61 長いお別れ

 学年最後の行事となる球技大会で、2年2組はなかなかの団結を見せた。バレー部主将の海老原えびはらがいる3組を退け、男子は優勝を果たしたのだ。女子は、初戦で運が悪かったとしか言いようのない事態が起こり、3位となった。


 2年生ともなると、クラスの雰囲気も1年の頃よりずっとこなれている。陽佑ようすけ個人にとっても、少なくとも男子に限っては、去年より居心地のいいクラスだと思っていた――女子の事情はどうか知らないが。


 期末試験を挟み、3年生の送別会と卒業式も、もう陽佑には手慣れたものだった。ああ、こうだったっけ、と忘れていた細部はあったにせよ。福田、市川、つじ柳井やない、林、増田、右田、中島、野木のぎ――。文化祭に際してお世話になった3年生たちは、みんないなくなってしまった……それぞれの道を行くために。卒業式の前日の放課後、2年の各クラス委員は、有志を集め、ひとつ上の教室の飾りつけをした――つまり、2年2組が3年2組の飾りつけを請け負うのだ。黒板に「卒業おめでとう」のメッセージを書いたり、紙で作った花やチェーンを貼りつけたり、バルーンをくっつけたり。ちょっと影が薄い女子と思われていた横瀬が、デコレーションに天才的なセンスを見せつけ、陽佑らを「おおー」と感動させた。


 ……そうして3年生が一気にいなくなると、2年生の教室には硬く骨っぽい空気が音もなく横たわった。名実ともに、彼らが最上級生になった瞬間だった。1年後、自分たちも卒業する。その前に、受験が待ち構えているのだ。目をそむけたいがそむけられない現実が、ゆっくりと姿を現しつつある。


 そしてもうひとつ、衝撃的なニュースがもたらされた。あの城之内じょうのうちが、3学期をもって転校してしまうという。楽しい奴に限って、途中でいなくなってしまうものだ。城之内本人はへらへらとあいさつしたが、みんなショックを隠せなかった。誰からともなく春休みに送別会をしようと声が上がった。


 ……ある週末、陽佑は連城れんじょうと土田と山岡と連れだって、遊びに行くついでに、キャンディの大袋を購入した。選定にあたっては、土田と山岡のアドバイスがおおいに参考になった。やはりモテる(自称)だけのことはある。月曜日にそれを女子全員に贈って、男子全員から集金した。ひと月前の義理を果たし、男子が女子にずっと頭が上がらなくなる事態は無事回避された。


 修了式と退任式が終わると、2年2組の生徒の大多数が、学校に近いジェイバーガーの2階席に集合して、城之内と最後の時間を楽しんだ。意外なことに、2学期に体育委員をしていた女子の田村が号泣し、そうだったのかと全員をしんみりさせていた。終始明るかった城之内も、彼女のそんな姿に少し涙ぐんで、後で連絡先を交換しようと持ちかけていた。


 こうして、仲間がひとり、去って行った。とても大きなものを持ち去ってしまった。入れ違うように、春が近づいていた。硬く、冷たく、厳しい春が。

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