第77話:冒険者アリシア 2

 魔導師によって発展したと言われているだけあって、門を潜った先では様々な魔法を駆使した風景が飛び込んできた。

 水と風の魔法を使った噴水が吹き上がり、光魔法を使った照明が点灯前で明滅し、料理屋では火魔法で火力を調整し、木と土の魔法が植物を育て、その幹を揺らし周囲の者たちを楽しませている。

 多くの者は魔法を戦闘にしか使うことをしない。

 日常生活に使用する者はいるだろうが、それを娯楽に使用する者はいなかっただろう。

 だが、ここラクドウィズでは違った。


「すごいきれいで、面白い都市ですね!」

「話では聞いていたが、ここまで派手に都市内で魔法を使っているとはなぁ」

「まあ、ラクドウィズの魔導師たちが魔法を使うのは、自分たちの腕を磨くためでもあるのよ」


 アリシアが言う通り、魔導師たちは何も娯楽にだけ魔法を使っているわけではない。

 日常生活だけでなく、遊びや娯楽の中にも魔法を取り入れることでその腕を磨き、将来的には大魔導師になることを夢見て生活を送っているのだ。


「へぇー。そういうことだったんですね」

「アリシアもこっちに来たのは初めてだろう? なんでそんなに詳しいんだ?」

「それは……えっと、聞いてほしいことと関係しているので、まとめて説明してもいいですか?」


 苦笑しながら頬を掻いてそう伝えると、ゼーアとケイナは顔を見合わせたあと、一つう頷いた。


「それならまずは、宿屋を見つけるとするか」

「やっとベッドで休めるんですねー」

「その前にアリシアの話を聞くんだろうが!」

「痛い! ぶー、わかってますよー!」

「あはは! それじゃあ、早速探しに行きましょうか」


 街並みを眺めながらアリシアたちは再び歩き出し、豪華とは言えないものの懐に優しい金額の宿屋に入った。


「おや? 魔導師以外のお客様なんて珍しいわねぇ」

「三人なんですが、空いてますか?」

「三部屋かい? それとも二部屋?」

「いえ、一部屋で――」

「「ふ、二部屋でお願いします!」」


 アリシアは男性のゼーアと一緒の部屋でもよかったのだが、そこへゼーア本人とケイナが口を挟んだ。


「え? ……あっ! そっか、ケイナは異性と同じ部屋って嫌だよね!」

「それはお前もだろうが、アリシア!」

「そうですよ! ゼーアさんが嫌ってわけじゃないですけど、そこは節度というものがですねえ!」

「そう? お金が勿体ないんじゃない?」

「「絶対にダメだから!!」」

「……じゃあ、二部屋でお願いします」

「あはは! あんた、面白いねえ! それじゃあ二部屋ね。楽しいものを見せてもらったから、少しだけ割引させてもらうよ!」

「えぇ! わ、悪いですよ!」


 女将の言葉に慌てて遠慮しようとしたアリシアだったが、支払い額が伝えられるとケイナが手際よく支払ってしまった。


「ちょっと、ケイナちゃん!」

「その分、ラクドウィズでお金を使いましょうよ!」

「あたいとしてもそうしてもらえたら嬉しいね!」

「……わかりました。女将さん、本当にありがとうございます」

「ラクドウィズを楽しんでちょうだいね!」


 ゼーアとケイナが部屋の鍵を受け取ると、まずはそれぞれの部屋へと向かい荷物を置く。

 その後、ゼーアの部屋に集まりアリシアの話を聞くことになった。


「それで、アリシア。いったいどんな話なんだ?」

「私たちはどんな話でも受け止めますよ!」


 二人が真っすぐにアリシアを見つめる中、彼女は一度深呼吸をしてから、ゆっくりと口を開いた。

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