌だ。サイズと厚さで見るところスペリオールか、漫画クラブの類の週刊誌だ。道端に落ちてたり、古紙回収日にヒモで纏められながら捨てられている本の束とか、つい見ちゃうんだよね。捨てた人の趣味が覗けるし。私が懐かしい、と感じるコミックが纏めて置いてあると、ああ、この(元)持ち主は私と同世代だな、と勝手な親近感を得てしまう。さらに、その漫画が、私もかなりハマっていて、尚且つ様々な事情により手放していると、持ち帰ってしまおうかと葛藤が生まれる。
結局、その度に人目を気にする私の矮小な部分が、タダでお持ち帰りしたい卑しき部分より大きくなり、結論、私は恥知らずな女にならずに済んでおります。
と言うわけで、今日は新井田さんもいるし、持ち帰りは絶対なし。いくらニートでも、空き地に捨てられた雑誌を持ち帰るほど終わっていると思われたくない。そもそも、週一でピザも頼んでいない。高いから。
表紙は先ほどの煙草と同様に日焼けして、見えなくなっている。
ただ、塗られた”絵”というよりも、発色がパッキリした写真の跡がある。
ヤンジャンとか、表紙にグラビアを載せる方向の雑誌か。ライアーゲームってヤンジャンだっけ? 私の中で懐かしい部類に入るのはこれぐらいしかないけど。
いつの時代なのか開いて確かめるため、トラばさみで適当に摘まんで、開く。
セピアに染まった豊満な肌色が飛び込んできた。
エロ本だったかー。まあ、そうだよね。わざわざこんなところに捨てるぐらいだもん。できれば、誰にも見られたくない物を持ち込むよね。
しかし、エロ本なんて久しぶりに見たな。コンビニから姿を消して久しい。普段の生活スペースからいなくなったから、目にする機会が激減した。
発行がいつかわからないけど、女優さんの顔立ちがなんとなく平成初期チック。軽く15年は経っているかな。
ふーん、エッチじゃん……。同性の裸だけど、見せ方からか、太陽と気温のせいではない熱が身体の内から上ってくる。
……興奮とは、違う……。芸術。そう、美術館で裸婦画を見ているようなもの。エロを表現する写真集。学生のときは恥ずかしくって向き合えなかったけれど、30代に片足を突っ込んだ齢になると、芸術、表現の技法だと見れるようになるんだ。自分でもビックリ。なぜ一枚の写真にエロを感じられるのか自分なりに分析もする。
画の中のオブジェクトの輪郭と、被写体全体の輪郭が平衡を保っているから? でも、それだけでは艶やかの理由にはならない気がする。
奥深いな、エロ。
「おーい、ちゃんとやってますかー? 気分悪くなったら言ってくださいねー?」
「大丈夫、大丈夫でーす」
慌てて覗いていたエロ本をゴミ袋に突っ込む。
熱中するあまりしゃがみ込んでいた。
危なかった。もし、この光景を見られていたら、私は落ちているエロ本に熱中するアラサーのレッテルを貼られるところだった。守られた私の名誉。
■■■
お昼ご飯を挟んでからは小刻みに休憩しながら、いつの間にか日がオレンジ色に染まって、鼠色の砂利に私たちの影を落としている。
「お疲れ様でしたー!」
「お疲れ様でした……」
予想以上にきつかった……。ゴミ拾いもさることながら、草刈り中はずっと腰をかがめていたせいで、型がついたように、伸びをすると痛い。それも少し気持ち良いのだけど。
こまめに水分補給していたとはいえ、身体は干からびている。流した汗と補給量が足りていないんだ。今はとにかく帰ってシャワーを浴びたい。そのあとにビール。いや今、家にビールなかったよな……。だったら、家に帰る前にコンビニへ寄るか……。全身泥だらけ、長袖長ズボン、麦わら帽子の終わってる格好だけど。キャミ見られるのとどっこいだ。とにかく早くシャワーとビール。
「この後、予定などございますか?」
片づけを終えた新井田さんが微笑み、訊いてくる。くそ、相変わらずなんて可愛らしい笑顔なんだ。やめてくれ。ニートがこれ以上働いたら、身体中から水分が消え失せ、カピカピにひび割れ、怪獣になってしまう。弱点はビール。あの喉ごしになら殺されてもいい。
「え……? あー」
これ以上の拘束は、新井田さんには申し訳ないがご免こうむりたい。
「すみません、今日はちょっと夜から予定が──」
「それは、残念ですが仕方ありませんね……」
新井田さんがシュンとわかりやすく落ち込む。
この人、童顔だから年下を悲しませているみたいで心に来る。
「な、」
なにかあるなら手伝いますよ。喉元までせり上がった言葉をグッと抑え込む。
私にはコンビニでビールとホットスナックを買って、一杯やるって使命があるんだ。こんなところで屈しちゃいけない。心を鬼にしなければ。人生の後輩に世間の厳しさを教えるのも私の役目なのかもしれない。年下はたぶん私だけど。
「すみませんけど、」
用事があることを押し通して帰ろう。ニートに用事もなにもないから、嘘なのはバレてしまうかもしれないけど。
日は沈みかけて逢魔が時。私と新井田さんの1日の終わりにはちょうど良いタイミング。謝罪の枕詞に続く言葉を発そうとしたとき、
「いたいた。お待たせしました」
大きな荷物──引いて運ぶタイプの真っ赤な台車と一緒に丹田さんが現れた。
「丹田さんっ、お疲れ様です。すみません、仕事終わりに重いもの運んできてもらっちゃって」
「いいんですよ。私も楽しみにしていましたから」
「丹田さん? どうしてここに?」
仕事終わりだと言っていたが、丹田さんの恰好はジーパンに白のTシャツに青のシャツ。職場はスーツのはずだから、自宅を経由してここに来たのだろう。それにしたって、どうして? 今から草刈りに参加する? いや、でもほとんど終わっちゃってるしな……。
「あれ、聞いてない? 今からバーベキューでしょ?」
「バーベキュー?」
「そうそう。昼間に新井田さんと二人で空き地の草刈りをして、そのあとにやるって。しかも奢りで」
「……それって、お酒飲めますか?」
「そりゃあ、肉とかエビ焼くのだから、出なきゃウソでしょ」
これはこれは、だぞ。
私がこの世でトップクラスに好きなただ酒にありつける展開だ。
「丹田さん、せっかく道具持ってきてもらいましたが、実は……」
「ちょっと待って電話が!」
「へ? え……?」
脳の命令を、身体が遂行するまでに光速のラグが発生するらしい。もし、それが本当だとすれば、私は、光速を超えた。新井田さんが次に繋げるはずであった言葉をキャンセル。さぁ、隙が出来た。ここに叩き込む。
滅多に鳴らないからマナーモードにしたのか。それとも着信に気づく必要が無いからマナーモードなのか。持ち主である私ですら、設定の起源を知らないスマートフォンを取り出し、5歩離れたところで耳に当てる。
「もしもし? あ、うん、今日の予定ね? え、風邪ひいた? ああ、なら仕方ないね。うん、また今度。はいは~い」
汗でテカった画面をTシャツの裾で拭きとる。ふぅ、と息を吐いてちょっと考え込むふり。でも、今の私は光速。空白になった──ことにした──時間を埋める方法だって一瞬で思いつく。
「用事、無くなりました! BBQってまだ間に合いますか?」
「間に合うもなにも、まだ火すら点けてないわ」
新井田さんは少し呆れ顔。
「よっしゃ。じゃあ、私、お酒買ってきますね」
「お酒じゃなくて、飲み物ね。ソフトドリンクなしはさすがにしんどいわ」
「お、丹田さんもしかして日和ってます?」
「あなたと違って、私は明日も仕事なのよ!」
火ばさみをカチカチ鳴らして威嚇を始める新井田さんを後目に早々と空き地を出る。社会人マウントはニートに効くのだ。なんたって、労働に勝る社会貢献は無いのだから。ドロップアウト組は返す言葉を持ち合わせていません。
「そ、それじゃあ、私は家に戻って食材を取ってきますね!」
新井田さんが私の横に追いつく。小刻みに息を切らしているから、ちょっと小走りに追いかけて来てくれたのかな。
「ほ、ほんとに大丈夫なんですか? 予定があったんじゃ……」
「大丈夫大丈夫。向こう、体調崩しちゃったみたいだから」
こういう善意に触れると、今日の寝る前。もしくは明後日ぐらいにシャワーを浴びている最中。はたまた来年の今頃に自己嫌悪のフォークで突く、ブヨブヨになった蜜柑みたいな弱点が現れるのだ。
でも、一回ついた嘘は貫き通さないと。隠していれば、彼女は騙されたことを知らないで済む。傷つくのは、自分可愛さに出まかせを吐いた張本人だけで良い。
「バイト代、別に要らないですよ」
「ど、どうしてですか?」
「どうしてって」
理由は言えないな。でも、無ければ無いで、今度は新井田さんが不安になってしまうだろう。やり手だけど、律儀な人だ。大家と言う立場から、恐らく年上であろう私と丹田さんにもご馳走しようとしてくれている。そんな人が突然、バイトから給料は要らないと言われたら、自身を責めたり不安になるような、余計な心配事をさせてしまう。
だったら、私は嘘を重ねる。
「いい運動ができましたし。それに私、ニートといえどちょっと稼ぎがあるんです。だから、あまり不明確な収入は増やせなくて。税務署とか面倒ですし」
「そう、ですか……」
賃貸経営している新井田さんには簡単に見抜かれてしまうかも。
夕暮れのセミが私たちの静寂にBGMを与えてくれる。ループが一回。もう一度鳴り始めるころには私たちのアパートの前。
「それでは、またあとで!」
「うん、またあとでね」
私たちの住むアパートは少し小さい。2階建ての真っ白な壁が可愛らしい、木造アパート。振り向く新井田さんは私たちの大家さん。小柄で朗らかな笑顔が、このアパートによく似合っている。
「お酒、少し良いもの買ってきてください! 私も頂くので!」
そして、彼女はやり手だ。私の嘘なんてとっくに気づいているかもしれない。
部屋へと戻る閉じかけのドアの隙間から、彼女の声は聞こえなかった。
「それにしたって暑いな」
西日に手をかざし、顔に影を差す。
もしかしたらただ、同じことを呟いているのかもしれない。日差しと気温は平等に降り注ぐのだから。他者理解はほどほどに。受けた恩はありがたく受け取ろう。そして、私が出来る限りの手段でお返しをしていこう。そうすれば、悪い方向には転がらないはず。上澄みの綺麗な部分だけで色を塗れば、濁りに目を留めることもない。
──昔、こんな話をしたら「深みも生まれないね」と返してきた、あの人は相変わらず平面に深みを掘ろうと四苦八苦しているのだろうか。
今日の出費。
食費:0円(新井田さんの奢り)
ドリンク代0円(新井田さんの奢り)
BBQ機材代:0円(丹田さん持ち込み)
合計:0円
残高:5,412,348円
宝くじが当たったので仕事辞めました。 白夏緑自 @kinpatu-osi
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