34 take off

 2年生1学期の各委員決めは、すでに勝手がわかっていることもあり、始業式の日にさっそく行われた。クラス委員は投票の結果、男子は菊田という、定期試験トップ常連に決定したのだが、解せないのは、陽佑ようすけ連城れんじょうが彼に迫る僅差の票を集めたことである。「なんでだ」と連城は苦々しくぼやいていた。陽佑も同じ気持ちである。どうもおかしいな、と陽佑は思った。連城はだいぶ目立つ存在になってきたから、彼が票を集めるのはなんとなくわかる(連城にはすまないが)。だが自分はどうか。目立って成績がいいわけでもないのに。これが2学期3学期ならまだわからなくもないのだ。お互いどんな奴かわかってくるのだから。委員をきちんとやってくれそうな奴とか、仕事を押しつけられそうな奴とか。だが今は1学期である。いくら新入生じゃないからといって、自分がどんな奴かわかっているのは、このクラスではまだ少数派のはずなのだ。「なんでだ」と、連城と同じグチをこぼさずにはいられない。ともあれ、今回はなんとか回避できたのだが、こうなると恐ろしいのは2学期だ。期間も長い、運動会やら生徒会選挙やら行事も目白押しの学期である。今年もなんとなく腹をくくっておいた方がいいのだろうか。


 メインイベントであるクラス委員の決定がすんでしまうと、後の委員は比較的平和裏に決められる。陽佑は今回、文化委員を仰せつかった。何をやるのかよくわからないが、まあなんとかなるだろう、くらいのつもりでいた。


 ところが、である。入学式から数日後に開かれた最初の委員会で、陽佑は目を見開くことになった。1組の文化委員のひとりが梅原だったのだ。

「あれっ、梅原?」

「あれ、また一緒? よろしく」

「ああ、こちらこそ」

 相変わらず染まらない顔の裏で、何かが軽快なステップを踏み始める。梅原とは、3学期のクラス委員を一緒に務めたばかりなのだ。別のクラスになってしまったことは残念に思っていたのだが、これは……ある意味で、同じクラスにいるよりオイシイかもしれない。


 文化委員の仕事は、ざっくり言えば、学校内の文化系行事の運営、につきる。1学期はひとまず、校内合唱大会の企画運営が、最大の仕事となる。これが2学期であれば、演劇部やコーラス部やブラスバンド部の発表会があったり、美術部の作品展示発表のセッティング協力などがあるのだが。


 校内合唱大会か……委員長の説明を聞きながら、陽佑は天井を見上げた。そういえば去年確かにあったけど、クラスの雰囲気よくなかったし、成績もよろしくなかったし、自分が担当したパートはおろか、何の曲歌ったかも覚えてないな……あまりにもヒドイ回想をしながら陽佑は、さりげなく梅原にちらっと目をやった。去年の今ごろは本当につらかったよな。世の中には、合唱大会の結果云々よりもずっと大切なものがあるのだ。


 ……そういえば。


 最後に何か質問はあるかと聞かれて、陽佑は軽い気持ちで挙手した。

「なんで、この学校は文化祭ないんですか? 最初からですか?」

 委員長は反応につまった。立ち会っている担当の石井先生にちらっと視線を送りつつ、苦しそうに回答する。

「ずいぶん昔はあったらしいんだけど……おれもよくわからない」

「うーん」

 石井先生も困惑したように顔をひねった。

「私もこの学校に着任して2年くらいだから……わからないわねえ……それが何か?」

「いえ、ただの興味本位です。失礼しました」

 陽佑は引っ込んだ。今この場で回答が得られるとは、最初から期待していない。たぶん調べなければわからない時代のことだろうし、そんなのここで即答できる人はいないだろう。


桑谷くわたにくん、文化祭やりたいの?」

 教室へ戻る途中、一緒に2組の文化委員をしている女子の井上が、陽佑にたずねてきた。すぐ後ろを、1組の文化委員ふたりがついてくる気配がある。

「いや全然。去年から、あれなんでウチは文化祭ないんだろって、ぼんやり思ってたから。なんとなく聞いてみただけ」

 途中で、梅原とそっと目礼を交わして、別れる。教室へ戻ると、井上と軽く打ち合わせをした。合唱大会の話をクラスでどう進めていくか、という段取りだ。去年よりは気持ちよく歌えるといいな、と思いながら。

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