8話 魔法 その二
「お腹いっぱい! ごちそうさま〜」
「もういいのですか? では、残りは私が頂きます」
魔物の肉、最初は抵抗感があったけれど、食べてみると以外と美味しかった。異世界最初の食事としてはなかなか悪くない。
ただ、気になることが1つあって。
「食べ過ぎじゃない? システィさん」
システィの食事の量についてだ。見かけによらず、物凄い量の肉をノンストップで食べている。
私もお腹が空いていたから、けっこう食べたつもりだったけど、その3倍は食べてる気がする。そしてまだ食べるつもりらしい。
「……食べすぎではありません。育ち盛りの16歳、このくらいの食事量が適切です」
「私と1歳しか変わらないじゃん……」
ていうか、普段からそんなに食べてるってことか。
「太らないの?」
「デリカシーのない人ですね。あなたには太っているように見えますか?」
「いえ、見えません。すんませんした」
実際、システィの体はむしろ細いくらいだ。あと、システィが自分の食事量のことを気にしていることが分かった。
「言い忘れていましたが、これが食べ終わったら魔法の訓練をしますので、準備運動をしておいてくださいね」
「……訓練?」
「はい。最低限、自分を守れる力をつけていただきます」
……本来、ワクワクするイベントのはずだけど……。さっき現実を突きつけられたせいで、微妙な感覚だ。
「時間かかったりしない? 私才能ないっぽいけど」
「魔力が0、というわけではないので大丈夫だと思います」
なるほど、頑張れば憧れの『魔法』が使えるようになると。
ちょっとずつやる気が出てきたぞ……。
「じゃあ、準備運動して待っておく」
「はい」
「……準備運動とは?」
意気揚々と始めようとしたものの、具体的に何をすればいいのか。
「とりあえず、屈伸とか?」
いや、体を動かしてどうする。魔法なんだよ、魔法。
「あー、魔力の準備運動ってことか。」
そうと決まれば集中。自分の中の魔力の流れを感じていく。
「フンッ! ……んぐぐぐぐぐぐぐ……」
「お待たせしました」
「はやっ?! もう食べ終わったの? けっこう残ってたよね」
「いえ、適切なスピードです。決して早くはありません。決して」
……ツッコむのはやめておこう。
「で、訓練って何するの?」
「始める前に、身につけたい属性を決めましょう」
属性か。人によって、得意不得意があるらしいけど、私の場合は全体的に適正が低い。
まぁ逆に言えば、選び方に迷わないってことで。
「覚えていますか? 基本となる属性は、火、水、風、土、光、闇、無属性です。気になるものはありますか?」
気になる属性かぁ。うーん、かっこいいのは闇、光かな。王道主人公っぽい火もいいかも。ラノベっぽいのは水かな?
「じゃあ……あえての風で!」
「風属性……戦闘に使用するまでが少し大変かもしれません。威力の出しづらい属性なので」
マジか。少しでも早く街に行きたいし、ここで時間をかけるわけにはいかない。
「うーん、おすすめのやつある?」
「水ですね」
そ、即答……。
「水属性は扱いやすく、応用もききます。簡単なものならすぐに習得できるでしょう」
「なるほど、じゃあ水にしようかな」
ちょっと地味だけど、こういうのが主人公っぽかったりする。それに水を自由に出せたらすごい生活が楽になりそう。
「分かりました。では……」
そう言うと、システィの姿が、さっきの魔物の時みたいに一瞬で消える。そして同時に、後ろから耳元に話しかけられる。
「驚きました?」
「……驚く暇もなかったよ」
「そうですか。残念です」
そして、「抵抗されるといけないので」、と言いながら私の両手首を掴む。
「バインド」
「えっ?」
システィが呪文のようなものを唱えた瞬間、私の両手が手錠のように背中側で固定される。
「なんで!? なんで縛られてるの!?」
「次は足にも……はい」
「ちょっと!?」
両手両足を縛られ、完全に拘束される。身動きを取れず地面に倒れ込み、システィに見下ろされた状態になる。
「今から、魔法を使う感覚を掴んでいただきます。1番手っ取り早い方法を使いますね」
「ぐ、具体的には……?」
「私の魔力をあなたに流し込みます」
「い、痛いのは嫌かなぁ、なんて」
「……………………………………」
えっ、何その笑顔。わざわざ拘束したんだから察ろってこと?
「では、失礼します」
「ちょっとまっ……痛っ! あたたたた! 一旦、一旦ストッああああああああああああ!」
「はい、終わりです。大丈夫ですか?」
「私は……止まらねぇからよ…………」
「大丈夫そうですね。拘束、解除しましたよ」
縛られていた両手両足が開放される。
やばい、立てないかも。久しぶりに運動した時にくる筋肉痛みたいな感じがする。
「よい……しょっ!」
なんとか体を持ち上げて立ち上がる。
「今、私の魔力がアカネの体に流れているはずです。どうですか? 感じますか?」
「痛みしか感じないです……」
魔力が流れるどころか、全身を痛みに包まれています。
「それでいいんです。その痛みは、私の魔力という異物が体に入っているためです」
「えっ、じゃあちゃんと魔力が流れてるってこと?」
「はい。痛みの位置が魔力の集まっている位置です」
なるほど、それなら分かりやすい。今、特に痛いのは両腕、お腹、腰、太腿辺り。ここが特に魔力が集中しているらしい。
「次は、その魔力を魔法として放出していただきます」
「おお、ついに……」
「魔力を利き手に流してください」
魔力……つまり、体の痛みを右手に集める。
よく分からないけど、とりあえずやってみよう。
流す、流す、痛みを流す……。
「……うーん、少しずつ痛みが移動してる……かも?」
「いい調子です。私からも流れているのが見えていますよ。そのまま右手に集めてください」
少しずつ、少しずつ……。
体から痛みが無くなって、楽になっていくのを感じる。
「よし、体の痛みは消えたよ。右手がとんでもなく痛いけど」
右手を見ると、黒いオーラのようなものを纏っていた。
っぽい! めちゃくちゃそれっぽい!
「いいですね。では最後に、放出です。同じ要領で、溜まった魔力を一気に外へ出してください」
瞬間、私の手にあった痛み……魔力が無くなる。魔力が無くなったと同時に、私の手から黒い衝撃波のようなものが前方に放たれた。
「うおおお! すごい!」
衝撃波は木にぶつかり、木を少し削った後に消滅した。
「成功です。魔法を打つ感覚、分かりましたか?」
「ちょっとだけ分かったかも。痛みのおかげだけど」
最初はどんな拷問をされるのかと思ったけど、さすがシスティ。才能のない私でもできるようにしっかりサポートしてくれた。
「まだ終わりではないですよ。次は、自分の魔力でできるようにしていただきますからね」
「了解です、先生!」
「そ、その呼び方は恥ずかしいのでやめてください……」
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