第6話:ラムの答え合わせ

 新しく入学した高校のクラスメイト男女15人とカラオケに来てしまった。

 俺は高校デビューの本当は非リア、ボッチ。


 見た目だけは整えて来たけれど、立ち居振る舞いや言動はボッチの時のまま。

 そこで、サポートに入ってくれているのがクラスの白ギャルのラム。


 俺はこの日、みんながジュースを次に行ったりして席を外した瞬間にフライング気味に1曲目を歌い始めた後、横のヤツと話したり、女子とも話してみたりした。

 これはラムの指示だった。



 そして、2回目の俺の歌う番が回ってきた。

 何を歌おうかと迷いつつも、俺が選んだのはこれだ。



 BUMP OF CHICKENの「Hello,world!」



 やっぱりアニソンで、血界戦線のテーマソングだった。



「「「おおー!懐かしい!」」」



 俺が中学の頃にヒットした曲。

 同級生にとってもちょっと懐かしい曲となっている。

 それでも最新曲だと知らない人もいる。

 これくらいのヒット曲でノリがいいと、何となくみんなノれる。


 本当はガンダムのテーマソング「Survivor(BLUE ENCOUNT)」と迷ったけど、女子もいるからブルエンよりパンプかなと思たのだ。



 みんなにも概ね好調。

 ここでも「アニソンでも大丈夫」というラムのアドバイスが利いている。

 チラリとラムの方を見たら、サムズアップしている。

 これで良かったらしい。


 結局、誰が誰で名前も覚えていないけど、カラオケは盛り上がった。

 先に料金を回収したラムが会計の手続きをしてくれた。



 時間はまだ18時ごろ。

 四月の18時は少し暗くなってきた感じの時間。

 それでも、ずっと暗めの部屋にいたので、外に出たら明るく感じる。

 同時に、時間の感覚がズレていたのが修正された。

 今はまだ夕方だ。


 ビルの1階で みんなに別れを言ってこの日は解散した。

 俺は何とかリア充っぽく振舞ってカラオケを乗り切った(?)

 これで良かったのか分からないけど、とにかくやり遂げた。


 自転車があるので、みんなを見送って自転車のカギを開けていた。



「ダーリン♪」



 この声はラムだ。

 会計を済ませて降りて来たらしい。



「ラム、お疲れ」


「お疲れだっちゃ。この後いい?」



 なんか嫌な予感。

 呼び出しっぽくて ちょっと緊張した。

 白ギャルの呼び出しとか、これまでの俺なら悪いイメージしかない。

 それでも、俺の中のヒーローはそんな事では臆したりはしないはずだ。


 ラムの提案で再び自転車の二人乗りで河原に行った。


 着いたのは二級河川だか何だかの川幅30mはあるだろう大きな川「室見川」。

 福岡市の水源となる曲渕ダムから博多湾に注ぐ川で、その両脇にはジョギングコースが整備されていて、ところどころに小さな公園やベンチがあった。


 俺たちはそのジョギングコースの脇に設置されたベンチに座った。

 小腹が空いたので、コンビニで買った肉まんを頬張っていた。



「1曲目、なんでみんなが揃ってないのに歌い始める必要があったの?」



 俺が聞いた。

 ラムの指示で部屋にみんな揃っていない状態で1曲目を歌い始めたのだ。

 みんなに歌を聞いてもらうためには、みんな揃ってからの方がよかったのではないかと思っていた。



「それはね、慣れてるっぽいから」



 俺には彼女のいう事が分からなかった。



「カラオケに慣れてたら、みんな揃ってから せーのでスタートとかせんやろ?」



 なるほど。少し分かった。

 俺がカラオケに慣れているように演出するために、周囲を意識していない様に演出するために、フライング気味に歌ったのか。



「あとね、無意識にヒロに頼るようになるよ」


「あれで!?」



 ラムの話によると、切り込み隊長は精神的に重たいらしい。

 それを易々と こなしたので、肝が据わっていると勘違いしてくれるという効果があるとのこと。


 しかも、みんなが引き受けたくないクラス委員も引き受けている。

 もしかしたら、カラオケの予約もそれに含まれるのかもしれない。

 無意識にみんなの中には 俺は積極的なヤツだと誤解させることができているというのだ。



「明日から面白くなるよー♪」



 ラムが にんまり笑っている。

 悪いことを考えている時の顔だ。

 俺は本能的に身構えてしまった。



 ***



 翌朝のラムの指令はこうだ。


『明日もデカい声であいさつしながら教室に入ること』


 まあ、また空振りでもラムがいるから滑った感じにはならないだろう。




 翌日の教室では、思い切ってデカい声で挨拶をしてみた。

 いや、昨日のちょっとした変な空気は敏感に感じていたから、少しだけ控えめだったかも。

 毎日ラムしか挨拶してくれない場合は、ラムに聞こえるだけの声で十分ってことになるし。



「はよー!」



 ありったけの空元気と作り笑顔を総動員して教室に入った。



「あ、おはようヒロ。昨日は楽しかったね!」


「だな!また行こう!えーっと……」


「僕はイツキ」


「あぁ、イツキまた行こう!」



 例のイケメンくんが挨拶してくれた!

 少女漫画から飛び出してきたような貴公子。

 線が細く涼しい目のイケメン。

 名前はイツキか。



「ヒロー!おはようー!」


「おぉ、おはよ」


「私は朝比奈英舞あさひなえま、エマって呼んで」


「あぁ、よろしくなエマ」



 今度は 昨日話したショートカットの女子!

 この子も大概可愛いな。

 背はメチャクチャ小さいけど。

 多分、150センチちょっと位だろう。


 さっきのイツキが名前を名乗ったから、その流れでエマも名乗ってくれた。

 名前 覚えるのが大変だ。

 ちなみに、俺は頑張って2人くらいしか覚えられない。

 多分聞いても、後でまた聞いたりしないといけない感じ。



「おっす!ヒロ、今日の昼一緒に飯食わね?」


「ああ、いいね」


「俺はノリタカ」


「よろしく。ノリタカ。昼は食堂?」


「ああ、そのつもり。お前は?」


「俺も食堂。よろしくな」



 なんか脳筋感満載で熱いヤツそうだけど、悪い印象じゃない。

 スポーツマンって感じで好印象。

 彼がノリタカか。




「モテモテじゃない?ダーリン」


「俺をダーリンと呼ぶなよ。誤解されるわ」



 こちらはラムだ。

 この状況を予想していたのか、ニマニマ見守ってくれている。

 確かにお前の言う通りだったよ。

 挨拶しただけで、いっぱい返事が返ってきたよ。



「あと、えっと、おはようございます。ヒロくん」


「おはよう!」


「……」


「……」


「トトです」


「おはようトト」


「おはようございます」



 なんか ふつー!癒される感じに普通。

 髪も肩くらいまでで校則に適合してそう。

 メガネで何となく委員長タイプ。


 きっと素の俺が話すとしたら、一番話しやすいタイプだろう。

 トトも名前を覚えておこう。



「はよ」


「おう、おはよ」



 こっちも小柄なショートカット女子が挨拶してくれた。

 無表情なんだけど、怒ってるんじゃないよね!?



「えーっと、名前を教えてよ」


「ネコ」


「ネコ!? よろしくなネコ」


「ん」



 この子は無口だな。表情も読めないし、名前もネコって本名だろうか。



 個人的に気になる子はもう一人いるんだけど、その子は全然無反応。

 むしろ一人でいる感じ。

 孤独というよりも孤高。

 誰ともつるまない感じ。


 その子は黒髪ロングで、表情で言うなら「困ったなぁ」って顔をいつもしているような子。

 物語ならばヒロイン枠かもしれないけれど、俺の物語ではヒロインになってくれなかった子だ。

 名前は、ヒカル。

 俺のトラウマの原因となる子。

 まさか、同じ学校の同じクラスになるとか……神様がいるなら本当に運命じゃないかと思ってしまう。


 今の姿を見せるのは初めてだけど、挨拶くらいはしておきたい。

 頑張って挨拶くらいはしておこうと思う。



「おはよ」


「……」



 彼女は机に頬杖で外を見ている。

 こちらを向いてすらくれていない。



「ヒカル、今度は一緒にカラオケ行こうぜ!」



 自分の中のヒーローをフル稼働させて彼女に明るく言ってみた。

 彼女の名前を呼んだので、一瞬こちらを向いてくれ、目が合った。

 時間にして、1秒か2秒。


 そのまま彼女は何も言わずに窓の外に視線を移してしまった。


 まだ今の俺では経験値不足らしい。

 尻尾を巻いて すごすごと自分の席に着く。



「ダーリン、浮気だっちゃ?」


「ちげーから」



 そもそもいつから師匠ことラムが妻になったのか。

 彼女のようなリア充のジョークは、俺みたいな非リアには過激すぎる。



 その後、たくさん挨拶されたけど、名前を憶えられたのは数人だけだった。

 本当の意味で「いつものメンバー」が固まったのは、昼休みの昼食の時間だったと思う。



 ***



「おーし!食堂行くか!ヒロ!」


「おお!」



 4時間目のチャイムが鳴ると同時にノリタカが言った。



「ボクもいいかな」



 イケメン貴公子のイツキだ。



「もちろん!」


「私もいくー」



 元気に話に入ってきたのはショートカットで背の低いエマ。

 無言で ついてきているのはネコ。



「トトも一緒に食堂行かね?」


「え?あ、わたっ、私、お弁当だから」


「弁当持ち込みOKらしいよ?」


「え?そうなの?じゃ、じゃあ……」



 すぐ横で わたわたしていたので、トトにも声をかえた。

 弁当箱を持って一緒に行くらしい。


 ラムに目線を送ると目が合った。



「もちろん、ウチも行くに決まっとろー」



 そう言うと、カバンから可愛い がま口を取り出した。

 いまどき がま口って。


 ちなみに、ヒカルに視線を送ったけれど、いつの間にか教室からいなくなっていた。

 結局、


 脳筋、ノリタカ

 貴公子、イツキ

 白ギャルで師匠、ラム

 普通の子、トト

 無表情ショートカット、ネコ

 ショートカット元気っ子、エマ


 そして俺の7人グループができ上がったのだ。



 ***



 学校の食堂には、学校の食堂のルールがあるらしい。

 広い食堂には、長机がたくさん並べられている。


 商品が提供される厨房に近いほど、3年のテリトリーらしい。

 受け取ってすぐに座れるからだろうか。

 長机が10列ほどが3年のテリトリー、次の10列が2年。


 そして、一番遠い10列ほどが俺たち1年のテリトリーらしい。

 各学年は上履きの横のラインの色で判断できる。

 こういう時は、その場のルールをいち早く察して、空気を読むのがトラブルを避ける一番の方法。

 いうならば、俺の処世術だ。


 ラムが、注文したサラダうどん(360円)を受け取るや否や、一番上座のテーブルにトレイを置いた。

 俺は移動を促そうと思って、ラムの近くに近寄る。

 それを見た他のメンバーが次々とテーブルにつく。


 そうなると、俺も座らない訳にはいかなくなった。

 吹き出す汗。



「あ、水取ってくるねー」



 ラムがウォーターディスペンサーから人数分の水を持ってきてくれるようだ。



「なあ、ヒロ」


「なに?」



 ノリタカがカツカレー(590円)を前にして聞いてきた。



「お前、ラムと付き合ってんの?」


「いや……」



 なんて言えばいいんだ?

 彼女は俺の師匠? いや、協力者?

 どっちにしても、彼女の説明をしようとしたら、自分が本当は陰キャボッチであることを告白しないといけなくなる。



「んーと……」


「はい、ヒロ。水」


「あ、サンキュ」



 ラムが水を持ってきてくれた。



「はい、お箸」


「あ、サンキュ」



 俺は唐揚げ定食(490円)だけ持ってきて、箸は取り忘れていた。

 テーブルの上の箸立てからラムが一膳取ってくれた。



「何その妻感?」


「「「うん、うん」」」



 なんか みんなが妙に納得しているけど……ちゃんと水はみんなの分をトレイに乗せて持ってきてくれているのに。



「じゃあ、食べようぜ!」


「あぁ」


「「「いただきまーす」」」



 なんかゴチャゴチャして どこの席に座るのか問題なんて忘れてた。

 とにかく、みんなでご飯を食べ始めた。



「なあ、みんな部活は?」



 ノリタカが口にカレーを付けたまま聞いた。



「アタシ、バスケ部!ずっとバスケやってたから」



 ショートカット美少女はエマ、部活美少女エマだったか。

 イメージ通りというか、なんというか。



「マジか、俺もバスケやってた!男バス見に行こうと思ってた」



 ノリタカもバスケやってたのか。



「昼休み、体育館行ってみねー?バスケできるかも。1ON1とか」


「嫌だよ。身長差考えてよ!」


「んだよ。手加減してやるからさ」


「だから嫌なんだよ。やるなら全力でやりたい」



 彼らはバスケという共通点を見つけ出したようだ。

 これは嬉しいことでもあり、「僕」にとっては危機でもあった。


 その問題が早速、この食事の後、昼休みに浮上してくることになる。

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