54 カウントダウン

 オーディションに合格した5組の代表者を陽佑ようすけは集め、説明会を行った。

 リハーサルは、体育館で練習するクラブに支障が出ないよう、3日間に分けて昼休みに行われる。リハーサルの持ち時間は、ひと組10分間。通し稽古もいいが、ステージでの立ち位置、音響や照明のテスト、アシスタントに入る文化委員との打ち合わせも含めてだ。本番前にステージで実地に確認作業ができる機会はここだけである。10分でもなかなか厳しいだろう。

 ステージと舞台そでを真上から見た図も配布された。道具の配置の指示を書きこんで、リハーサル2日前までに提出してもらう。必要ない場合でも「必要なし」と書いて必ず提出すること。提出がない場合は、準備ができないので失格となる可能性がある。ステージの図には線が引かれて、「この線より後ろはアリーナから見づらい可能性がある」などと注意書きもつけてあった。

 5組それぞれ、専任のアシスタントとして、文化委員が最低ひとりつくことになっていた。道具の配置、舞台そででの補助作業などに従事する。専任なのでほかの組のことで振り回される心配はない。もちろん組によってはアシスタントひとりでは足りない場合もあるので、あとは相談に応じる。

 そのほか疑問点があれば文化委員まで相談してほしいと結んで、説明会は終わった。


 陽佑は、文化委員の当番表を作成にかかった。司会進行、アシスタントの分担のほか、音響、照明、力仕事の道具配置係、学校からカメラを借りて一部始終を撮影する係も必要だ。あちこち歩き回って連絡伝達を担ったり、応急処置対応ができる、いわば「遊撃部隊」の係もほしい。全体の流れを把握してトータル的な指示を出す立場も配置したい。ちなみに文化系クラブのステージについては、音響と照明と道具配置は自分たちでやるので文化委員による作業は不要、とのことであった。

 それと、ステージの順番を考えなくてはならない。道具配置の手間や時間も考慮して順番を決める必要がある。大道具の配置の手間を考慮して、最後は演劇部で締めてもらおうか。


 陽佑は文化委員を集めた席で、これらについて希望調査と相談を行った。

「おう桑谷くわたに、こいつを頼む」

 委員長の中島が、陽佑に1枚の紙片をよこした。

「なんですか」

「開始の宣言の後すぐ、そいつをオープニングアクトに入れてくれとさ」

 紙片を読んで、陽佑は目と口を丸くした。

「これが……オープニングアクト、ですか」

「文化委員全員、こいつについてはを出す。他言無用、だそうだぜ」

「ははあ……」

 陽佑の胸の中で、ああこういうことだったのかと腑に落ちるものがあったが、口に出したのはそれだけだった。


 放課後、連城れんじょうが陽佑に、自分たちのファッションショーのBGMとして、山岡たちのバンドに出てもらうというのはアリかとたずねてきた。二年生有志(仮)が落選したのが残念だったのだろう。陽佑が歯切れ悪く答えるより早く、山岡が口を開いた。それではオーディションの意味がない、と。

「気持ちはありがたいんだけどよ、連城。ルールはルールだ。守らねえと、桑谷の顔に泥を塗ることになるし、来年の開催意義が怪しくなる。落選したのは、おれらがその程度だったってことだよ。来年こそ実力で、出場してみせる」

 山岡はすでに、来年も文化祭が行われる前提でいるのだ。

 連城も、ああは言ったものの、山岡の辞退にかえってほっとしたらしく、食い下がることなくうなずいたのだった。


 文化委員会はこまめに集まった。各自の分担が決定した。司会進行は副委員長の野木のぎ。委員長の中島は、文化委員たちの動きを把握して、行動の指示やアクシデントの対処に備える。中島と連携しつつ、全体の流れを監督するのは、陽佑の担当となった。


 リハーサルは予定通り行われた。出演者たちは、通しで練習したり、音響や照明の効果およびタイミングを試してみたり、スタッフやアシスタントとなる文化委員と打ち合わせや指示を交わしたり、慌ただしく持ち時間を消費していった。陽佑は、10分間のタイムキーパーを担当する文化委員の隣で、開始と終了の合図を出すことに専念するかたわら、それぞれの組のパフォーマンスが実質どのくらいになりそうなのかを大まかに計って、メモしておいた。これがわかっていれば、本番での指示も出しやすくなるというものだ。


 陽佑は文化委員たちに相談し、作業を依頼したりしながら、プログラム順の組み直しや、終了後のアンケート作成の指揮をとった。


 忙しくしている間に、文化祭(仮称)当日は、指呼の距離まで迫っていた。

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