第25話:トトのお願い
特訓の後の食事は美味しかった。朝や昼以上にバクバク食べてしまった。
「はっはっはっ、男はいいな。気持ちのいい食べっぷりだ。どんどんお代わりしてくれ」
トトパパがご機嫌だった。
食事のこともあるのかもしれないけれど、誘拐事件の方に進捗があったのだろう。
「例の事件のこと、分かったんですか?」
「ふっ、分かるか。きみにも関係があるから教えておこう」
食事の時間なのに、トトパパは珍しく饒舌だった。もっとも、トトパパと食事をするのは2回目なので、どちらが普通なのかは知らないけれど。
「まずは、実行犯は掴まえた」
「はやっ!」
「ふっ、まあ、うちの可愛い娘を攫ったやつだ。トコトンまで追い詰めてやるがね」
こわっ! 本当に大人しめのヤクザなのだろうか。
「改革派を何人か掴まえた。どうも、傀儡のリーダーを準備するみたいだな」
傀儡ってことは、改革派のいう事をなんでもよくきくリーダーってことか。
「でも、それじゃ組織全体に示しがつかないんじゃ……」
「示しがつかないというか、うちの血が入ってないから、それはもう別の組だな。そこで考えたのが、その傀儡男とトトを結婚させる算段らしい」
結婚させようという女の子を誘拐とか、もう支離滅裂だ。
「誘拐して、その傀儡男が助けに入る予定だったらしいな」
そんな昭和の小芝居みたいな……
「しかも、俺たちはヒットマンが命を狙っていたらしい。そいつらも処分した」
「処分」って……聞けば聞くほど物騒な世界だ。どうなったのかは聞かない様にしよう。
「そこまで阻止したのなら、事件は解決では……!?」
「まあ、そうだな。ただ、そのヒットマンの一人はトトを狙っているらしい」
「え⁉ でも、さっきの話だと傀儡男と結婚させるって話じゃ!?」
「まあな。血を入れるってだけなら、植物状態でも構わないからな」
もう俺の常識はとっくに超えた状況だった。好きとか嫌いとかじゃないのだろう。
「そのヒットマンさえ掴まえれば、改革派はほとんど終わりだ。もうちょっとだけ待ってくれよな」
「あ、はい。すいません。お手数おかけします」
「なんでお前が謝るんだよ」
「俺まで守ってもらってますし」
「はっはっはっはっはっ、お前は面白いヤツだな。トトの大切な人なら俺たちにとっても大切な人だろう」
ん⁉ ここに来て誤解が生じているのでは!? 俺とトトが付き合ってるみたいになってないか!?
「お父さん!ヒロくんはそんなんじゃないから!」
「そうかぁ? じゃあ、そう言うことにしておこうか。はっはっはっはっ」
ダメだ。これは誤解が生じていて、理解してもらえないやつだ。
***
食事の後、俺が寝泊まりさせてもらっている客間にトトがきた。
「ごめんなさい!お父さんが変なことを言って!」
和室で座って謝っているので、土下座のような状態に……
「いやいやいや、そんな大げさな!」
「巻き込んでしまった上に、すいません。ヒロくんには、ラムさんという人がいるのに」
「ラム? ラムとは付き合ってないよ?」
ラムは、いわばアドバイザーというか、協力者。俺がリア充として振舞えるように色々教えてもらったり、取り計らってもらったり。
「え?じゃあ、エマさんの方?」
「エマとも付き合ってないよ?」
エマはバスケの先生だ。かなり親身になって教えてくれるので、休みの日などちょくちょく一緒に練習したりしている。でも、それくらい。付き合ってはいない。
「え?じゃあ、もしかして、ネコ?」
「どうしてそうなる!?」
ネコは筋肉のチートな使い方を教えてもらっている先生だ。
「ええ⁉ じゃ、じゃあ……」
トトが真っ赤になってしまった。何か変なことを考えているのではないだろうか。急に部屋着の裾を気にしたりして、なんか かわいい動きになってしまった。
「あ、そうだ、これを……」
トトが、仕切り直しとばかりに新品のスマホの箱を目の前に置いた。
「これは?」
「ヒロくんのは、半グレに取られてしまったので、代わりにこれを……」
目の前には最新式のスマホが置かれていた。
「いやいやいや、これは受け取れないよ!第一、トトが取った訳じゃないのに!」
「それはそうなんですが、うちの家の者なのは間違いないので、受け取っていただかないとずっと私は後ろめたいです」
「そうまで言うなら、受け取らせてもらうけど……確かに、無くなると困るものだったし。ありがとう」
「いえいえ、こちらこそ」
なんか変な空気になりそうだったけれど、このスマホでうやむやになった。早速開けて、以前の設定を読み込ませる。これで、以前のスマホに会った情報は全て手元の端末に再現できたことになる。
とりあえず、なごみにあと数日連泊する旨電話したけど、電話の向こうで半眼で睨んでいる なごみが容易に想像できた。そして、教室にいなくて数日休んでいることを知って、電話をかけてくるんだろうなぁ。
俺はこのとき嫌な予感がどの程度当たるのか、あまりデータを持っていなかったのだった。
「あ、そうだ。トトとは秘密の共有をしてなかったな」
ぼんやりスマホを見ていたら、俺は約束を果たしていないことを思い出した。
「秘密の共有ですか?」
「ああ、トトがヤクザの娘ってことを秘密にしてたのを俺は知ってしまったから、俺も秘密を告白するよ」
「え、大丈夫ですよ? 信じてますし」
「善意のヤツより、共犯関係の方が人は信用できる。まあ、これを見てくれ」
俺はたった今 データが復活しつつあるスマホのGoogleフォトの画面を見せた。
そこには、中学生の頃の俺の写真がある。今となっては絶対に知られたくない俺の黒歴史。この情報を共有したら、トトも俺のことを信じてくれるだろう。俺は何とかして、トトの信用を得たかったのだ。
「これは……誰ですか?」
「中学時代の俺だ」
「え⁉ 全く別人じゃないですか! 面影もない」
「所謂、高校デビューで本当の俺は陽キャでもなければ、リア充でもない。ただのラノベとマンガとアニメが好きなオタクだ」
「ええ!? そんなはずないですよ。初日からギャルを
そう思うよね、普通。俺自身 驚いてたからね。
「クラスみんなを連れてカラオケに行ったり、食堂で3年生のスペースを確保しちゃったり、バスケ部の先輩と互角にバスケ勝負したり……嘘だー」
トトが疑いの目を向けてきた。
カラオケはラムと特訓したし、なにより人を集めたのはラムだ。
バスケしか練習してないから、たまたまバスケはちょっとだけできただけ。しかも、エマに特訓してもらったし。
「クラスの女子の人気を集めてて、それだけじゃ飽き足らず、隣のクラスの『大和撫子の君』まで篭絡したというヒロくんが!?」
俺、メチャクチャ評判悪くない!? あと、その「大和撫子の君」ってなごみのことで、妹だから。そりゃあ、クラスメイトよりは仲が良いよね⁉
「顔も違って、髪型も違って、体つきも違うってどうやったらそんな高校デビューできるんですか」
「努力?」
「何故、疑問形なんですか。ホントに……」
トトは笑っていた。とりあえず、俺の恥ずかしい過去は暴露した。これで俺はトトの信用を得ただろう。トトが教室内で不安を抱かなくてよくなったはず。
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