57 まじめに総括

 でき上がった、A3の原稿2枚(両面印刷の予定)を、陽佑ようすけは自分の部屋で、改めて見直した。

 アンケートの集計がおよそまとまったのだ。

「結果は全校生徒が知りたいでしょうし、文化委員会の臨時報告書を発行して、全校に配りましょうか」

 副委員長の野木のぎは、そう言った。陽佑としては、たいへんだろうけどまあそうだろうな、という考えだった。来年度もやるべきかどうか、大切な指標にもなる。委員長の中島は、ええーという表情になったが、口にしたのは「……そうだな」だった。最終集計はごく少人数の作業になるだろうから、ほとんどの委員にとっては他人事で、反対意見は特に出なかった。かくして陽佑は、A3原稿2枚のうち7割を使用して、アンケートの集計結果をまとめることになった。残った3割のうち、1割はタイトル、1割は委員長のコメント、1割は委員会の反省会の総括で使用されるスペースである。


 陽佑にとってはいろいろと、不手際や粗が気になる結果だったが、生徒たちはおおむね楽しんでくれたようだ。ただ、問題点も多く指摘された。覚悟はしていたがやはり多かったのは、「出演枠5組は少なすぎる」というものだった。ああやっぱり。陽佑は苦笑するしかなかった。そうだよな。池田の言ったとおりだ。しかし、今年は急なことだったから、日程調整に無理があったのである。むしろ確保してくださった先生方と生徒会執行部がスゴイ、と思うしかない。もしも来年度の文化委員会がやろうと思ったら、もう少し早いタイミングで学校がわに申し入れれば、日程確保に余裕ができるかもしれないが。ほかにも、タイトルが「文化祭(仮称)」はひどすぎるとか、舞台そででのトラブルとか、プログラムの順番とか、文化委員のミスとか、批判や提案がいくつも寄せられている。そしてやはり、従来どおり文化系クラブは別々の発表会の方がいい、という意見も、3件ほどあった。


 しかし、それらを圧倒する勢いで、良かった、楽しかった、という意見が積み上げられていたのだ。演目ごとに何がよかったかという設問があったのだが、生徒たちの人気はそれぞれに割れていて、どれが最高だったともつかなかった。副校長先生のピアノがよかった、という声も少なからずある。これは先生に伝えないとな、と陽佑は考えている。中に、明らかにクラスの堀川とわかる記述があった。

「学校のみんなの知らないところで練習していたダンス、見てもらう機会があるなんて、すごく嬉しくて、楽しかったです。拍手してもらって、こんなに嬉しかったの、久しぶりでした。桑谷くわたにくん、ありがとう。文化委員のみなさん、おつかれさまでした」

 陽佑は思わず、微笑せずにはいられなかった。ほかにも、陽佑個人をねぎらってくれた文章がいくつかあって、たぶん2年生だろうと思われた。どういうわけか、無記名なのに梅原の字がわかってしまった。

「こんなに楽しいイベントを実現させてしまうなんて、発案して動いてくれた人が本当にすごいと思いました」

 ……この前、梅原に言ったお礼じゃ、足りないくらいだったな。

 連城れんじょうのファッションショーもなかなか人気を博したようだ。中には、「城之内じょうのうちという人が面白かったです」と、よくわからない記述もあったが。


 そして、避けて通れない質問。来年もやった方がいいのかどうか。――8割の生徒が「やってほしい」という回答を提出していた。もちろん、出演枠を増やして。

 陽佑は、天井を見上げて、ほうっと息を吐いた。グラフや代表的な意見をパソコンで打ち出して切り貼りした原稿が、がさがさと音を立てる。

 ……ようやく思えた。やってよかった、と。

 俺は、この一瞬が欲しかったんだな、と思った。


 この状態の原稿がまず印刷されて、文化委員会に配布される。委員たちからも「こうした方がよかったと思う」「こうするとあの事態は防げたんじゃないか」などの反省点や意見が出されたものの、委員会の仕事としては「やれてよかったと思う」が多かった。

 ……ものすごくほっとした。自分が言い出したことでたくさんの人に動いてもらったあげくに「やらなきゃよかったのに」と口々に言われることを想像するといたたまれず、やきもきした数か月だったのだ。生徒総会でみんなに訴えたことも、決して嘘ではなく、本当の気持ちだったのだが……。陽佑は改めて、文化委員たちにお礼を述べた。みんな拍手してくれた。


 原稿の1割のスペースに、文化委員から出された意見と総括が書きこまれた。後は委員長にコメントを書いてもらい、タイトルを組み入れたものが、全校生徒に配布された。

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