1話 ご対面
「ふぉっふぉっふぉ。まだ若いのに、残念じゃったのう」
途絶えていた私の意識が、誰かの声で呼び起こされる。おそるおそる目を開けて、辺りを見渡す。
そこには、ただ真っ白な空間が広がっていた。何もないこの空間に存在するのは、私と、そして目の前に座っている長いひげを生やしたおじいちゃんだけ。
「お、目が覚めたかの? ここがどこか分かるかの?」
「え……どこって、たぶん……」
ここに来る前の、最後の記憶を呼び起こす。
そうだ。怜と一緒に登校していて、横断歩道を渡ろうとした時、車が突っ込んできて。
「たぶん……天国、とか?」
「正解! そう、お主は死んだのじゃ」
……やっぱり死んだんだ、私。
「車に轢かれて、ですよね……」
「うむ。そりゃもうとんでもなくグロテスクだったわい。聞きたいか? 死体の状態」
「え、やめときます」
「そうか………………………………こう、膝が逆側に曲が」
「やめときます!!!!」
とにかく、私はもう死んでいて、ここは天国らしい。死んだ実感がなくて、なんだか不思議な感覚だ。
「ところで、わしが誰か分かるかの?」
「いや、初対面ですよね?」
「いーや、お主はわしのことをよく知っておるはずじゃ」
よく知ってる? 私が知ってる、白くて長いひげを生やしたおじいちゃん……。
「……サンタクロース!」
「ボケる余裕はあるようじゃの。安心したわい」
……私は真面目に答えたつもりなんだけど。
「神じゃよ、神。知っとるじゃろ」
「あー! はいはいなるほど!」
ここは天国で、そこにいる長髭のおじいちゃんといえば『神様』だ。
すごいしっくりきてる。
「でも、どうして神様が? なにか、儀式があるとか……」
「……そろそろ、本題に入るかのう」
神様は、途端に真面目な顔になる。
「お主、死ぬ瞬間のことを覚えておるか?」
「死ぬ瞬間……もう何が何だか分からなくて、とっさに怜の背中を押して……」
そうだ、怜はどうなったのだろう。ここにいないってことは……。
「うむ。あの時、二人とも死んでもおかしくはなかった。しかし、お主の機転により、友人の彼女は助かったのじゃ」
「そう、ですか……」
よかった。本当によかった。怜を助けられたのなら、私の人生に何の悔いもない。
安心していると、なぜかおじいちゃんが突然立ちあがり……。
「うおおおおおおおおお!」
「え、怖。え?」
「感動じゃ! 感動したのじゃ! ううむ、やはり女性同士の友情は良いのう!」
いきなり性癖を暴露し始める神様。
神様は懐から大きな本を取り出し、ペラペラとめくる。
「久しぶりに感動させてくれたお礼をさせとくれ。……お主、異世界に興味はあるかの?」
「異世界!? 知ってる、知ってます!」
知っているどころか、聞き馴染みのある言葉だ。徹夜して転生モノのラノベを読み漁るくらい、私は異世界に憧れがある。
ぶっちゃけ、寝る前にそういう妄想もしてます。はい。
「そうかそうか、なら行っ……」
「行きます! 行きたいです」
異世界……うん、いい響き……。冒険者になって魔王討伐か、あるいは辺境でスローライフか、はたまた悪役令嬢になってイケメンをとっかえひっかえするか。
くぅ~! 妄想が捗る! いや、現実になるんだけど!
「うれしそうでよかったわい。怪我の功名というやつじゃの」
「怪我っていうか死んでるんだけど、まぁ幸せなのでOKです!」
「そうかそうか。なら出血大サービスで、『ちぃと』も授けよう」
チート!? いいんですか? 無双しちゃってもいいんですか!?
「よし、そうと決まればこの本に触れとくれ」
神様は手に持っていた本を開いて私のほうに差し出す。
私は本の中心に右手を置いた。
「じゃあいくぞい。……〇×▽$!%#&……」
神様は謎の呪文のようなものを唱え始める。
同時に、私の体が白い光に包まれていく。
「完了じゃ! 気をつけて行ってくるんじゃぞ~」
神様に見送られながら、私の意識は途絶えた。
「…………そういえば本に置く手、本当は左手だった気がするのう。……ま、何とかなるじゃろ!」
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