第78話:冒険者アリシア 3

「単刀直入に伝えるね。私は――これから起こる未来の記憶を持っているわ」


 アリシアの告白を受けて、ゼーアもケイナも驚きの表情のまま固まってしまう。

 それも当然かとアリシアは考え、だとしても口を止めるわけにはいかないと言葉を紡いでいく。


「信じられないことだと思うけど、本当なの。厳密にいえば、私は前世で一度死に、過去に戻ってきた。だから未来の記憶を持っていると言ったの」

「ちょ、ちょっと待て! 確かに信じがたいことだが、そんなことが本当に起こり得るのか?」

「私も最初は驚いたし、信じられなかった。でも、これは本当なんだ、ゼーア」

「……アリシア様が、未来の記憶を持っている?」

「驚いたよね、ケイナ。もしも怖いと思うなら、やっぱり一緒に行動することは――」

「す、すごいです、アリシア様!」

「……え?」


 ここで二人と別れることになるかもしれないと覚悟もしていたし、信じてほしいという願いも心のどこかに持っていた。

 しかし、ケイナの反応はアリシアの予想を完全に外したものだった。


「……あの、ケイナちゃん?」

「やっぱりアリシア様は聖女様だったのですね!」

「いや、聖女だからって未来の記憶を持っているわけじゃないのよ?」

「それならアリシア様は聖女様以上の存在ということですね! あぁ、私なんかがご一緒にしてもいいのでしょうか?」

「そ、それはもちろん! 私はケイナちゃんと一緒にいたいもの!」

「はあぁぁっ! ……あ、ありがどうございばず、アリシア様ああああっ!!」

「な、なんで泣いちゃうのよ~!」


 急に泣き出したケイナを見て、アリシアは慌てて彼女の肩に手を置いた。


「……ああああああああっ!」

「ええええぇぇっ!? な、なんでさらに泣いちゃうのよ~! ケイナちゃ~ん!」

「……こいつは、落ち着くまでに時間が掛かっちまうなぁ」


 頭を掻きながらそう呟いたゼーアは、顎に手を当てて肘を置くと苦笑した。


「ぐすっ! アリシア様は、本当に聖女様です~!」

「聖女候補だし、そもそももう聖女にはなれませんからね! はい、この話はおしまし! 話を戻すわよ!」

「ば、ばい~!」

「おっ、意外と早くまとめたなぁ」

「ゼーアさんは他人事みたいにしないでください!」

「がはは! いや、すまんな」


 アリシアにジト目を向けられてしまい、ゼーアは苦笑いを浮かべる。

 椅子に座り直して視線を彼女に向けると、ケイナも涙を拭って背筋を正した。


「私は自分に聖魔法が発現することを知っていました。そして、ホールトンが迎えに来て連れていくことも」

「なるほど。だからホールトン様が……いや、ホールトンが来ても堂々としていられたんだな」

「私だったら委縮してなんでも頷いちゃいそうです」

「私も最初はそうだったわ。それに、お父さんもね」

「アリシアが未来の記憶を持っていることを、親父さんも知っているんだな」

「……うん。他にも何人か知っている人はいるけど、みんな信頼している人ばかりだよ」

「だろうな。そうじゃなきゃ、アリシアはお偉いさんに狙われてばかりになるだろうな。……ん? ってことは、先日の魔獣襲撃も予期していたってことか?」


 ゼーアはそう口にしたが、アリシアはゆっくりと首を横に振った。


「ううん、知らなかった。そもそも、あんな出来事を聞いた覚えもないもの。たぶん、私が前世と同じ行動をしなかったからこそ、起きてしまったことなんだと思う」

「ホールトンの野郎が、何かしかけやがったか?」

「そ、そんな……」


 思案顔のゼーアとは違い、ケイナは恐怖に顔を染めている。


「……私が生きていることがホールトンに知られたら、二人を危険に巻き込むことになると思う。だから、やっぱり離れたいならそう言ってくれても――」

「それはねえな」

「私たちがアリシア様を守ります!」


 アリシアの話を聞いたあとでも、二人の決意が揺らぐことはなかった。

 その決意にアリシアは嬉しくなり、その頬を一粒の涙が筋を作って流れていった。

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