21 出撃準備?
運動会では、男子のみの競技として、騎馬戦がある。オーソドックスな、騎手のハチマキを取れば勝ち、というやつだ。
緑組の男子で模擬戦が始まったのだが、陽佑は小声で「あー……」とつぶやいて、すっかりやる気をなくしてしまった。参加者はみんな、激しい闘争に突っ込んでいく。あんなとこに混じってケガしたらやだな、というのが陽佑の偽らざる心境である。3年生からはしきりに
……そうだ、逆にこれでいこう。早めにハチマキを取られてしまえばいいのだ。やる気がないと思われても仕方がない。どうすればいいかわからないまま、まごまごとそのへんをうろつくよりは、味方の足を引っ張らずにすむのではないだろうか。どのみちワンサイドゲームなどあり得ず、犠牲者は必ず出るのだから、自分が犠牲者の役を担当すればいいのだ。ようやく合図で模擬戦が終了したが、誰かの馬で左サイドを担当する
騎馬戦にくらべたら、応援合戦のダンスの方がよほどいい。ダンスはあまり経験がないけれども、つかみ合いがない分だけずっと気が楽だ。とにかく自分が練習すればどうにかなる。途中、男女ペアで踊るところが何箇所かあり、そのペアは身長順によって決められた。陽佑の相手は田村という女子生徒になった。梅原は絶対無理だろうとあきらめていたので、あまりがっかりしなかった。連城の身長なら梅原の相手役になれるのではないだろうか。練習の合間にちらっと見てみると、残念なことに2人ほどのズレがあり、連城は
そのほか、多足リレーの練習が、合間を見て行われた。陽佑は5人ムカデの前から2番目になっており、5人で足を縛り合わせて「せーの」で走る、というか歩き出す。これがけっこう難しい。
ある日の組集会で、応援合戦の衣装がレジュメで説明された。衣装といっても金も材料も時間もなく、実際に作って配られるのは女子のスカートのみであり、あとは各自で制服をいじって用意しておくように、とのことだった。スカートも現在製作中だという。男子は、制服の長袖シャツを加工するのだが、袖と裾に縫い上げて細工しなければならない部分があり、大半の男子が「げー」と小さな声を上げた。こんなときこそ連城の出番である。彼はレジュメを読み込んで、「わかったけど、この解説はちょっとわかりづれーな」とひとりごち、シャツを抱えてまごつく裁縫不得手な男子のために、衣装説明会を開催した。
「ここをこーやって折り上げて、ここに待ち針をブッ刺して固定。糸は白。ここんとっから縫い始めて、こう。歪んでもかまわねえ。どーせ応援合戦の間だけもちゃいいんだから」
おお、と感嘆する男子の中には数名「連城やってくれ」と丸投げしようとする不届き者も数名いたが、陽佑が穏やかに「連城はクラス委員だ、過労で殺すつもりか?」と諭して各自でやるよう促した。また、どうやったのか、女子に依頼する要領のいい奴も数名いたようである。
そのほか、陽佑は選択競技として、玉入れと借り物競争に出場することが決まっているが、こればかりは練習のしようがない。ぶっつけ本番である。もっとも選択競技はだいたいそうだ。綱引きも障害物リレーも。
そう、選択競技の出場者も、応援時の1年2組代表も、大野が出てくることですんなり決まった。学年応援代表という地位を、体育委員の野村から打診され、改めて連城からも依頼された大野は、軽く戸惑ったようだったが、たまたま居合わせた陽佑の方をちらっと見ると「おう」と短く返事した。そこから先は大野の本領発揮である。欠けていた競技の出場選手枠は埋まった。まだ要領がわからず、わらわらとまとまらずにいる1年2組を、ジョークでどっとなごませて輪の中に囲い込み、輪の端を体育委員の野村にさっと渡す。ほぼ全員にウケて、誘導しているという実感が、大野のひび割れた部分をみるみる修復していくのが、陽佑にもわかった。
大野はもう、梅原のことを気にしていないように見えた。あからさまに無視するのではなく、さりげない無視に変わってきた。梅原もさりげなく大野をやり過ごしている。……これがあのふたりのちょうどいい距離感なのだろうか。仕方がないのかもしれない。一度粉々になってしまった関係なのだから。
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