ブルースカイ②
私は空が好き。
どこまでも広がる澄み切った青は鳥たちの世界。私の憧れである自由の色。
私には幼馴染がいる。曇天のように暗く湿気た顔ばかりしてる幼馴染が。
彼は頭が良かったが、人付き合いが苦手なこともあり、よく嫌がらせを受けているイメージがあった。
嫌がらせを受けると彼は決まって校舎裏のじめっとした場所で黄昏れていた。そんな彼を見つけるたびに私は空を見上げるように言っていた。
空は自由なものだ。
本当に幼い頃は彼も私と同じ様に空に憧れていたはずなのに。周囲の環境が次第に彼を変えてしまった。
私は空が大好きだから、空に関わる仕事をするのが将来の夢だ。いや、夢だった。
中学に上がった時に知らされたのだが、私は生まれつき心臓が弱く、長生きは望めないらしい。今は身体も小さいので影響は少ないが、成長するにつれて心臓への負担が大きくなり、そのうち機械無しでは生きることができなくなるのだと言われた。
お医者様が言うには二十歳まで生きられるかも判らないらしい。
中学生に成り立てな子が聞くには酷すぎる話だと思ったが、私は絶望しなかった。
私は空に辿り着けないかもしれないけれど、彼は違う。彼は健康で元気だ。そんな彼に託そうと思った。でも、彼は私の病気の事を知ると空から目を背けてしまった。
彼にとっての空とは“私”であり、私無しの空は支えのない不安なものなんだ。と。
よくもまあ、そんなこっ恥ずかしいことを言えるなーなんて思ったが、言わないでおいた。きっと彼は気付いてないから、自分の思いも。私の思いも。
だから私は「支えもないけど、柵もない」なんて屁理屈臭いことを言って誤魔化す。
中学3年生になりしばらく経った頃、私は倒れた。何の脈絡もなく、いきなりの出来事だった。
お医者様が言うには、身体が急激に成長した反動かららしい。
その日から私は病院に行くことが増えた。精密な検査や、延命治療のために。
そしていよいよ卒業式が間近に迫った頃、私は終わりの見えない入院が決まった。卒業式には出られなかった。
覚悟はしていたし、仕方ないとも思う。悲しくないと言えば嘘になるが、私より彼のほうが悲しんでいたように思う。
ただ、病室というのは退屈だ。周りを見てもくすんだ白しか無い。まるで空を覆い尽くす雨雲の色。あまり好きじゃない。雨雲は彼の落ち込んだ顔を連想させるから。
だから私は窓の外ばかり見ていた。
空は感情豊かだ。雨の日もあれば晴れの日も曇りの日も、私に様々な表情を見せてくれる。
彼と同じ様に。
私は彼が好きだったし、自惚れかもしれないけど彼も私を好きだったと思う。あんな事を言うくらいだもの。でも、この気持ちは墓まで持っていくの。
もうすぐ死にゆく私が思いを告げれば彼の重荷になってしまう。空は自由なものだ。
勝手な思いかもしれないけれど、彼にとっての私がそうであったように、私にとっての空もまた彼だったから、私という柵に囚われず自由であってほしい。
彼は確かに曇りのような人だけど、雲というのは本来、気ままに空に浮かぶものだと思うから。
だから私はただ一言。彼に伝える。
―空を見上げて。と。
私達が好きだったあの空を、その見憧れたあの頃の様に。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます