3話 出会い

「ひぃぃっ! ごめんなさいごめんなさい許してください! 現実的な範囲でなんでもしますから! 許してくださいぃぃ!」

「あの…………大丈夫ですか?」


 己のプライドを全て捨てて、通じるかも分からない無様な命乞いをした結果、現れたのはヒトだった。


「……………………」

「……………………」


 気まずい沈黙が続く。


「あの、とりあえず立てますか?」

「ああはい、大丈夫です〜! この姿勢は土下座と言ってですね〜! 私の国では挨拶のポーズなんですよ!」


 笑ってくれ。転生して数分後に、森のど真ん中で土下座している私を笑ってくれ。


 「よいしょっと……いや〜ちょっと道に迷っちゃっ……」


 体起こし、視線を前に向ける。目の前にいたのは、15歳くらいの少女だった。白と黒を中心とした服に、フワッとした少し大きめなスカートを履いた、所謂ゴスロリ衣装。その姿からは、息を飲むほどの気品が漂っていた。


「……しかも白髪のツインテール。あれ、もしかして……『主人公』ですか?」

「……本当に大丈夫ですか?」


 いけない。あまりの美しさと、「THE異世界」な服装に我を失っていた。

 というか、このタイミングでこのイベントということはまさか……?


「あの、もしかして『仲間』ですか?」

「大丈夫ではなさそうですね。良い医者を知っています。この森を出られたら紹介しますので、それまで頑張れますか?」


 うん、完全に変人扱いされてる。言い訳すると、本当に信じられないほど目の前の少女が可愛すぎて、動揺してる。そして初めて異世界を実感したことに感動してる。


「いえいえ、大丈夫ですマトモです!」


 とりあえず、なんとか会話を繋がないと……。

 くっ、生前にもう少しコミュニケーション能力を高めておけばっ!


「ところでここってどこなんですか? 道に迷っていて……」


「……ここはハニーノ森の、おそらく中心部です」


 さっきのサポートシステムと同じ返答。どうやらここはハニーノ森で間違いないようだ。

 まあ、名前が分かったところで何の意味もないんだけど。


「近くに街とかってあります? とにかく、近くでいいんです」

「1番近くだと、北西の方にカラグという国があります」

「本当ですか!?」


 希望が見えてきた。まず街へ向かい。その後は冒険者ギルドへ。チート能力で大活躍して、稼いだお金で異世界ライフを満喫。ああ、大成功するビジョンが見える、よく見える。


「ありがとうございます! とりあえずそこを目指してみます!」

「……この森は視界が悪いですし、かなり入り組んでいます。徒歩で行く場合、早くて4日、長ければ1週間以上はかかるでしょう。それに、凶暴な魔物がたくさん潜んでいますよ? 本当に大丈夫なんですか?」


 1週間!? 凶暴な魔物!? ……無理だ。現状一般ピーポーの私には到底生き残れない。


「もう死ぬしかないじゃない……」

「……そう落ち込まないでください。実は私も丁度その街に用事があります。よければ同行しましょうか? こう見えてもある程度の戦闘、サバイバル知識は身につけています」


 て、天使か……?

 いや待った、ここまでの流れを見るに、異世界だからといってラノベのように都合良くいかないというのは身に染みて感じている。きっとこの少女の提案にも何か裏が……。


「嫌なら構いません。私は1人でも大丈夫なので。あなたが魔物の食料になっても、私には関係ありませんし」

「…………ぜひお願いします…………」


 そもそもこんな美少女が人を騙したりしない。うん。いや、むしろこの子に騙されて死ぬなら本望……?


「分かりました。それではこれからしばらく、『仲間』ですね」


 『仲間』……なんて素晴らしい響きなの……。


「私はシスティアと言います。よろしくお願いします」

「じゃあシスティで。 私はアカネ、よろしくねシスティ」


 システィアと名乗った少女の方に手を伸ばす。あまりそういうの好きじゃなさそうだから、拒絶されるかも……?

 

「……そんな呼び方をされたのは生まれて初めてです。まぁ、別に構いませんが……」


 そういうと、システィは少し照れ臭そうに私の手をとった。

 ……やっぱり天使だ……。

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