90 気づき

 理科の授業に使う一式を抱えて、陽佑ようすけ連城れんじょうが廊下を歩いていると、梅原が通りかかった。音楽室からの帰りらしく、リコーダーを含むワンセットを抱っこしている。一緒にいるのは園浦そのうらとかいう女子だ。

「おう梅原」

「よっす」

「あ、おつかれ」

 どちらもあまり時間がないので、今回交わしたのはこれだけだった。すれ違った瞬間、須藤が連城の背後から体当たりをかましてきたので、3人で連れだって理科室へ急いだ。


「仲良しだね」

 園浦に言われて、ん、と梅原は振り返った。

「ああ、あのふたり、いっつも一緒にいるんだよね。よほど仲良しなんだろうね」

「そうじゃなくてね」

 園浦が、くすくす笑う。

「梅ちゃんが、あのふたりと仲良しだね、って、言ったの」

「仲良し、かなあ?」

 梅原は少し悩んだ。確かに、男子としてはよく話している気はする。しょっちゅう呼び止められるし。でも雑談のレベルが合うんだよね。気負いもいらないし。そもそもあたし、女子よりも男子の方と、共通の話題が多かったりするし。向こうだって、あたしが女子だってこと忘れてるんじゃないかな。


「仲良しでしょ。クラス違うのに、会うたびに声かけるって、どっちかは梅ちゃんのこと、ってことじゃない」

「えー……それはないでしょ」

 梅原の表情から、笑みが消えた。

「あ、もしかして、ふたりとも、だったりして」

「……あんまりからかわないでもらえますぅ?」

 ぎこちない笑顔を無理やりかぶって、梅原は園浦を稚拙にけん制した。


 そんなことあるわけないって……足が、止まった。


 1年生の1学期は、大野のせいでさんざんだった。女子は必要最低限の付き合いしかしてくれず、誰とも仲良くなれるところまでいかなかった。男子も、自分と関わることで面倒に巻き込まれたくないと思っているのが見え透いていた。普通に接してくれたのは、あのふたりだけだった。意地悪な人じゃないんだなと思えたし、力の抜けた感じが、自分とは波長が近いように感じられて、ごく自然に関わることができた。なにより、あの居心地悪い教室を変えるきっかけになってくれたのが、彼らだった。普段そんなに大声を張り上げて場を仕切るような性格ではないのに、凍りついた空気の中で声を上げてくれた。あのふたりが助けてくれなかったら、2学期からだってどうなっていたかわからない。2年になってからクラスが別々になってしまったけど、あのふたりはいつも廊下のすぐ近くにいて、こちらを見かけると気さくに呼びかけてくれた。去年も、今年も。そりゃ毎日毎回とはいかなくても、でもけっこうな頻度で。まだ心配して、気をつかってくれているのかもしれないと思っていた。こちらも女子の友だちができて、以前ほど寂しくはなくなったけど、それでもあのふたりと気取らない話題でけらけら笑えるのが、気楽でよかった。


 通りかかるたびに。



 ……



 梅原はもう一度振り返った。2組の生徒たちはもうあらかた教室移動してしまっていて、陽佑も連城もとっくにいなくなっていた。



 まさか。



 大野くんからあんなに意地悪されて、誰からも知らん顔されるようなあたしを、あのふたりがそんな風に思っているなんて、まさかそんなはずが、

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