7話 魔法
『オハヨウゴザイマス。充電ヲ完了シマシタ』
「あ、おはようインテリさん。さっきの魔物は記録した?」
『スリーブ状態ダッタタメ、観測デキマセンデシタ。事前ニ説明シタハズデス』
「あ、はい……すんません……」
「木集めてきたよ、はい」
「ありがとうございます。火をつけるので、離れておいてください」
私が下がったのを確認して、システィは指を振る。その瞬間、指から火が吹き出た。火の勢いを調整して、集めた木に火をつける。
これはあれだよね、『魔法』ってやつ。さっきシスティがやっていた『黒いオーラのやつ』を含めると、これで見るのは2回目だ。
「ねえ、それって私でもできる?」
「魔法のことですか? この程度なら誰でもできます。戦闘に使えるレベルとなると、話は変わりますが」
「難しいんだ、やっぱり」
「そうですね。ただ、その人のセンスにもよりますね。ほとんどの魔法は、かなり才能に左右されます」
ほう、才能ね、ふーん。なるほどなるほど。才能ねぇ。
「……なぜニヤニヤしてるんですか? 自信あり、という顔ですか? それは」
「聞いちゃう? 聞いちゃいます? 実は私には神様のご加護があって……才能に関しては間違いなくある! PS5を賭けてもいい!」
私をここに飛ばした神様が、チートの能力を授けてくれたからね!
何より私、主人公ですから!
「ぴーえすふぁいぶ、というものは分かりませんが、そこまで言うのなら……試してみますか?」
「え、そんなすぐ試せるの?」
「ええ。お肉が焼けるまで少しかかるので、その間にやりましょうか」
待ってました、この"瞬間"を。今までの不遇はただのプロローグ。私の物語はここから始まる。
「準備、できましたよ」
「これは……魔法陣?」
システィが地面に描いたものを見る。真ん中に大きな円が1つ、その周りに小さな円が6つある、魔法陣のようなものだった。
「これを使えば、自分が魔法とどのくらい適正があるのかが分かります。先に私のを見せますね」
そう言うとシスティは中心の1番大きな円に右手をおく。
数秒後、中心の円と周りの6つの円が、別々の色で光り始める。
「おおすごい……ってか眩しっ!」
「この光が強ければ強いほど、魔法への適正が高いことになります。そして中心の円を含めた7つの色。これで適正のある属性が分かります」
周りの円はそれぞれ赤、青、緑、茶、黄、黒に、そして中心は白く光っている。
そして色によって光の強さが違う。光の強い色が、適正のある属性を表しているのだろう。
「えーっと、システィは右下の黒色と、中心の白が強く光ってるけど、この場合はどうなるの?」
「黒色は闇属性、中心は無属性です。私はこの2つの属性との適正が特に高い、ということになります」
なるほど、分かりやすい。
っていうかなに、闇属性と無属性って。かっこよすぎません? web小説の主人公ですか?
「でも、他の5つの円もかなり光ってるように見えるけど」
「特に強いのが闇と無で、他の属性にもある程度の適正があるということです。私は生まれつき、全属性への適正の高い方なので」
……ますます主人公感が強くなってきたなこの子。
「ちなみに赤は火、青は水、緑は風、茶は土、黄は光、となっています」
システィは地面から手を離しながら、他の属性についても教えてくれた。
「では、アカネの番です。私のようにやってみてください」
「お、おう……任せとけ……」
やばい、緊張してきた。
もう目も開けられないくらい全部の円が光り輝いたりしちゃって。
いや、特殊そうな無属性に完全特化してるのもアリかな。
むしろ、全く光らなくて『どの属性にも当てはまらない』とか!? 何色にも染まらない私……イケてる。
「まずは真ん中の円に手を置いてと……」
「では、目を瞑って、集中してください。そして、体の中を満たす魔力を感じ取ります」
「体を満たす魔力魔力……」
集中。私の中の魔力、私の体を流れるエネルギーを少しずつ感じていく。
――ああ、先月買った新作ゲーム、まだ手をつけてなかったな――。
「ごめん集中できてないわ」
「……余計なこと、考えてません? しっかり自分の魔力を感じてください」
魔力。私の中に、流れる魔力。
……感じねぇ。びっくりするほど感じねぇ。やばい、頭に血が昇ってきた。
「ふんばりすぎです。体を楽にしてください」
「血の流れ感じちゃってたわ」
楽な姿勢、集中、精神統一。
――イメージするのは、常に最強の自分――。
「あ、光りましたよ」
「え、ほんと!?」
とっさに目を開く。
システィがさっきやったように、円が光っている。
けど……。
「うっす!! いや、薄!!」
光ってはいる。間違いなく光ってはいる。
だけど光が弱すぎる。目を凝らせば色の違いが分かるかなーってレベル。
「明るさ最小のスマホくらいじゃんこれ……」
もしくは、暗闇で光る系のおもちゃ。よく買ってもらったなー小さい頃。
「……これ、いかがですかね?」
「正直、こんなのは初めて見ました」
おっ? もしかして、かなり特別だったりする?
「ここまで才能が無い人は、逆に珍しいと思います」
ですよね。やっぱそっちですよね。
ていうか微妙すぎない? 全く光らないとかならともかく、若干光ってますからねこれ。シンプルに才能が無いっていう。
「システィ……。私、悲しいよ……」
「さっきまでの威勢はどうしたんですか……。あくまで生まれもった才能の話ですので、努力でカバーできなくはないです。それに、どれにも当てはまらない『能力』を持っている可能性もあります」
能力ねぇ……。どうせこの流れだと、変なのばっかりなんだよ……。絶妙に使えない異世界転移サポートシステムとかね……。
「いや、待てよ?」
そうだ、私にはそれがある。異世界転移者をサポートするシステム、通称インテリさん。きっとインテリさんなら私以上に私の体のこと知っている。
よし、聞いてみよう。
「インテリさーん? 起きてる?」
『ハイ。現在、約90%充電済ミデス』
「それがどのくらい長持ちするのかよく分からないけど、とりあえず……私の能力について、解析できる?」
『可能デス。少々オ待チクダサイ』
マジ!? ええ待ちます、いくらでも待ちます!
「解析完了。……現在、アカネ様ノ使用可能ナ能力ガ、”1つ”発見サレマシタ」
「ひ、1つ……」
いや、無いよりマシ……? その一個が強力な能力の可能性はあるけど……。
うん、嫌な予感しかしない。
「ち、ちなみに……どんな能力?」
『名称、”魔力変換”』
魔力……変換!? 強そう! よくわかんないけど。
「魔力変換、魔力を変換。魔力から何かを具現化する……とか?」
魔力を魔法に使うのではなく、剣や槍にできる、みたいな。
……でも、さっき魔法陣で確認した通り、私の魔力には魔法への適正がない。結局、魔力を使って作れるものはたかがしれてるんじゃ?
つまり……。
「腐ってるんじゃない? この能力」
……ああもう、知ってましたよこーなるって。
もういいです。チートとかいいです。私はゆっくり、スローライフを楽しみます。
「……逆です」
「えっ?」
さっきまでやばいやつを見る目で私を見ていたシスティに突然話しかけられる。
ちなみにインテリさんの声は私にしか聞こえないので、周りからすると『1人で見えない何かと会話しているやばいやつ』にしか見えません。
「逆って?」
「魔力変換は、魔力で何かを生み出すのではなく、『何かから魔力を生み出す』能力です」
何かから魔力を生み出す……?
「例えば、周りに生えている草。これを魔力に変換し、取り込むことができます。……魔導書にはそう書いてありました」
「なるほど……。何かっていうのは何でもいいの?」
「使用者の実力によると思いますが……物体だけでなく、酸素などの気体も変換できるはずです。さらには、概念的なものまで」
つまり、魔力を無制限に生み出せるってことか。
え、強すぎじゃない? 魔法打ち放題ってことだよね。
「けっこう、強い能力だよね……?」
「強い、なんてレベルではないです。魔力は戦闘をする上で必須のもので、そして弱点にもなります。それを無制限に生み出すんですよ?」
やばい。口角が上がりすぎてやばい。人に見せられない顔してるよ今。
「いや待った。……実は誰でも習得できる能力とか?」
このパターンはもう何度目か分からないくらい経験してる。まだ転移して1日目なんですけどね。
「……その能力のために、一生を費やす人もいるくらいです。そして費やした上で、習得できない場合がほとんどです。この世界に数人程度なのではないでしょうか。その能力を使えるのは」
えっ、ほんとに? じゃあ正真正銘の「チート能力」ってこと!?
「面白くなってきた……」
ここからは私の主人公無双の始まりだ……!
「……そもそも、本当に魔力変換を使えるんですか? 疑わしいです。 それに、使えたとしても……」
「……使えたとしても?」
「あなたは魔法を使えませんよね。 魔力に変換してどうするんですか?」
………………………………………………………………。
「えーっと、何かを自分の魔力に変換して、それで……」
それで…………終了。なんの魔法も使えない。むしろ周りのものを無駄に消滅させる迷惑野郎。
「腐ってるんじゃないですか? その能力」
「言わないで……とどめをささないで……」
システィはクスクス笑っている。
「さあ、お肉が焦げてしまいます。そろそろ食べましょう」
「に、肉……喉を通らないかも…………」
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