13話 運命?
「あのー、すいません」
「……何か?」
金色の髪と、コートを翻しながら、彼女はこちらへ振り向く。
遠くで見た時も思ったけど、近くで見るとより綺麗な人だった。システィにも劣らない整った顔立ちで、碧色の瞳がいっそう美しさを際立たせている。私と同年代くらいに見えるけど、どこか大人びた雰囲気もある。
背中には、自身の背丈ほど長い槍を背負っていた。
「あの……はじめまして、ですよね?」
「……ええ、そうね。はじめまして、よ。にもかかわらず私に話しかけてきたということは、あなたは私に対して何か”運命的”なものを感じたから……そうでしょう?」
…………………………はい?
「運命的なもの?」
「ええ、そうよ。少なくとも私は、あなたとの出会いに特別な因果を感じるわ。そうね……そういう意味では、初対面ではないのかもしれないわね」
うわー、痛い人だ……。
私が戸惑っていると、システィが会話に入る。
「単刀直入に聞きますが……私たちを尾行していましたよね?」
単刀を直入しすぎだそれは。
「…………ええ。あなた達の実力を知る必要があったのよ。本当にふさわしい人材かどうかね」
「いやいや、実力も何も仕事探してただけだし。というか、ふさわしい人材って?」
まさか、スカウトとか?
「……あら、そろそろ時間ね。残念だけどこのあと仕事の予定があるの。私を必要としている人がたくさんいるのよね。まったく、能力がありすぎるのも考えものよね」
そう言いながら、彼女は私たちに背を向け、軽く手を振った。
「では私は失礼するわ。また、縁があるといいわね」
そう言った後、全力で路地裏に向かって走っていった。……つまり、逃亡した。
「え、逃げたけど。運命がなんだとか言っといて、すっげー逃げてるけどあの人」
「はぁ……」
「はい、抵抗しても無駄ですから、観念してください」
”運命的な出会いの人”は、逃亡してわずか10秒ほどでシスティに捕らえられた。今は両手両足を縛られ、完全に拘束されている。
「な、なかなかやるじゃない、あなたたち……。そこそこ名の知れた冒険者と見たわ」
「残念、無職です。さっき見てたんでしょ?」
尻尾巻いて逃亡した”運命的な出会いの人”にそう返答する。
「……あなた、ハーフエルフではないですか? この辺りでは珍しいですね」
システィは少女の顔を見てそう言う。
確かに、顔の美しさがかなり人間離れしている。エルフといえば耳が長いイメージがあったけど、人間とのハーフなら普通の耳なのも納得できる。
「で、なんで私たちを尾行してたの?」
「……今受けている仕事が、なかなかに難題なのよ。まぁ私一人でも全く問題はないのだけれど、ちょうどあなたたちが困っていたようだから……部下にしてあげなくもない、と思ったのよ」
なんでこの状況でこんな上から目線なんだ……。
「……ようするに、仕事があるんだけど1人じゃ心ぼそいから手伝ってー……ってこと?」
「確かに、そういう言い方もできなくはないわ。けれど、1人が心細いというのは間違っ」
「はいはい分かったから……どうする? システィ」
「……報酬次第ですね」
うん、確かに報酬による。ちょうど路頭に迷ってたところだし、相応の報酬があるなら願ってもない話だ。
「任務達成報酬として、10万円が与えられるはずよ」
「よし、乗った。やろう」
「……そうですね。目標は2万ですが、余分に稼いでおくに越したことはないでしょう」
10万円ってことは、それだけ難しい仕事なのかもしれないけど、今はそれにすがるしかない。
「私がこの世界で最も気に入っている言葉……"ありがとう"。この言葉を、あなた達に送るわ」
地面でジタバタしながら、深いようで浅い感謝を伝えてくるエルフ。
「そろそろ、この拘束を解いてもらってもいいかしら」
「……この方、いったい何者なのでしょうか」
システィは拘束魔法を解いて私に聞く。
いや、どう考えてもただの痛いエルフでしょ。
「ふぅ。自由というのは素晴らしいものね。……じゃあ、改めてよろしくね、2人とも」
……とにかく胡散臭いハーフエルフが、仲間になりました。
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