第二章:自由と束縛と
第76話:冒険者アリシア 1
ディラーナ村から聖女候補として旅立ったアリシア。
彼女は聖女となり、王都での活躍を約束された――かに思われた。
しかし、彼女は聖教会の大司祭であるホールトンの謀略によって命の危機に晒されてしまう。
ホールトンはこのまま魔獣に食い殺されて終わりだと思っていただろうが、アリシアはそれで終わりではなかった。
王都までの道中で食事を共にし、仲を深め、信頼を得ていった田舎出身の騎士たちと手を取り合って魔獣を撃退したのだ。
彼らはホールトンの私兵から自由を手にし、それぞれがそれぞれの道へ進むことになった。
特にゼーアとケイナの田舎騎士とは仲を深めており、自由を手に入れたが二人はアリシアと行動を共にすることを決めた。
王都の聖教会にはホールトンが在籍しているため向かうことはできなかったが、アリシアは向かうべき場所をすでに決めていた。
「ようやく到着しましたね!」
「なかなか時間が掛かったが、ここがお前の行きたい場所だったんだろう?」
「はい。私はここで、やるべきことがあるんです」
――魔導都市ラクドウィズ。
魔導師により発展した都市であり、王都に勝るとも劣らない規模の大都市だが、ここは今から二年後――地図上から消えることになる。
(だけど、あくまでも前世と同じ道をたどった場合の話だわ。私がここに来たのは、前世を変えるためなんだから)
自由を得たアリシアだが、それは自分に課した役目を放り出していいことには繋がらない。
アリシアは前世を変えるために動いている。
それは自由でなければできないことだが、自由とはかけ離れているとも言えるだろう。
だが、それでもいいとアリシアは思っている。そうでなければ自分はおろか、最愛の父も、新しくできた仲間も守ることができないのだから。
「早速中に入りましょう!」
「ところでアリシア。ここで何をしようってんだ? 冒険者として活動でもするのか?」
アリシアはまだ、二人に前世の記憶があることを伝えていない。
ラクドウィズに来た理由もまだ伝えておらず、二人は田舎騎士たちとの会話の中にあった冒険者になるのかと考えていた。
「うーん、まずはそのつもり。実力をつけるのもあるけど、先立つものがないとどうしようもないからね」
「あぁー、確かにそうだな」
「そろそろ資金も尽きそうですしねー」
「そういうこと。……それと、二人には伝えておかないといけないことがあるんだ」
だが、アリシアはここまでついてきてくれた二人には事実を伝えようと考えていた。
離れるようであれば見送るつもりでいた。自分の我がままに付き合わせるつもりは毛頭なかったから。
だが、ここまで来てくれたのだから、おそらくはこれからもついてきてくれるだろうと考えている。
このまま何も知らずに大騒動に巻き込まれてしまうなど、アリシアが望む展開ではないのだから。
「んだよ、辛気臭い顔をしやがって」
「そうですよ、アリシア様! それじゃあすっきりしてもらうために、早く中に入りましょう!」
「……えぇ、そうね。そうしましょう!」
ゼーアが大きな手でアリシアの頭を撫でると、ケイナは持ち前の快活な笑みを向けて彼女の手を取る。
そんな二人に気持ちを支えてもらいながら、アリシアは笑みを浮かべて歩き出す。
そして、目的地のラクドウィズの門を潜った。
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