14話 カメレオン
とりあえず、依頼主のところまで案内してもらうことになった。
「そういえば、名前聞いてないよね?」
「ふっ……”黄金の灰”という異名を聞いたことがあるかしら」
「あ、そういうのいいんで。本名でお願いします」
「ルルナと名乗ることもあるわね」
可愛らしい名前だな。
「私はアカネで、こっちはシスティ。よろしくね」
「ええ、よろしく。我が協力者たち」
「……ところで、どこに向かっているんですか?」
「しいて言うなら、そうね……"真実"へと」
「…………………………」
「あの大きな城の下辺りよ。そんな怖い顔しないでちょうだい」
ルルナが指を差した先には、大きな城が建っている。まさしくファンタジーな雰囲気の城で、見ているだけで気分が高まってくる。
「観光とかできないの? あのお城」
「無理ですね。一般の人間は基本的に入れません」
ですよねー……。
「ええ、城に入れるのは許可を得た者のみ。私も一度侵入を試みたけど、騎士団につまみ出されたわ」
「なんで試みたんだ」
もしかしてこいつ、すげー危ないやつなんじゃないか。
話を聞こうとした矢先、ルルナは突然歩みを止めた。
「ごめんなさい…………道に迷ってしまったわ」
「はい?」
目の前には、あいかわらず大きな城がそびえ立っている。
「迷ったもなにも、城の方に向かって進むだけじゃないの?」
道は真っ直ぐ城の方に続いてるし、城の方向に行くだけだと思うんだけど。
「……アカネ。右のレストラン、左のアクセサリーショップを覚えてください」
「うん?」
右には『ロディアン』と書かれた大きなレストラン、左には『漢のアクセ! 〜これが、男の中の男〜』というアクセサリーショップがある。
「覚えたけど……」
「では、改めてもう一度進みましょう」
システィの指示通り、数十メートル道を進む。そこで、ある違和感に気づく。
「……城に近づけて……ない?」
さっきから、見えている城への距離が変わっていない。
「もしかして、前に進めていない?」
周りを見渡す。すぐ側には見覚えのある建物があった。
「『ロディアン』と『漢のアクセ!』……」
「同じ道を繰り返しいるわね。私達」
隣にいたルルナが少し俯く。
「ごめんなさい……私のせいだわ」
「えっ、なんで?」
「これは闇の軍勢による術よ。私を陥れるためのね。……ごめんなさい、あなた達を巻き込んでしまって――」
「アカネに変なことを吹き込まないでください」
なぜかノリノリなルルナをシスティが止める。
「これは、魔物の仕業です」
「魔物? 街に魔物はいないんじゃないの?」
「本来は。ただ、この現象は間違いなく魔物による物です」
「なるほど、闇の軍勢が放った魔物ということね。安心しなさい、私がいるかぎり敗北はありえな……ふがっ!」
ルルナの口を塞いで、システィの説明を聞く。
「『ラインドカメレオン』の変異種。人間を幻覚に捕らえ、長い時間をかけて疲れ果てたところを捕食する魔物です」
人間に幻覚を……?
いやいや、今までと規模が違いすぎない? 森にいた魔物は、ただ突撃してくるのがほとんどだったのに。
「ふん、”黄金の灰”とその同盟を食べようだなんて、いい度胸だわ。もし捕食できたとしても、きっとその体は私達の聖なる体に焼かれるわね」
「なんでそんな自身満々なんだ……」
「冗談を言っている場合ではないですよ」
相変わらずなルルナに対して、システィは真剣な表情をしている。
「ラインドカメレオンは、戦闘能力自体には乏しいんです。動きが遅いので。……ですが、1番の脅威は完璧な擬態能力。目で見ることも、臭いを嗅ぐことも不可能なんです」
「そ、そんなのどうやって見つければいいの?」
「唯一の手段は触覚。触って見つけるしかありません」
触って見つける!? さすがに無理があるでしょ。
「……その擬態能力、人以外には有効なのかしら?」
珍しくまともな質問をするルルナ。意外とこの状況に焦っているのかも?
「人間やエルフ、獣人などの人型に対しては有効。それ以外の動物などには無効です」
「なるほど。なら、人を超越した存在である私には無効ね。」
いつも通りでした。
「……1万歩譲ってあなたが人を超越していたとしても、人型なので有効です」
「ねぇ、もし見つけられなかったらどうなるの?」
「この幻覚に囚われ続け、疲れ果てて動けなくなったところを捕食されます」
……とんでもなくまずい状況なんじゃないかコレ。てか、絶対序盤の敵じゃないでしょ。
「だけど……見つけられるかも」
「……アカネ?」
「簡単に見つけれるかも、そのカメレオン」
「さすが私の協力者。何か心当たりがあるのね」
そう、心当たりがある。
人型でも、動物でもなく、そもそも生物ですらない知り合いが、私にはいる。
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