第32話:自警団員アリシア 10
詰め所にはすでに多くの自警団員が集まっていた。
しかし、アーノルドの推測は正しく、この場に分隊長たちの姿はない。
だが、アーノルドが分隊長たちを詰め所に呼び出していた昼の光景をみんなが目にしているので疑問に思う者はおらず、逆に自分たちは何をするべきかと目をぎらつかせていた。
「おじさん! アリシアも来たのか!」
「アリシアちゃん!」
「ヴァイス兄、ジーナちゃん!」
アリシアは先に詰め所へ来ていたヴァイスたちと合流すると、アーノルドへ振り返り何を口にするのかと注目する。
他の自警団員も同じであり、自分たちはやる気だぞと言わんばかりの気迫を感じた。
「……森の中にシザーベアが確認された。だが、今までのシザーベアとは一味違う、森の主かもしれない危険な個体だ」
アーノルドの言葉にヴァイスの体がピクリと揺れる。
隣に立っていたジーナはアーノルドだけに注目しており、ヴァイスの変化に気づいたのはアリシアだけだった。
「分隊長たちが危険に晒されている。私は今すぐに森へ向かい、彼らを助けたいと思う」
「俺たちも行きます!」
「今日この日のために鍛えてきたんだ!」
「私も行きます! 行かせてください!」
多くの自警団員から声があがり、士気が高まっていく。
「……わかった。だが、村を守る者も必要になる。故に、今から名前を呼ばれた者だけが前に出てくれ。残りは村の防衛にあたってもらう」
「そんな! 団長!」
「異論は認めん! 急ぎだ、名前を呼ぶぞ!」
声をあげた自警団員を制し、アーノルドは数名の名前を読み上げていく。
その中にはシエナの名前もあり、彼女の表情は一気に緊張感に包まれた。
「……シエナさん」
「……大丈夫よ、アリシアちゃん。団長は、私が守るからね」
そう口にしたシエナは、ニコリと笑いアリシアの頭を撫でた。
しかし、アリシアはこの時、何故か忌避感を抱いていた。
それは森へ向かうシエナに対してなのか、それとも先ほどの発言に対してなのかはわからないが、忌避感を抱いた瞬間から鼓動が早鐘を打ち始めている。
「……あ、あの、シエナさん、やっぱり危ないかも――」
「いってくるわね」
「あっ……」
シエナを止めようとしたアリシアだったが、彼女の言葉を遮るようにしてシエナはアーノルドの下へ駆け出した。
森へ向かう面々は何やら会話を交わしたあと、急ぎディラーナ村をあとにする。
残された自警団員は歯噛みしながらも、防衛任務も大事な仕事だと自分たちに言い聞かせて武器を手に警戒にあたる。
「……だ、大丈夫だよね、アリシアちゃん?」
「……きっと、大丈夫だよ」
ジーナの問い掛けに、アリシアは大丈夫だと答えたが、その言葉に力強さは感じられない。
実際のところアリシアにもわからないのだ。
前世の時と変わってしまっている。だからこそ、自分が何をすればいいのか、このままでいいのかもわからなくなっていた。
「……ごめん、二人とも」
「……どうしたの、お兄ちゃん?」
「……ちょっと、トイレ」
「…………もう! お兄ちゃんのバカ!」
「悪いって! 緊張してたらトイレに行きたくなったんだよ!」
「早く行ってきてよね!」
「はは、悪い! アリシア、ジーナを頼むな!」
苦笑いを浮かべながら駆け出したヴァイスの背中を見つめながら、アリシアはグッと拳を握りしめる。
それは彼が向かった先がどこへ続く道なのか、アリシアは知っていたからだ。
「……あの、すみません!」
「ん? どうしたんだ?」
アリシアは近くに立っていた自警団員に声を掛けた。
「ジーナちゃん、私もトイレに行ってくるね!」
「えぇ~? アリシアちゃんも~?」
「あの、ジーナちゃんをお願いします!」
「あぁ、わかったよ。早く戻ってくるんだよ」
「ありがとうございます」
アリシアはぺこりと頭を下げると、ヴァイスが向かった方向へ駆け出した。
やや遠回りにはなるが、彼が向かった方向からも森へ向けることができる。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……ヴァイス兄、ダメだよ! 死んじゃうよ!」
一人で森へ向かっただろうヴァイスを追い掛けて、アリシアは全力で走り出した。
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