72 医師には向かない人材

 学力テストが終了した後、委員を決める話し合いがあった。今回は当然の流れといおうか、運動会の幹部は避けた人選にしよう、という空気があった。クラス委員は浅川と荻野おぎの、体育委員は日比野ひびの澤本さわもとと決まった。今後このふた組も、「幹部グループ」に入れられることになる。また、文化委員の競争率が驚くほど激しかったことも印象的だった。

 ……梅原も、運動会で何かやるのかな。メッセージでグループ作って、誰かとやりとりしてるのかな。――少しだけ、陽佑ようすけの胸に、熱くて苦いものが落ちてきた。


 昼休みに、3年生各クラスの運動会キャプテン4人が集まって、生徒会室でくじを引き、チームカラーが決められた。2組は青組と決まった。放課後、クラブの前に慌ただしい幹部会議があり(陽佑は危うく帰りかけて、お前も幹部だろうと連城れんじょうに襟をつかまれた)、意見交換や進捗状況の報告などがなされた。堀川は、ダンスを下級生に指導する担当のグループ分けを公表した。連城は、衣装デザインのスケッチを公開し(細部に「ここ青色」と手書きされていた)、不要な白シーツや布団カバーの供出依頼を全学年に出したいこと、および予算枠で購入を検討している物資について、また全学年から裁縫に自信のある生徒を衣装班に組み入れて作業したいと考えている旨を承知しておいてほしいとのことだった。山岡は、事前にコピーした図案のいくつかをピックアップして(これも細部に色指定の案が手書きされていた)、どれがいいか明日3年生全員に決を採りたい、また例年通り美術の得意な生徒を全学年から集めてデコレーション班に参加させたいと報告した。

 ほかの者はまだ報告できることがないので、それらを聞くだけだった。


「すごいな、みんな」

 散会し、みんなクラブに下校にと行ってしまうと、陽佑は連城と並んで道を歩きながら、ため息をついた。

「ちゃんと、それぞれやるべきことを積み重ねていて、ぱっと連絡取り合って、……お前もなあ。よくあんなの考えて、まとめられるよ」

「おれひとりで考えたんじゃねーもん。衣装班何人かでな。おれが考えたやつはしょっちゅう、予算考えろ! で却下されてばっかりだった」

 とほほ、と連城は力なく笑った。

「でも、そういう打ち合わせをがんがんやってたわけだろ」

「うちはそんなにたいへんでもない、堀川にくらべりゃーな。それに、全部束ねる土田とか葉山の立場なんてよ、もーもーもー」

 おれ絶対無理、と連城は首を振る。

「俺も無理だ。やっぱり、3年生って立場だと、みんな気合違うのかな」

「まー、そーだろーな」

「土田なんて、バスケ部の主将やってて、まだブロック大会の試合もあるのにな。大活躍だ。……俺の出る幕なんて、あんのかな」


 苦笑する陽佑を、連城はしばらく見ていたが、少し口調を改めた。

「夏休みの終わりくらいに、土田から幹部にメッセージ来たんだ。桑谷くわたにを幹部に入れたいって。副キャプテンとか何かの部署のリーダーとは別の位置づけで自分を助けてくれると心強い、あちこち調整して回るような役目はあいつ以上にこなせる奴いない、って」

「……買いかぶりすぎじゃないかな。あのジェイバーガーで話したときって、土田よっぽど弱ってたのかな」

「自分はあくまで顔であって、心臓がないと困るんだって、土田言ってたぜ」

「……………………」

 心臓。

 昨日もそんなこと言ってたな、土田。


「いや、わかるんだ。……あいつ、こうも言ってた。去年、桑谷が生徒総会で演説したあたりから、このクラスが一体化し始めたって。打ち上げやろうとか、城之内じょうのうちの送別会やろうとか、自然に声が上がったし。女子なんかみんなでチョコくれたりしたじゃん」

「……ああ、ま、そういえば」

 クラスが一体化云々については、ただのタイミングの問題だという気もする。合唱大会もあったことだし。

「誰も反対しなかったよ。ていうか、みんなすぐ賛成した。確かにあいつはいてほしいな、って」

「……俺、特技なんて別にないけど」

「なあ桑谷、心臓ってやつは、動こうと考えて動いてるわけじゃねーんだよ。動いてる状態が、心臓にとっては普通なんだ。それが、ハタから見るとすげーとこなんだ」

「…………?」

 なんだかよくわからない。


 ――どうやら俺を心臓に例えたいみたいだけど、今のところ何をどうすればいいのかぴんときてない状態の俺は、心臓としては役立たずじゃないのか。全身に壊死えし起こすぞ。――自分の例えで気持ちが悪くなって、陽佑は額をおさえた。

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