03 最初の委員会
この日は、陽佑が連城に「先に帰ってくれ」と言うパターンに該当した。最初の委員会が、放課後に行われる日だったのだ。図書委員になっていた陽佑は、筆記用具を一度机の天板にごつんとぶつけてそろえてから、女子の図書委員である
委員会が終わると、丸篠はそのままクラブに直行してしまったので、陽佑はひとりで1年2組に向かった。さて帰ろうと教室に踏み込むと、
「あ、おつかれ」
「うす」
ごく自然に梅原がそう言ってきたので、陽佑も何も考えずに返事した。そうか、梅原は保健委員だった。彼女も委員会帰りなのだ。
「……つかぬこと、聞くけど」
「はい?」
無言でいるのもなんだかな、と思った陽佑は、以前から疑問に思っていたことを、聞いてみることにした。
「梅原って、小学校、どこだっけ」
切り口としては、そう不自然な質問ではないだろう。1学期最初に自己紹介はあったが、一度で全員のプロフィールが完璧に頭に入るわけではない。あれ、どう言ってたんだっけ、と聞きなおすことは、奇妙な行動ではないと思う。
梅原は、ある小学校名を挙げた。確かに市内の地名だが、けっこう離れている。ここの中学校の校区だったっけか、と内心で陽佑が首をかしげる前に、梅原自身が明かしてくれた。
「小学校卒業するときに引っ越ししたから、あたしここに知り合いひとりもいないんだ」
「あ……そう」
「あっ、たいへん、クラブ行かなきゃ、じゃね」
「おうおつかれ……」
風のように……梅原はさっさと教室を飛び出して行ってしまった。
ま、助かったかな。「それがどうかした?」などと聞かれたら、どうするつもりだったんだ自分。
陽佑は、自分の机に近づいて、リュックに筆記用具を押し込み、肩に背負った。
……そうか。せめて小学校からの知り合い、できれば女子が、梅原が孤立しないようにしてやればいいのにと思っていたが、そもそも梅原にそんな相手はいなかったのだ。
知り合いが誰もいない中学校に、たったひとりで進学して、クラスの中心的な生徒からいきなり蛇蝎のごとく嫌われて、クラスから浮いてしまうなんて、……そりゃ、キツイよな。
陽佑は無人の教室を後にした。なんで梅原の心配なんかしたんだろうと、不思議がりながら。音楽室からだろう、ブラスバンド部の演奏が、かすかに聞こえてきた、と思ったらいきなり中断した。誰か何かミスを犯して、ストップでもかけられたのだろう。
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