4話 冒険者
「先程も言った通り、カラグという国が北西にあります。ルートはできるだけ魔物の少ないところを通りますが、もし現れた場合は必ず私の指示に従ってください」
「うん、分かった。何か私にできることはある?」
「では、念のため後方の注意をお願いします。私は前方に集中しておくので」
「了解!」
うん、すごくそれらしくなってきた気がする。
「私はチート能力より大切な物に気づいたよシスティ……」
「よく分かりませんが、進みますよ。ついて来てください」
そう言うとシスティは歩き始めた。冒険の始まりだ……!
「はぁ……はぁ……つ、疲れた……かれこれ5時間くらい歩き続けてるんじゃない……?」
「いえ、まだ1時間程度です」
「嘘でしょ……?」
土やら石やら草やらで、足場が悪すぎる。中高文化部の私にはハードすぎる……。
「こんなところで休んでいては一生辿り着けませんよ?」
「う……頑張ります……」
そう、この先には夢の異世界生活が私を待っている、たぶん。ここはもう少し頑張ろう。
「ぜぇ……ぜぇ……ギ、ギブ……」
「……さっきの会話から15分しか経っていませんが……仕方ありません。少し休んでいきましょう」
「かたじけない……」
近くに丁度2人座れそうな石があったのでそこで休憩していくことにした。
私の隣に座ろうとして照れるシスティも見られたので一石二鳥だ。
「そういえばシスティはどうしてこの森にいたの?」
1時間以上一緒にいるけど、私はまだシスティの事を名前しか知らない。折角なのでこのタイミングでいろいろ聞いてみよう。
「それを聞きたいのは私の方です。なぜ森の中心部にいたのですか? 最初のあなたは、かなり動転しているようにみえましたが。」
うっ……その話を掘り返さないでくれ……。
どうしよう。ここは正直に話すべきか、適当に誤魔化すか。いや、これから数日を共にする相手だ。隠し事はやめておこう。
「実は私ね…………こことは違う世界からきたの」
「なるほど、転移者というわけですね。納得しました。」
あれ、思ってた反応と違うんですが。
「驚かないの? もしかして、意外といる? そういう人」
「稀にいるらしいですよ。そういう方が」
おるんかい。普通におるんかい。そういう人。
「そのおかしな服も、転生前の世界の服ということですね。」
「……あー。そういえば制服着てるのか」
いろいろありすぎて、自分の着ている服のことが完全に頭から抜け落ちていた。この世界の人にとってはかなり異質な服だろう。
「この服は『JK』という気高い存在のための服なのよ……。これを着ることのできるのは、私の世界でもほんの一部だったの」
「そうですか。でもこの世界では関係ないので、あまり調子に乗らないように」
「すいません……。」
この世界ではJKだからといって崇め奉られることはないらしい。当然である。
「じゃあ今度はシスティの番。改めて、どうしてこの森にいたの?」
「冒険者になるためです。そのためには、冒険者ギルドで登録する必要があるので」
「冒険者! やっぱりあるのかそういうの!」
「知っているのですか?」
ええ、もちろん! そのための異世界みたいなとこあるから!
「でも、その登録っていうのは私達が目指してる国でしかできないの? カラグ……みたいなとこ」
「いえ、冒険者ギルドは世界各地に、山ほどあります。ギルドのない地域の方が珍しいくらいです。」
「じゃあシスティの住んでた国にもあったんだよね? もしかして、家出とか?」
「家出、とは少し違いますね。この森に私を飛ばしたのは、父の考えなので。」
父に飛ばされた!? このやばそうな森に!?
「もしかして、複雑な家庭だったり……?」
「複雑というか……実は父は国王なんです」
国王!? その娘!? つ、つまり……。
「お嬢様!?」
「……そう呼ばれる時もありますね」
どうりで気品さが溢れ出ているわけだ。美しい立ち振る舞い、丁寧な言葉使い、綺麗な顔立ち……。異世界のレベル高すぎだろ! って思ってたけど、どうやらシスティはこの世界でもかなり特別な存在なようだ。
「小さい頃から冒険者に憧れていました。が、当然反対されていました。まぁ結局、無理を言って条件つきでの許可を頂いたのですが……その条件が、『ランダムで転移した場所から自力でスタートする』というものでした。父曰く、その程度の力のない人間に冒険者は務まらない、だそうです。……簡単に言えば、試されているわけです」
なるほど、それで転移した先がこの森だったというわけか。そして丁度転生してきて路頭に迷っている私を見つけたと。……っていうか。
「お父さん、スパルタだね……」
「そうですね。普通の家庭の父親よりは、厳しいかもしれません。ですが、父の出した条件を飲むためにいろいろ能力を身につけましたし、最終的に約束通り送り出してくれました。今では本当に感謝しています」
「そっか、なら良かった」
夢を追う子と、本心を抑えて背中を押す親……うーむ、良い話だ……。
「ね、冒険者って、私でもなれるの?」
「……ええ、なるだけなら特に問題はないと思いますが」
「じゃあ私も冒険者になるからさ、パーティー組もうよ、2人で!」
「は、はい……?」
システィはかなり驚いた表情で私を見つめている。
「……嫌だった?」
「い、いえ私は大丈夫ですが……大変な仕事ですよ? 魔物と戦うこともあるでしょうし、常に危険と隣り合わせです。……それに、わざわざ堅物な私と組まなくても、きっともっと良い人がいます」
危険なんてむしろウェルカムだ。ファンタジーな世界で、魔物と戦いながら冒険していく。最高じゃん。
それに私には神様に授けられたチート能力もあるんだ、使わずしてどうする。まぁ今のところ発揮されなさすぎて、完全に忘れてたけど。
「それに……私は他の誰でもなく、システィと組みたいし」
森のど真ん中で変人ムーブしてる私に、声をかけてくれて、荷物になるのが分かっていながら手助けをしてくれている。そんなシスティのことを手伝いたいし、応援したい。
「そ、そうですか。あなたがそう言うのなら、私は別に構いません。その……私も少し……心細かったので……」
……顔真っ赤にしてる。可愛いなこいつ〜。
私はモジモジしているシスティの両手を取った。
「じゃあ改めてよろしくね、システィ!」
「ち、近いです! 近いですから!」
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